ホールディング経営とは、企業の持続的成長を実現するサステナブルな経営モデルである。そのためには存続の技術と成長の技術を兼ね備える必要がある。
ホールディングス・グループ経営モデル研究会の第3回は、講師に吉忠株式会社の代表取締役社長の吉田忠嗣氏を迎え、「伝統と革新を両立するROMAN吉忠グループの進化の軌跡」について講話頂いた。
2025年に創業150周年を迎える老舗企業が持つファミリービジネスとしての絶対的な価値観と、時代に合わせて事業を変化させてきた変遷にグループ経営の草分け的存在が持つ、持続的成長を実現してきたノウハウを学ぶ。開催日:2024年1月25日(東京開催)
代表取締役社長 吉田 忠嗣 氏
はじめに
吉忠は、1875年に呉服商として京都に創業した。持続的に事業を営めるよう“衣食住”の衣に着目し、呉服問屋を開業した経緯があった。創業来、二度にわたる世界大戦やオイルショックという歴史的な事件、また西洋ファッションの流入など大きな環境変化があったものの、常に変化の一歩先を捉えてきた。
同社では、事業展開について“広義のファッション業界”と位置付けており、呉服問屋から婦人服販売、マネキン事業、空間プロデユース事業など柔軟にビジネスモデルを適応させることで現在の地位を確立してきた。
また、経営の在り方も常に変化してきた。1875年に個人創業して以来、1917年には株式会社化し、1977年には現在で言う持株会社化することでグループ経営体制をいち早く導入。常に変化を先取りして成長してきた同社のこれまでの取り組み・判断から、ファミリービジネスにおけるグループ経営の在り方を探る。
まなびのポイント 1:経営のわかる人材を増やす。持続可能な経営体制としてのホールディング化
オイルショックが起き、景気が急激に冷え込むと同社業績も低迷していった。また創業来、“人を大切にする”理念を実践し、安定的に成長してきた同社は従業員の定着率が高かった。
管理職のポストに空きがなくなり、硬直化してきたことで変化への対応・新たな挑戦のしにくい組織風土となってきた。そこで事業ごとに分社化することで、同社で言うところの『バス一台経営(デビジョン制)』、現在で言うホールディング体制となった。
大きなバス(事業)にも小さなバスにも運転手(経営者)は必ず1人必要である。間接業務はグループ本社が担い、運転手は本来の業務のみに専念できる体制を整えることで、変化に挑戦する、停滞感を打破する組織風土へ変えていった。結果として15社を分社化したところ、3年で全ての事業会社が黒字を達成し、持続的成長に向けた技術を得ることとなった。
まなびのポイント 2:“人を大切にする”経営を一貫。“小が大を取り込む”友好的M&Aでグローバルへ
同社は1946年から、呉服・婦人服販売に加えてマネキン事業を開始した。戦後復興~高度成長期において、婦人服の購買意欲を高めるリアルマネキンが脚光を浴びたことで業績が伸長。1973年には世界的なマネキンメーカーである英国アデル社とのライセンス契約を結び、同社の製造販売を開始することとなった。
安定した取引実績を重ねる中、アデル社は後継者がいないという課題を抱えており、1991年に同社創業家より株式売却の打診を受けることとなった。取引関係を通じて技術者等の人材交流を進める過程で、同社の“人を大切にする”姿勢が評価されたためであった。
結果として、世界的なメーカーを日本の中堅老舗企業が買収するという“小が大を取り込む”M&Aで、同社はグローバル市場で戦う成長エンジンを得たこととなった。
アデル社の友好的買収、調印式(1991年)
まなびのポイント 3:伝統を守りつつ変革に挑戦する「ファミリービジネス」としてのバランス感覚
同社は、1917年に株式会社化した際、その株式を従業員・販売先・仕入先へ分配した。創業家の株式は10数%に留まっており、経営の安定という視点では心配の声もあがっているが、これが経営者としての緊張感、従業員においては経営への当事者意識につながっている。“人を大切にする”という普遍的な価値観をベースとして、時代に合わせてタイミングを見て事業展開を図る、緊張感を保ちながら不易と流行を上手く融合させたファミリービジネス展開の好例と言える。
変化への挑戦を怠ると5年後に問題が起こる、という経験則もあった。社員・取引先・仕入先の“人”に常に向き合いながら、時代の変化のタイミングを捉えて変革に挑戦し続けることで持続的な成長モデルを確立してきた同社は、まさに伝統と革新を両立させていると言える。
※写真は講演レジュメ、コーポレートサイトから抜粋