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研究リポート
建設ソリューション成長戦略研究会
人件費・資材の高騰、地方の衰退など、外部環境の変化に合わせて提供価値を進化させている企業を研究し、建設業界の発展に寄与する機会を作っています。
研究リポート 2024.04.23

建設業界のサステナビリティ促進につながる極薄コンクリートの魅力 HPC沖縄

【第4回の趣旨】
建設ソリューション成長戦略研究会では、秀逸なビジネスモデル・経営ノウハウを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会と、経営改革・業務革新のヒントを提供する。昨今は、経済的価値(技術・請負金額・工期などを通じて顧客に提供する価値)と社会的価値(人的資本の充実、地球環境配慮など社会課題の解決に資する価値)を組み合わせた経営が、高収益ビジネスモデルを実現する鍵となる。
第4回は、コンクリートの常識を覆す製品開発で業界にイノベーションを起こしたHPC沖縄と、創業70年を超える沖縄の総合建設業・福地組を視察し、それぞれの取り組みについて講演いただいた。

開催日時:2024年3月26日~27日(沖縄開催)

 

 

HPC沖縄
代表取締役 阿波根 昌樹 氏

 

 

はじめに

HPC沖縄は、2014年に創業したベンチャー企業であり、「ハイブリッド・プレストレスト・コンクリート(HPC®)技術」を活用した超薄肉コンクリートの開発・販売を行うファブレスメーカーだ。HPC®とは、鉄筋(PC鋼材)の代わりにカーボンワイヤーでプレテンションをかけた薄くて強い建材である。強度はそのままに最小38mmまで薄くでき、鉄筋コンクリートでは難しかったさまざまな使い方が可能となる。

 

コンクリートという素材に対する一般的な常識・イメージを覆す同社のユニークな製品は、従来のコンクリート製品が持つ課題を克服するだけでなく、その特性によって社会のサステナビリティにも寄与する可能性を秘めている。そして、その可能性は、同社および同社製品を利用する会社にとって、新たなビジネスチャンスを生み出すきっかけとなる。

 

同社も、知財・技術・製品の提供範囲を沖縄にとどめず、全国はもとより海外にも提供しようと取り組んでいる。

 

 


 

まなびのポイント 1:HPC®の仕組みと特徴

HPC®は、プレストレスト・コンクリートの進化形とも言える製品だ。緊張材となるカーボンワイヤーにプレテンションの緊張導入を施し(メカニカルプレストレス)、Fc60の高強度コンクリートに短繊維補強材と膨張材(太平洋ハイパーエクスパン)を打設する。膨張材と水の反応により水酸化カルシウムの結晶が成長し、コンクリートが適度に膨張することによりケミカルプレストレスを獲得する。

 

この技術により、厚さ38mm(推奨は50mm~)という、従来では考えられない薄さのコンクリート製品が可能となり、構造物の大幅な軽量化に成功。従来品の最大の弱点である「重さ」を克服したことで、建築コストの低減に多大な貢献をもたらした。

 

 

 

 

まなびのポイント 2:沖縄県特有の課題から生まれた技術

沖縄県は高温・多湿で台風被害が多く、周囲を海に囲まれている。その気候風土や地理的特性が、「住居を含む多くの建物がRC造」「花形ブロック(穴あきコンクリート)」であるという独特の都市景観を生み出した。一方で、塩害によるコンクリートの劣化・爆裂と、それによる事故という問題をも引き起こしていた。

 

HPC®はさびる素材を使用しておらず、塩害に強いコンクリートである。また、軽量化とともにしなやかである(柔軟性が高い)という特性も持つため、デザイン性・耐久性に優れ、従来のコンクリートでは実現できない意匠が可能となった。

 

この技術が認められ、同社は2023年に「第9回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞」を受賞。特に「自由度の高いデザイン性」「塩害・台風・地震に強い」という特長と、グローバル展開の可能性の高さが受賞理由である。実際、同社は既に、HPC®技術の海外輸出を視野に入れた取り組みを行っており、今後の飛躍的成長も期待されている。

 

 

 


那覇市の劇場「那覇文化芸術劇場なはーと」(上)や、那覇商工会議所「中小企業振興会館」(下)にもHPC®技術が使われている

 

 

まなびのポイント 3:顧客の差別化ポイントとなる製品を提供

同社の製品は、化粧板(ルーバー)などとして、既に多くのコンクリート構造物に採用されている。沖縄県では、今回の研究会で視察した「那覇文化芸術劇場なはーと」の他に、豊見城市役所、中小企業振興会館、那覇バスターミナル、大手企業の店舗やホテルなどに同社製品が使用されている。

 

さらに、同社はHPC®をネガティブエミッション(大気中の二酸化炭素を回収・除去する技術)に活用すべく、研究開発を進めている。その一つが「ブルーカーボン生態系創出用HPC®板状礁」で、同社の製品を海洋中で使用し、藻場礁の再生につなげる試みだ。

 

同社は独自性にあふれるコンクリート技術の開発により、「建設会社の差別化提案を可能にする製品」を提供するとともに、社会に対して「脱炭素社会の実現に向けた新たな可能性」をも提供している。

 


「那覇文化芸術劇場なはーと」の視察と阿波根氏による解説