第1回の趣旨
タナベコンサルティングの『成長M&A』実践研究会では、M&Aのモデルを確立している企業から、独自のM&Aノウハウと業種の特徴を取り入れた事例を学ぶ場を提供。M&Aを活用した成長戦略を実現し、自社の企業価値を向上させるための道しるべを提示している。
第1回のテーマは「M&A×事業戦略」。ゲスト講師2社(ヱトー、精研)による講演から、事業戦略構築の手段としてM&Aを積極的に活用する方法を学んだ。
開催日時:2024年2月20日~21日(東京開催)
代表取締役 白鳥 岳志 氏
帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2023年)」によると、全国・全業種約27万社のうち、後継者不在率は53.9%(前年比3.3pt減)と過去最低を更新。“後継者不在問題”は改善傾向にある。しかし、後継者への引き継ぎ準備ができている会社はどれだけあるだろうか。
今回の講演では、2005年に突然の事業承継を経験した精研の代表取締役・白鳥岳志氏に、事業承継とM&Aの類似点や、M&Aをする際の買い手・売り手の心情などを踏まえた成功ポイントを伺い、M&Aを事業戦略の中核として活用した事例を紹介いただいた。
精研は、IT機器・家電製品・自動車などの最先端機器に使用されている電子部品の品質保証に不可欠な検査機器を開発・設計するメーカーである。同社は確固たる目的のもと、複数のM&A実績を重ねている。
図表出所:精研講演資料 精研のM&Aの沿革
「準備をしていない状況での事業承継はM&Aと似ている」と白鳥氏は言う。現経営者はM&Aにおける売り手、後継経営者はM&Aにおける買い手に境遇が似ている。この実体験を踏まえ、売り手・買い手が留意するポイントは右下の図表の通りである。
白鳥氏がM&Aにおいて最も大切にしているのは、売り手に対するリスペクトである。M&Aは会社同士が兄弟や親戚のようになることであると捉え、「子会社」「グループ会社」とは呼ばず、リスペクトを持って接している。
また、「どこか良い会社はないか?」「何でも良いから良い会社を」という考えでM&Aを行うのも良くない。M&Aで大切なポイントは、右上の図表の5つである。
精研のM&Aには、確固たる目的がある。例えば、1社目(メッキ業)の目的はBCP(事業継続計画)だ。同社の製品にはメッキ技術が欠かせない。しかし、当時は沿岸部にあるメッキ会社に100%発注していたため、「海なし県のメッキ会社」のM&Aを行った。
2、3社目(基板実装・基板設計)の目的は内製化である。基板実装会社と基板設計会社をそれぞれM&Aした後に合併し、設計から製造まで自社で行えるようにした。
4社目は、初めての仲介会社からの案件だったが、客先であり競合でもあった基板検査治具製造業をM&Aした。
5社目以降も、世界シェアの獲得、製造外注費の内部留保、ウェブマーケティング、社会貢献など、常に目的を明確に売り手を探し、計10社のM&Aを実行している。
精研の主力製品であるプローブピンは、電子機器の品質保証に不可欠