第4回の趣旨
第4回ナンバーワンブランド研究会では地域企業におけるブランディングについての先進事例を学ぶため、新潟県燕三条に訪問した。
燕三条は古くから金属加工技術の集積地である。低湿な土壌で信濃川の氾濫が多く、農業ができなかった経緯から江戸時代初期に当時の代官が農民救済のために江戸の鍛冶職人を派遣し、釘の製作を奨励したことが燕三条における金属加工の始まりである。加えて1700年代に近郊の弥彦山から銅が産出されるようになったことから、金属加工業として発展を続け、現在に至る。
今回は度重なる苦難を自社固有の技術を磨き上げることで乗り越え、今も絶えず自社のブランドを進化させ続けている株式会社玉川堂、株式会社ハイサーブウエノの2社に講演いただいた。
開催日時:2024年4月18日(新潟開催)
代表取締役社長 小越 元晴 氏
株式会社ハイサーブウエノは1969年創業の厨房用機器製造メーカーである。
工場の24時間稼働体制、厨房機器製造に特化した技術者集団、顧客ニーズに応える生産体制が同社の強みである。従来は回転寿司システム製造メーカーとして特許を持ち、大手回転寿司チェーン店と共同で製品開発を行っていたが、価格競争の激化による経営悪化を機に事業転換を行い、厨房機器製造メーカーへと生まれ変わった。
現在では大手外食チェーンを中心に厨房機器の開発・設計・販売を行っている。
度重なる危機の中でも自社の強みを磨き続けることで、競争の激しい外食業界の中で自社が選ばれ続けるための「中小企業だからできる事業ドメインを絞り込んだリードユーザー戦略」について、代表取締役社長の小越元晴氏に講演いただいた。
ハイサーブウエノ本社・工場の様子
小越氏は社長就任後に、3度の経営危機を経験している。1度目は大手回転寿司顧客との取引停止、2度目は大口顧客のMBOによる受注減。3度目は東日本大震災による自社・飲食業界への風評被害である。
特に1度目の危機は深刻であり、主力事業の業績悪化により社員の3分の2が退職、債務超過2.5億円という状況に。製造現場の技術力が低下することによってクレームが絶えず発生するという事態に陥った。
このような状況下、当時の主力事業であった回転寿司事業からの撤退を決断。社長自身が新規開拓に取り組み、即時業績回復を狙った仕事の受注に取り組んだ。経営においても、売上1社25%以下、手形払いの新規取引の廃止、新卒採用の毎年実施といったルールを設定。
自社の危機の際に、トップ自身が主力事業からの撤退を決断し、変革を行ったのである。
ハイサーブウエノ本社・工場の様子
会社理念の「我々は額に汗して一所懸命働く人間が幸せになる手本となり、世の中に幸せを分け与え続ける」を実現するために、「やらないことを決め、今あるものを捨てることで欲しいものが見えてくる、そしてビジョンを語る」という信条を追求した結果、以下の3つが自社の強みとなった。
1.世界一の安全品質
17歳の女の子が濡れた手で触っても、手を切らないという明確なペルソナ設定
2.スピード対応
中小企業だからできるスピード対応。燕三条の板金加工技術を活かした開発力
3.飲食業界からの信頼
大手外食チェーンから開発・生産依頼が来ること
ハイサーブウエノの両軸のビジネスモデル製造から出荷まで一括受注を可能にしたシステム構築
「縮小するマーケットの中で社員(仲間)が幸せに働ける会社を作りたい」というブランドビジョン実現のため、独自のバリューチェーンを構築している同社。大手外食チェーン80万店のうち、6%をターゲットとしたリードユーザー戦略を取ることで、自社を「外食店の課題が日本一集まる厨房板金工場」としている。
また、飲食店が課題とする生産性向上、3K作業の削減に向けた製品をリードユーザーとの共同開発から製造、出荷まで一括受注するシステムを構築し、DX化や人材育成によってさらに磨きをかけることで、大手外食チェーン店からの案件獲得にも成功している。
自社のブランドビジョンを判断基準とし、事業において「やるべきこと」「やらないこと」を明確にすることで、強みである「世界一の安全品質」×「スピード対応」×「飲食業界からの信頼」を追求し続けている。
3K作業削減のため、大手外食チェーンと共同開発した清掃レスのグリストラップ