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イベント開催リポート
タナベコンサルティンググループ主催のウェビナーやフォーラムの開催リポートです。
コラム 2024.03.14

人の成長~新規事業が経営者を輩出する~ ボーダレス・ジャパン

トップマネジメントカンファレンス

FCC(100年先も顧客から真っ先に声をかけられる会社)実現を支援する、経営者のための戦略プラットフォーム「トップマネジメントカンファレンス」(タナベコンサルティング主催、全6回)の最終回が2024年2月に開催された。「トップマネジメント(グローバルとサスティナビリティ)」がテーマとなった今回は、社会課題をソーシャルビジネスで解決するボーダレス・ジャパンの共同創業者であり、代表取締役副社長の鈴木雅剛氏が登壇。「人の成長~新規事業が経営者を輩出する~」をテーマに、社会課題を解決する起業家を輩出し続ける仕組みや、人材育成のポイントについて語った。

 

 

ボーダレス・ジャパン 共同創業者 代表取締役副社長 鈴木 雅剛

 

ボーダレス・ジャパン 共同創業者 代表取締役副社長

鈴木 雅剛(すずき まさよし)氏
1979年生まれ、広島県出身。(株)ミスミ(現ミスミグループ本社)を経て、ボーダレス・ジャパンを共同創業。事業創出、ファイナンス等コーポレート部門、社会起業家のインキュベート、アクセラ等、数々のソーシャルビジネスの創出、成長に従事。また、社会起業家が集い、ノウハウ、資金等関係資産を共有し、ソーシャルインパクトを共創する共同体「ボーダレスカンパニオ」の仕組みづくりを追究。丸井グループサステナビリティアドバイザーや環境省事業委員就任など、企業や行政、教育機関とノウハウ/ネットワークを共有、協働を進め、インパクト最大化を推し進めている。
https://www.borderless-japan.com/fellow/73557/

 

 

社会課題を解決する起業家を輩出し続ける仕組みとは

 

ボーダレス・ジャパンは投資会社や単一の事業会社ではなく、多くの起業家が集まって構成される集団であり、社会課題解決に資する事業を行う起業家を輩出し続けている。

 

具体的には51の事業があり、それぞれのリーダーが事業をけん引している。起業家であるメンバー一人一人の能力をどう伸ばしていくかという点において、私たちの考え方をお伝えしたい。

 

当社は2023年に「SWITCH to HOPE 社会の課題をみんなの希望へ変えていく」というパーパスを新たに制定した。社会課題解決というとNPOやボランティアのイメージがあり、当社の事業は世間から「利他精神が高すぎてハードルが高い」と思われることも多かった。そうではなく、社会全体を巻き込んで課題を解決し、一緒に理想の未来を目指していこう、というポジティブなイメージを伝えるために制定した。そのかいもあって当社のイメージは昨今変わってきており、パーパスの重要性を実感している。

 

 

社会課題には、貧困問題や環境破壊、差別偏見、地域の人口減少など、さまざまなものがある。こういった問題は、言い換えると「収益化しにくく諦めてきた問題」。それをビジネスで解決していくのがソーシャルビジネスである。当社は、今回のトップマネジメントカンファレンスのテーマである「グローバルとサスティナビリティ」を、2007年の創業時から追求し続けてきた会社と言える。

 

例を挙げると、貧困問題を解決するために、バングラデシュで革製品やアパレルの工場を3棟設立し、運営している。従業員の9割が小学校を出ておらず、2割は文字の読み書きができないが、近隣の工場に比べて1.2倍の収入がある。

 

なぜそうしたことが実現できるかというと、私たちの仕事が「単なる支援」ではなく、「一人一人の能力を最大発揮できる仕組みをつくる」ことであり、そこを追求し、ビジネスモデルに織り込み、価値創造して収益につなげているからである。その結果、仕事を通して読み書きができるようになる、学校や保育園を併設して収益モデル化できるようになるなどの成果も見られる。

 

 


BUSINESS LEATHER FACTORY https://business-leather.com
JOGGO https://joggo.jp
Haruulala organic https://haruulala.life

 

 

次に、障がい者の就労に向き合う事業を紹介する。日本において障がい者雇用に向けた枠組みは年々整備されているが、就業率や職場での配慮、当事者たちの特性を生かすことに向き合って仕事をマッチングさせている企業はまだ少ない。

 

そうした中、当社には障がいを理由に挑戦することを諦めたくない仲間が集まり、一流の革職人を目指す工房を設立。一流の革職人として誇りを持って働き、本人の能力を発揮できる場所を提供している(UNROOF)。

 

不登校に向き合う事業もある。無気力だったり、やる気が出なかったりする子どもに対し、オンラインの家庭教師を展開。自己開示する中で気づいた「夢中になれること」に対して背中を押し、自己肯定感向上や成長につなげる内容である(夢中教室)。

 

事業を起こしたメンバーはみんな社長もしくは事業責任者のポジションで、平均年齢は30歳くらい。若い世代が当社にジョインし、自分が解決したい問題に対して自分でビジネスをつくっていく仕組みになっている。

 

ボーダレス・ジャパンには、「社長会」という機関がある。事業を起こす際にはここでプレゼンし、全員一致(現在は51名)のOKが出て初めて起業できる。反対される際もただ反対されるのではなく、提案のウィークポイントなどをみんなで話し合いながら実現を目指していく。

 

 

 

 

「パーパス」を実現する人こそ企業価値の源泉

 

ここからは、事業のライフサイクルと組織の創造性の変化について述べた上で、人をやる気にさせるモチベーションの源泉について考察したい。

 

事業のライフサイクルと組織の創造性について、まず事業の創業期は、規模が小さい分フラットな組織で1人1人の自己判断も多い。自分で勝手に走れる人間が好まれるので、採用傾向はいわば「自立創造型」になる。

 

成長期に入ると、規模は拡大するが効率重視のピラミッド組織になり、誰が仲間か顔が見えない状態になっていく。自己判断の機会が減り、共同決定が増え、採用は「指示遂行型」が増える。

 

成熟期から衰退期にかけては、安定はしているが人員余剰が起こり、機能・役職を細分化する傾向になる。仕事のための仕事が増え、責任の所在が不明瞭になり、変化や失敗が悪となり、事なかれ主義の空気になる。この時期は、行けと言っても走らずニコニコしている「盲目追従型」の採用傾向がある。

 

では、人のモチベーションとは何なのか。下の表は、縦軸が「欲の矛先が自分か他者か」、横軸は「欲が生まれるのが外発的か内発的か」を示しており、モチベーションを4つに分類している。

 

 

日本人に多いのは、「ありがとう」と言われるために頑張る「“ありがとう”要求型」だ。その逆となるのが、周りからどう思われようと自分がやりたいことを貫く「“やりたい”追究型」。そして右上にあるのが、自分の実現したいものが自分の外にあり、それを本気で求めようとする「“理想”追究型」、その逆が「“すごいね”要求型」だ。

 

人間は社会的な生き物であり、基本的に左側の「外発性」が強い。これを「“理想”追究型」へいかに成長させていくか、それが業務の中でしっかりと仕組み化できているかが大事なポイントだと考えている。

 

そのためにはスキルの成長だけでなく、人間としての成長が重要であり、他社との比較や自己否定を行う「依存」タイプではなく、人生の目的や自己肯定を追求する「自立自走」、つまり理想の実現のために、自らの哲学や意思に基づき、自己決定し行動するタイプであることが求められる。

 

会社でいうと、会社と自分の理想やスタンスが合致していることが欠かせない。パーパスを実現する人やその集合体(エコシステム)こそが、当社のクオリティーや価値の源泉である。

 

 

利益よりもSI(ソーシャルインパクト)を重視

 

我々がKPI(重要業績評価指標)の最上段に置いているのは、利益ではなくSI(ソーシャルインパクト)。つまり、社会に対する良いインパクトをどれだけ生み出したかである。利益が出ているのにSIが出ていない事業からは撤退する。利益は後からついてくるものだからだ。

 

例えば、ミャンマーで貧困問題解決の事業を行っているメンバーのSIは「1万2000」。彼の事業によって貧困が改善された農家の数で、売り上げベースで言うと15億円くらいだが、このスケールを5年でつくり出した。

 

こういった起業家を生み出すために存在するのが、「ボーダレスカンパニオ」という仕組み。カンパニオとはラテン語で「パンを分け合う仲間」を意味し、カンパニーの語源になっている。

 

ボーダレス・ジャパンには解決する社会課題や事業ドメインがバラバラの起業家が集まり、エコシステムをつくっている。誰かが事業を始めたいとき、先輩起業家たちのノウハウを獲得してスタートできるのが強みだ。

 

通常、それを会社間で行うとノウハウを開示してもらえなかったり、費用が発生したりするものだ。しかし、ボーダレスカンパニオではみなが良い社会づくりを目的とする仲間なので無料。互いを助け合い、高め合う前提になっている。

 

互いのアセットを共有することでそれぞれの事業を伸ばしていけるし、そうしないと良い社会づくりはできないだろう。まだ51の事業しかないが、1000くらい事業があればだいたいのケースをカバーでき、事業を行う際にさまざまな課題を解決し合えると考えている。

 

 

失敗できる環境づくりが、成長につながる

 

新規事業を立ち上げる際、人選で大事なのは、真の目的がどこにあるのかということ。事業を実現した際、地域や社会、関わる人々がどんなふうに変わり、どう幸せになるのかを本人が具体的に語れるようにすることだ。

 

では、具体的にどんな能力を重視するかというと、まずは行動力だ。思考力はいくらでも高められる可能性があるが、行動力はもともとの素質によるところが大きい。周りからどう思われるか気にせず、いかに馬鹿になれるかが重要だ。

 

次に、想像力や妄想力。これがないと未来が語れない。自分たちが実現しようとしている未来を、解像度高く具体的に語れるのはとても大事だ。ワクワクを絵面や言葉にできると、ついて行く仲間が増えていく。勢いがあって、ちょっと外れているように見られるくらいの人がちょうどよいと考えている。

 

また、新規事業創出時の仕組みづくりのポイントは、自分で決めさせること。小さい枠組みでの判断を積むことで、責任を背負って頑張れるようになる。

 

ケジメも重要だ。「もう少し頑張ったらうまくいくのではないか」という状況でも、このラインを超えたら撤退という線引きをするべきである。期間や目標ベースでやってもズルズルと続けてしまうので、CF(キャッシュフロー)ベースが良い。お金が尽きたら終了、尽きないのなら続けてOKというシンプルなルールにすることで、判断基準が明確になる。

 

本人の力量とビジネスモデルをフィッティングさせることも忘れてはならない。アサインした人材の力量が見合わないゆえに事業が頓挫するという事態を避けるために、本人ができるサイズまで小さくしてからスタートする、という手法も、人材育成の視点で言うと有効だ。

 

人は失敗から学び、成長する。仲間を守ろうとするがゆえに失敗させず、成長につながらないのでは本末転倒だ。失敗できる環境や仕組みを設計し、失敗を通じて仲間たちが成功する。この設計がどれだけできるかが、会社の行方を左右すると信じている。

 

 

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