物流業界を取り巻く環境は日々大きく変化しており、2024年問題への対応・デジタル化・自動運転技術の発展などを受け、“労働集約型”から“装置産業型”への移行が進むと考えられている。それらの技術活用や自動化を推進するのは“人”であり、人財がその企業の競争力となるといっても過言ではない。
第8期物流経営研究会は「自社の真の価値を再定義する~バリューコネクトを発見しよう~」をテーマに、視察企業や学びを元に“選ばれる企業”になる理由を改めて明確にするヒントを提供する。また“デジタル化”“環境対応”“採用”“育成”などの課題に対する解決の糸口になるよう、参加企業の皆様が学び、高め合う場としている。
第2回はホクショー様に訪問し、徹底した事業戦略とイキイキと働く社員を生み出す仕組みについて北村社長にご講演いただいた。
開催日時:2023年10月23日、24日(北陸開催)
代表取締役 北村 宜大 氏
はじめに
同社は1952年に創業し、2023年で創業72周年を迎えた歴史あるマテハン(物流自動化機器)メーカーである。農機具・機械工具を販売する商社を営んでいた北村社長の祖父が、「何とかして農家の人たちを助けてあげることはできないか。何か貢献できることはないか」との思いから、1955年に農家の倉庫で米俵を運ぶ「ポータブル・スラットコンベア」を開発したことが創業のきっかけである。
垂直搬送システムやバラ物仕分けシステムなどの商品を強みとするホクショーは、日本だけでなく海外にも支店を展開。売上高約160億円・営業利益約12億円・社員数350名(女性比率19.7%)と業績・規模を順調に拡大している。“企業の存在意義は商いの大小ではない”と語る北村社長が実践する、“社員幸福度”を高める経営の秘訣を学ぶ。
まなびのポイント 1:明確な事業戦略と戦術への落とし込み
マテハン(物流自動化機器)の市場規模は7000億円~8000億円と言われており、ニッチな市場である。同市場ではBtoB取引がメインで参入企業も少ないため、得意領域に特化し、その他の領域は同業他社と連携するニッチトップ戦略が有効となる。
ホクショーは垂直搬送機と仕分け搬送機に経営資源を特化し、設備投資や研究開発を実行。対応不可能な部分は競合他社と協力する、まさに“ニッチトップ戦略”を実行している。
また、事業戦略から業績を向上させる戦術への落とし込みについて、①「営業の“行動量”を上げる」②「営業の“勝ち率”を上げる」③「受注単価を上げる」という3つの明確な戦術を掲げる。従来は3~4割とされる営業の“勝ち率”を上げ、受注単価を上げるには「安全」と「環境」の観点で差別化を図ることが重要だと北村社長は語る。
オートレーター。ケース・パレット・台車などの搬送物を多層階に搬送することができる
バラ物自動仕分けシステム(PAS)。商品コードを識別し、自動で棚に商品を仕分けることができる
まなびのポイント 2:“働きやすさ”と“働きがい”の両立
“社員幸福度”を高める経営を実践する同社では、“働きやすさ”と“働きがい”を両立するため多様な施策を展開している。“働きやすさ”という観点においては、定期昇給とベースアップを含めて4.05%の賃上げと新卒初任給引き上げの実施、同等級における男女賃金格差の解消、社員同士の結婚の許可など社員の“働きやすさ”を重視した施策を展開。これらの施策の効果もあり、出産・育児を終えた女性社員の大半が復職するという。
また、“働きがい”という観点においては、月次決算システムを導入。営業社員が自ら月初に立てた目標を月末に実績値と共に振り返り、上長が評価するマネジメント体制であるが、立てた目標を実績が下回っても、上回っても評価はされないという。自ら立てた目標を自ら達成することで評価されるマネジメント体制が社員の“働きがい”を引き出している。
棚方式店舗別仕分け支援システムEASY。商品コードをスキャンすると棚が自動で飛び出し、仕分けミスゼロを促進する
まなびのポイント 3:多様な生産性向上施策によるワークライフバランスの向上
同社では「生きがい」「やりがい」「働きがい」を重視した働き方改革推進プログラム「3快活動」を展開している。
現在、同社では業務の見直しを進めており、顧客にとって価値を生まない「非価値業務:20%削減」と顧客にとって価値を生む「価値業務:10%強化」を推進。余った時間を「ワークライフバランス:10%改善」に充て、若い社員が楽しく働いて力を発揮できる職場環境づくりに注力しているという。
また、並行して年間5日間以上の有給休暇の取推推進を行っており、1時間単位での有給取得申請が可能という。ワークライフバランス、社員幸福度を高め、イキイキと働く社員を増やすこれらの施策から見習うべき点は多い。
ホクショー製自動ラック無人搬送車HART500。重量500㎏まで対応可能