創建400年のお寺が挑んだ改革の軌跡~築地本願寺のDX~:築地本願寺
当研究会は、デジタル戦略のケーススタディー・ワークショップを通じてデジタル戦略のロードマップを描くことを目的としている。今期のテーマは、「従来の見える化手法とDXを横断し、マネジメントをアップデートする」。
第1回は、築地本願寺様より創建400年のお寺が挑んだDXについて、オービックビジネスコンサルタント様よりバックオフィスDXの要諦についてご講話いただいた。開催日時:2023年9月25、26日(東京開催)
責任役員 副宗務長 東京教区教務所長 東森 尚人 氏
はじめに
築地本願寺は日本で寺院数が2番目に多い浄土真宗本願寺派の寺院である。同派は国内で約1万寺院、海外に150を超える拠点があり、その中で築地本願寺は、関東一帯における中心寺院としての役割を担っている。東京都中央区築地を拠点とし、従業員数約160名で業務を行っている。
「『伝える伝道』から『伝わる伝道』」という基本方針のもと、常に現場目線を忘れることなく、「伝わっているか」という視点を大切にしている。
2012年、築地本願寺は社会環境の変化に対応できないという危機感から組織改革を実行。重要会議に外部有識者を招き、DX・「働き方改革」の取り組みを始めた。
築地本願寺HP
まなびのポイント1:伝統・保守重視の風土からの変革
前代表役員宗務長の安永雄玄氏の「『強いものが生き残るのではない、環境変化に応じて変化できるものが生き残る』(適者生存の原則)からこそ、環境変化に合わせて組織は自己変革すべき」という考えのもと、築地本願寺の組織改革は始まった。
まずは、社会環境と浄土真宗に関する実態把握調査や、築地本願寺に関する調査などの現状認識を行った。分析結果には、「そもそも『浄土真宗』という言葉は知っているが、その内容や言葉の意味を理解していない」など、「伝わっていない」ことが課題として挙げられた。そこで同寺は、「日々の活動でいかに浄土真宗を伝えていくか」を目標とした。
また、築地本願寺のイメージが宗門内・外で良くなかったり、認知されていなかったりしたため、地元に愛されることを目標に地域交流プロジェクトを始動。ほかにも、メディアへの露出や外部人材の積極的な雇用、デジタル化を推進した。
結果として、職員の成功体験を起点に寺院内の積極性や高揚感が高まり、伝統・保守重視の風土から、自主性を持ち「より開かれた寺院」としての組織風土が生まれていった。
築地本願寺で法要(読経や法話)を行い、その様子をYouTubeやZoomで中継する「オンライン法要」
まなびのポイント2:DX推進のための人材活躍
築地本願寺は、情報の共有不足や業務の属人化などの課題があった。だが、外部人材の受け入れによってダイバーシティー(多様性)が高まったこと、デジタル活用による新たな挑戦によって職員の自主性が高まったことで、配属を希望する人材が増加した。
また、効率的に業務を行う体制づくりとして、事務所のフリーアドレス化やウェブ会議システムの導入、スマホの貸与などを行い労働環境を整備した。
DX推進加速の手段としては、「ITリーダー」と称して各部署にITリテラシーの高い人材を配置し、築地本願寺全体のITリテラシーの向上に取り組んだ。
事務所のフリーアドレス化
まなびのポイント3:仏教理念を体現する手段としてのDX
「仏教はひとりひとりに寄り添うものである」という理念、「また行きたいお寺をめざす」という在るべき姿のもと、DXに取り組む築地本願寺。取り組みの中で大切にするのが、「ご要望を聞く」という姿勢である。
訪問者からの声だけでなく、市場調査や公式アプリを活用したアンケートなどさまざまな方法で情報を集約している。またCRM(情報管理)システムを導入し、「すでにご縁のある方」「ご縁の薄い方」「これからご縁のある方」を統合的に管理。それぞれにアプローチを行うことで一人一人に寄り添っている。
築地本願寺は「誰もが心豊かに安心して生きることのできる社会の実現」を目指すべく、デジタルを手段に伝え、寄り添い続けている。
2022年6月に提供を開始した「築地本願寺公式アプリ」