ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における知の探索をテーマに、さまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問する。
今回は「非連続の変化と苦境が導くイノベーション(イノベーション、ブレークスルー、サステナビリティ)」「イノベーションのジレンマを克服する真の多様性」「モチベーション3.0を醸成する組織改革への挑戦」の3つの視点からテーマである「事業×組織 両輪イノベーション」を考えたい。
開催日時:2023年8月23日(京都開催)
代表取締役 井上 大輔 氏
はじめに
京都府北部の福知山市に本社を置き、主に北近畿で事業を展開する井上。総合電気設備資材・制御機器卸売業を中心に、空調設備・照明設備、AI/DXソリューション、IOTソリューション、エネルギーソリューションコンサルティングなど幅広くサービスを提供している。今回は、井上のホールディング会社であるWELLZ UNITEDが手掛ける「廃校RE活用」事業を通じて、地域の活性化イノベーションと、社内における組織活性化を波及させるシナジー効果を学んだ。
廃校になった小学校の校舎をリノベーションした「THE 610 BASE(ムトベース)」のフリースペース
まなびのポイント 1:WELL BEING × WELL GROWTH の領域を「面」で実現する「自走ミルクレープ経営」
現社長である井上大輔氏が経営を引き継いだころの同社は、業績不振と組織不活性の状態であった。急場をしのぎつつ組織改革を推進した井上氏は、社員に寄り添う「人が中心の経営」をする事こそがWELL BEING経営であると考え、2011年に「働く誰にとっても毎日がちゃんと幸せな会社」を宣言。「社員が仕事を健全で安心で常に楽しいと思える職場でありたい」という思いを込めた 。
理想をかなえるためには次の2つに挑戦する必要があった。1つ目は社員中心の好循環サイクル(信頼→気づき→実行支援→実行→価値化)である「人中心の信頼スパイラル構築」。井上氏は経営の大半の判断を社員にゆだねるている。最初は苦労したそうだが、日々、信頼関係を育むことで社員が主体性を発揮したり、相互支援、学習、情報共有、支援リーダーシップを強化したりすることができたという。このサイクルがクレープのように積み重なり、ミルクレープのような厚い基盤を構築しているとのこと。
2つ目は「顧客価値作りの絶え間ない挑戦」だ。「新規顧客づくり」が当たり前の組織にするため、個人からチームでの成果づくりや、受注を社員皆で喜ぶ社風づくりに注力した。
同施設で収穫した奥京都苺のジュースやデザートなどを販売する「学校カフェ」
まなびのポイント 2:地域を耕す、廃校活用地域創生ビジネスへの挑戦
同社にとって、地域とは「日々関わる幸せにしたい人やなりたい人の集まり」である。地域住民の抱える課題を解決し幸せにする事業の創造を決意したころ、たまたま京都府や市から廃校を紹介され、新事業である廃校RE活用「THE 610 BASE事業」を立ち上げた。廃校の校舎の壁を地元アーティストがペイントし、カフェ、スケボーランプ、ワーキングプレースにリフォーム。グランドはいちご栽培農地やイベント会場などを設置した。
オープン後、いちご収穫体験は年間来客数1万人と盛況で、イベント開催時にはファミリー顧客でにぎわう。また、いちごの加工商品開発や就農体験を通じて、地域の大学生や子どもたちの触れ合いを増やしている。秋からはクラフト地ビールを製造し、カップルやシルバー層を狙うという。今後は、スマート農業によるビジネスモデルの提案やイベントを開催して、一緒に地域を盛り上げる仲間づくりをしてさらなる集客を狙う。
かつて校庭だった場所に設置されたビニールハウスで、いちごの収穫体験が楽しめる
まなびのポイント 3:事業の多角化、組織のチーム化を実現するホールディング
事業領域の拡大により、これまでの「町の電気工事屋さん」から脱却し新たな顧客づくりへとシフトしていく必要性を感じた井上氏。企業価値向上のために思いついた方程式は、「思い × 人・組織 × 提供価値 × プロセス」である。SNSや社内アプリにおいて全社員が互いへの感謝を発信し合うほか、チームインセンティブで協力しあうチームづくり、役職を付けずにせず呼び合うなど、信頼関係の構築に工夫を凝らす。
お客さまや働く人、アライアンス関係者、地域住民など、全てのステークホルダーに対してスパイラルを描くように笑顔にすることで、地域社会とともに持続可能な経営を目指している。