【第1回の趣旨】
タナベコンサルティングの『成長M&A』実践研究会では、M&Aのモデルを確立している企業から、独自のM&Aノウハウと業種の特徴を取り入れた事例を学ぶ場を提供。M&Aを活用した成長戦略を実現し、自社の企業価値を向上させるための道しるべを提示している。
第1回のテーマは「M&A×事業戦略」。ゲスト講師2社(ヱトー、精研)による講演から、事業戦略構築の手段としてM&Aを積極的に活用する方法を学んだ。
開催日時:2024年2月20日~21日(東京開催)
企画グループ グループ長 兼 営業企画室室長 兼 海外営業部 部長代行 園田 泰弘 氏
はじめに
ヱトーは、精密メカニカルパーツから自動化設備まで、幅広い産業をサポートする技術提案型商社である。1913年の創業以来、100年以上にわたり、ねじをはじめとする機構部品、金属部品、成形品といった製品をさまざまな産業に供給している。
2015年5月に極東貿易株式会社の子会社となり、グループの一員として再出発。多種多様なニーズに対し、最適な商品を、最適な地域で、最適な品質と価格で提供している。
今回の研究会では、商社におけるM&Aの取り組みと戦略について、実例を交えながら、M&Aの実務者が対象企業を評価するポイントについて講演いただいた。
まなびのポイント 1:M&Aの目的と対象企業
①事業拡大のためのM&A
同社は、同業・卸売業のM&Aを主体に検討している。かつては取り扱い製品の拡充や新規市場への参入を目的に、製造業のM&Aも視野に入れていたが、製造業をマネジメントする人材の問題や、サプライチェーンへの影響などを考慮して途中で断念するケースが多く、積極的には検討していない。
②業務効率化のためのM&A
同社が外注に頼っている業務の内製化を目的としたM&A戦略である。専門会社をM&Aすることで、それぞれの業務レベルの向上はもちろん、人材確保や事業拡大の側面もあり、検討対象としている。
まなびのポイント 2:対象企業のポイント
①評価項目
まずは、対象となる企業の売上高と利益から企業規模を計り、売り主の売却希望金額から、投資金額を算出した上で、純資産と比較してどのくらい“のれん”が発生するかを概算する。そして、対象企業の将来性、新規性、人的資源、資産、技術力、ブランド力などを考慮して“のれん”に見合う内容かどうかを判断したのち、運用効率を考える。
その際、マイナス評価の項目がポイントとなる。マイナス評価ポイントが多い企業であるか、少ない企業であるか、不安定な事業であるか、買収したときにどれだけカバーできる内容であるか、などを精査していく。
②シナジー効果は過大評価しない
シナジー効果の実現には時間とリソースが必要であり、想定通りの効果が得られるとは限らない。そのため、買収のメリットを客観的に検討し、リスクを適切に評価する必要がある。
よって、事業計画作成の際はシナジー効果を考慮にいれず、ゼロベースで作成していく。
③赤字企業は対象外
売却を検討している企業からすると、今期の赤字は節税効果を狙ったため、突発的な費用がかさんだためなど、さまざまな理由がある。だが、M&A担当実務者としては、M&Aの交渉が進展するかどうか分からない段階で、対象企業の赤字の理由を分析したり、黒字化させたりするスキームを構築する作業が入ったりすることは、難易度が高い。
④人的資源、資産活用
人的資源に注目する。特に、対象会社の年齢構成、勤続年数、職務範囲を重点的にチェックする。その他、分業ができているか、キーマンに偏っていないか、離職率が高くないかなどもチェックする。また、資産活用という面も、プラス要素としてカウントしていく。