その他 2024.04.01

Vol.101 地域との協業 JR四国

 

 

 

 

JR四国 「TAKAMATSU ORNE」

2024年3月22日にオープンする、高松駅直結の複合ビル。「shikoku meguru marche」に参画する事業者の一例として、上から香川のロロロッサ、愛媛の網元茶屋、高知のDADA NUTS BUTTER、徳島のRISE & WIN KAMIKATZ

 

 

マーケットを「創る」

 

今回は私自身が携わった事例の話をお伝えいたします。

 

2024年3月22日、香川県のJR高松駅に、JR四国の駅直結型複合ビルである「TAKAMATSU ORNE(タカマツオルネ)」がオープンしました。JR四国にとって初めての本格的商業施設で、運営はJR四国ステーション開発が担当しています。

 

私が企画監修として関わったのは、このビルの1階のほぼ中心部分に展開する「shikoku meguru marche(シコク メグル マルシェ)」というゾーンです。JR四国ステーション開発による直営事業であり、四国4県の食関連商品を1000アイテム以上取りそろえる物販ゾーンです。

 

私が企画監修役に就いたのは2019年。最初の会議に臨むに当たって、「相当に大変な仕事になるぞ」と緊張したのを覚えています。

 

まず、こうした駅直結型の地産地消型商業ゾーンは、すでに各地に存在しており、凡庸な商品ラインアップでは、大半の消費者にとって既存の土産物店との差異を感じない可能性があります。

 

次に、立地です。四国の玄関口とも言えるJR高松駅直結ですから、条件は良さそうに思えます。しかし、その実、高松で買い物客の姿が目立つのは、高松駅近辺よりも、駅から離れた丸亀町商店街近辺、それと郊外にあるショッピングモールです。高松駅の乗降客そのものは多いのですが、商業の中心地とは言いがたい。

 

ただし、好材料もありました。それは、将来的に高松駅のすぐそばに大学キャンパスができるほか、大型イベントを催せる体育館が建設中、さらには外資系ブランドホテルの開業計画もあります。とはいえ、そうした要素にただ受け身で期待を寄せるだけではいけない。

 

初期の会議で私は「マーケットのなかったところにマーケットを創出する覚悟を決めることが必要」と告げました。中庸な商業ゾーンをただつくるだけでは人は振り向かない。だからこそ、「これから次々と完成する周辺施設と一緒になって、新しいマーケットをここに生むのだ」という強い意志が求められると考えました。

 

 

最初に「旗」を掲げた

 

今回のような地域産品を集結させる商業ゾーンを開発する場合、方法は大きく分けて2つあります。

 

1つ目は、その道のプロに委ねる方法。卸売り関連の企業、あるいは地域密着型の商業空間づくりで実績のある企業に、具体的な商品ラインアップの選定を一任する手法です。

 

2つ目は、関係者で地域に点在する食関連の事業者を個別に掘り起こして交渉を進める方法です。

 

今回はどうしたのか。議論を重ねた上で、後者でいくことを決めました。これは大変な判断です。JR四国グループにとってはほぼ未経験の作業となりますし、JR四国グループと私とで各事業者と地道に交渉を積み上げていくわけですから、時間も人手もコストもかかるのです。

 

それでもなぜこんな決断をしたのかといえば、このshikoku meguru marcheの根幹となるコンセプトだけは、最初からくっきりと像を結んでいたからです。

 

コンセプトは次の2つです。「四国の人も知らない四国を」、そして「この商業ゾーンを起点に、顧客が四国全域に興味を抱き、現地に足を運ぶ」です。JR四国グループがつくる商業ゾーンに求められるのは、これ以外にないという確信でした。最初からこの点がまったくブレなかったのは、本当に大きかった。言うなれば「プロジェクト遂行のための『旗』」を端的に掲げ、何かで迷ったら、この「旗」に立ち返ることができたわけです。

 

チームで共有する「旗」が明確ならば、商業空間づくりが得意な企業の力を頼ることなく、自分たちで事業者を探し、交渉を重ね、その「旗」に合致する商品をそろえる方が得策だ、というのが私たちチームの考えとなりました。

 

 

チームで四国を巡る

 

とはいえ、そこからの仕事には時間がかかりました。そもそも、「どのような事業者に声をかけるのか」から始めたわけですから当然です。

 

ただし、方針ははっきりしていました。「自分たちが自腹で食べておいしかった店だけに、交渉しよう」というものです。これは、簡単なようで実は難しい。四国には驚くほどにおいしい実力派の食材や商品がありますが、そうしたものを作っている事業者は、必ずしも商業施設への参画に積極的とは限らないからです。作れる数量が少ない、また、自身の手を離れた第三者(今回でいえば私たち)に大事な商品を委ねることを良しとしない事業者は多いからです。

 

それでも、四国各地へと交渉に赴いて、断られる事業者はほぼ存在しませんでした。50件ちょっとの事業者に声をかけ、結果的に断念したのは3、4件ほどです。つまり9割超の事業者は、商品を出すことに快く応じてくれました。

 

今から思えば、ここまでの成果にできたのは、まず、よそに委ねることなくチーム自身で動いたこと、コンセプトに各事業者が共感を寄せてくれたことが大事だったのだと深く感じています。「これまでありそうでなかった商業ゾーン」「そういう狙いならば、私たちは参画します」と返答してくれた事業者が相次ぎました。

 

 

参画事業者が心待ちに

 

そしてもう1つ。参画する事業者の情報をプレスリリースなどで発表する度に、それぞれの参画事業者が「あそこのお店も出るんですね」と喜んでくれたのが印象的でした。それは取りも直さず、私たちの掲げていた「旗」通りの商業ゾーンに仕上がっていることの証しであると思っています。

 

参画事業者の事例を少しだけお伝えしましょう。

 

1つ目は知る人ぞ知る(四国の人でも未知の人は多いはず)愛媛県の愛南漁業協同組合は、わざわざ開発した新商品『アコヤ貝柱のアヒージョ』を引っ提げて登場しました。2つ目は同じ愛媛の無茶々園も、限定のオリジナル商品『二日酔いの朝専用ジュース』に地域特産の柑橘をブレンドして開発。ほかにもリアル店舗を持たない(でも熱烈なファンが支えている)スイーツ工房である、高知のポワリエ・ショコラや、徳島のtaberu.が参画してくれました。

 

また、物販ゾーンのすぐ隣には、和三盆ラム酒の馬宿蒸溜所がスタンディングバーを開設。ラム酒の蒸留所が外にバーを開くのは、日本初の試みのはずです。そして、毎週日曜日の朝には、全国にその名をとどろかす寿司中川の親方が特別に出店してくれます。

 

商業施設は生き物です。オープンからが本当のスタート。ここで気を抜かず、「旗」を掲げ続けられるかが勝負だと考えています。

 

 

 

PROFILE
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北村 森
Mori Kitamura
1966 年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。
製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。
日本経済新聞社やANAとの協業のほか、経済産業省や特許庁などの委員を歴任。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)、秋田大学客員教授。