【第5回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマに、さまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第5回のテーマは「オンリーワンの100年企業へ挑むサステナブル・イノベーション戦略」である。研究会参加者は、関ケ原製作所とヤマニパッケージの講話と視察から、パーパス経営で成長した歴史と、「能動的×内発的」な組織エンゲージメント向上を実現する会社づくりについて、次の3点の切り口で学んだ。
1.ハード(環境)とソフト(社風)のダブルアプローチで実現する社員総活躍カンパニー
2.他社の”手が届かない領域”でプラスアルファの付加価値を創造
3.国内外に広がるビジネス展開と、岐阜で選ばれ、地域とともに成長する開かれた企業
開催日時:2023年10月25日(岐阜開催)
代表取締役 矢橋 英明 氏
はじめに
岐阜県不破郡関ケ原町に本社を置く関ケ原製作所は、油圧機器製品・商船機器製品・舶用特機製品・大型製品・鉄道機器製品・精密石材製品などの事業を展開する、1946年創業の機器メーカーだ。
同社は、企業はただ利益を追求するために存在するのではなく、人々が出会い学びながら互いに高め合う「人間ひろば」だと考えている。社員一人一人が理念を深く理解し、ベクトルを合わせて日々挑戦して、自社の進化や革新を自分事として推進。やがて企業としての社会的存在価値が高まっていくような、「人間村カンパニー」を目指している。
関ケ原製作所が運営する「cafe mirai」。近隣住民の「ふれあいひろば」になっている
まなびのポイント 1:【人づくり】会社は社員一人一人が輝く「人間村」である
−「学び舎」「技術村」「文化村」という3つの「村活動」を実施−
1.学び舎
「生きることは学ぶこと、学ぶことは変わること」という方針の下、社長塾(次世代人材研修)や単独出向による武者修行、他社人材との他流試合、階層別教育、海外研修などを行い、未来を担う人材育成に力を入れている。
2.技術村
「オンリーワン・ナンバーワン」という方針の下、委員会を立ち上げ、技術研鑽・伝承を推進している。厚生労働省が進める「ものづくりマイスター制度」も活用しており、自社の社員が工業高校で技能伝承などを行うことで、採用活動においても相乗効果を発揮している。
3.文化村
「憩いと集い、ふれあいひろば」という方針の下、イベントやミュージカル、カフェ事業を行うなど、社会とのつながりを大切にしている。「書画骨董に親しめ」という創業家の家訓を大切にし、芸術と職場環境の融合を実現している。
まなびのポイント 2:【会社づくり】パーパスに基づき、権限移譲で能動的な強いチームを目指す
理念とものづくりをつなぐという方針の下、同社は「セキガハラウェイ」を使用した取り組みを行っている。セキガハラウェイとは、同社の原点である理念に込められた思いや行動規範などが明文化されているものだ。年度ごとに「セキガハラウェイの認知→実践→行動→定着」とテーマを設定し、パーパスの実現に向けてPDCAを回している。
また、各職場で働くメンバーに徹底的に権限移譲を行い、メンバー同士がベクトルを合わせ、チームの知を集めて新しいことに取り組んでいる。さらに、そうした挑戦の先に振り返りの場や対話の場を設け、PDCAサイクルを回し続けることで、チームがより強くなると考えている。
まなびのポイント 3:【事業創造】大手はやらない、中小ではできない特徴ある事業を展開し、100年企業を目指す
同社は、創業からの歴史の中で、試練や危機を乗り越えるたびに多角化を図り、事業の柱を増やしてきた。例えば、精密石材製品から船舶用クレーンやトンネル掘削機などの大型製品まで、多種多様なオーダーメード製品を展開するなど、大手企業はやらないが中小企業ではできないニッチ領域で高付加価値を追求している。
また、技術の伝承のため、「匠道場」と呼ばれるものづくりの教育施設を建設し、社員が溶接・機械加工・組立といった技術を基礎から学んでいる。昨今では、部門間横断プロジェクトにより、価値創造に向けて各事業部がシナジーを発揮している点も特徴的である。
「匠道場」の外観(上)、内観(下)。現場と同様の作業環境が整い、技能士などの資格を持つベテランが指導するのが特徴