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コンサルティングケース
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コンサルティングケース 2023.10.25

自社製ビネガーのリブランディングと、販売力強化に挑むいちご農家 一苺一笑

ポイント


1 社員と経営陣が一緒になって中期経営計画を策定
2 オリジナル商品のリブランディングで販売数が昨対比約2倍に
3 ジュニアボードを導入し次世代経営者を育成

 

 

お話を伺った人


一苺一笑
代表取締役 佐藤 拓実氏

 

 

 

 

6次産業化プロジェクトに参加し商品をリブランディング

――2011年の東日本大震災で、宮城県山元町は津波による甚大な被害を受けました。津波でいちご生産農家の約9割が壊滅的な被害に遭いました。周りのいちご農家は後継者がいないなどの理由から新たな投資を断念し、廃業する人たちが後を絶たなかったそうですね。

 

佐藤:厳しい状況でしたが「一人の力では立ち上げられなくても、組織化すればやっていけるのではないか」という思いを抱いて、2012年に共同出資で一苺一笑を設立しました。社名には「一粒のいちごから一つの笑顔を」という思いを込めました。

――ICTを活用して栽培ハウス内の温度や湿度、二酸化炭素、風向、風速、養液の給排水量などを管理するシステムを構築し、高品質のいちご栽培を実現。2018年にはいちごの摘み取り農場である松森農場を開園しました。仙台市など近隣住民の集客に成功し、順調に成長してきた一方で、いくつかの課題を抱えていたそうですね。

 

佐長:当社の農園で栽培したいちごを使ったお菓子やビネガーなど、いくつかの6次化製品を開発していました。その中でも販売に力を注いでいたのがビネガーです。この商品は山元町のいちごとリンゴで作ったビネガーとして産地を前面に押し出して売り出していました。しかし、販売する場所は仙台市であって地元ではない場所だったので、商品コンセプトや販売方法などを一貫させる必要があると課題を抱えていました。

 

――その解決策として、「みやぎ6次産業化リノベーション支援事業」に参加されました。

 

佐藤: 6次産業化を推進していくためには、企業風土の転換や人材育成の強化も不可欠という認識から、まずは中期経営計画の策定からスタートさせることにしました。これまでは経営者が計画を立案し中期経営計画を策定してきましたが、今回の策定に当たっては社員も参加し、経営陣と一緒になって計画を練ったのです。


計画のコンセプトとして明記したのが沖縄の事業拡大と、仙台市にある松森農場の生産・販売基盤の強化です。前者は将来的に沖縄でもいちご栽培の拠点を作るという将来の事業の在り方を示したもので、後者は近々に取り組むべき課題として計画に組み込みました。

経営について学ぶスタッフ

 

 

――いちご販売と6次産業化製品の売上目標値を設定。2025年度には2022年度比で、山元農場のいちごの売り上げを8%、松森農場におけるいちごの収穫体験の売り上げを4.7%アップさせること。加えて製品も含めた販売を8%アップという数値を掲げました。

 

佐藤:中期経営計画で真っ先に盛り込んだのがいちごの売り上げです。松森農場ではいちごの収穫体験のほか、いちごのパックを販売していますが、収穫体験は1日に受け入れられる人数が限られているので、いちごの販売の売上増を図って経営基盤を強固にしたいという考えがありました。


そこで計画に織り込んだのは、営業時間の延長です。収穫体験は遅くとも16時には終了するため、農園内にあるいちごの販売所の販売時間も16時まででした。しかし、タナベコンサルティングから提示された仙台市の調査結果を見ると、17~18時にかけて農園前の車の交通量が多いと分かったのです。そこで18時まで販売所の営業を延長して売り上げ増加を図ることを計画に盛り込みました。夕方の交通量が多いことは以前から把握していたのですが、改めてデータを提示されたことで営業時間の延長を決断できました。

 

――いちごの販売方法も見直しましたね。

 

佐藤:「LINE Business」を活用して販売を予約制に移行しました。販売数があらかじめ把握でき、現場のオペレーションとしては成果を上げましたが、売り上げの向上には結び付きませんでした。そのため、今後はSNSなどから自社ECサイトへの誘導ができるような仕組みを検討中です。


ほかにも、摘み取ったいちごを入れるパッケージにクリスマスやバレンタインなど季節のイベントに合わせてシールを貼るなどの装飾を施そうと考えています。ちょっとした装飾ですが、贈り物として利用していただきたいです。

 

 

 

 

商品コンセプトの明確化と販売方法を改善して売上アップ

――今回の6次産業化プロジェクトでは、オリジナル商品であるビネガーの「ICHIZU」をテコ入れしました。松森農場の販売所では、お菓子類やいちごジャムなど複数の製品を販売していますが、なぜICHIZUを選ばれたのでしょうか。

 

佐藤:この商品は山元町で栽培した完熟いちごと完熟りんごを使用しており、発売当初から「山元町ブランド」を前面に押し出して販売してきました。しかし、山元町ブランドをうたっているにも関わらず、仙台市内の販売所で取り扱うという曖昧なブランディングになっていたため、商品コンセプトを再設計することにしました。


「仙台市内に住む25~35歳の共働きの主婦で、子どもは一人」「経理事務の仕事をしており、買い物の基準は価格よりも自分に合うかどうかを重視する」といったように、細かく人物設定と行動特性を掘り下げて、ICHIZUのターゲットを決めたのです。あえて山元町ブランド色を薄めたコンセプトに変更し、曖昧だったターゲットを明確化。ターゲットの絞り込みに際しては、タナベコンサルティングから提案いただいたペルソナを採用しました。


他にも、店舗では収穫体験を終えたお客さまの目に留まる位置に陳列したり、POPをあえて手書きにしたりして親しみやすさを持ってもらえるように工夫した結果、売り上げは2022年に比べて2倍近くに増加しています。

 


オリジナル商品のビネガー「ICHIZU」

ジュニアボードを導入し、次世代経営層の育成にも着手

 

――6次産業化製品で着実に成果を上げる一方で、組織改革にも取り組まれています。


佐藤:品質の良い苺を収穫するためにICTを導入して苺が生育しやすい環境づくりに力を入れてきましたが、それでもまだまだ作業員のスキルに頼る部分は少なくありません。


定植、葉かき、収穫の仕方、収穫した苺のパッキングなど専門知識を有する作業のやり方を動画に収め、従業員が学べる仕組みを構築する予定です。さらに、外部の研修への参加を促し、栽培のみならずいちご農家の経営に関する視点も養えたらと考えています。

 


次世代経営者の育成には最も注力していて、今回の6次産業化プロジェクトをきっかけにジュニアボードを開始しました。今後は、このジュニアボードで決定した施策の進捗状況を確認したり、善後策を検討したりして、経営に必要なスキルを身に付けてもらう予定です。

 

――甚大な被害を受けた東日本大震災を乗り越えてきた歴史を持つ貴社からは、揺るぎない意思を感じます。今後ますます発展されることを祈念しております。本日はありがとうございました。


いちごの収穫体験場で作業を行うスタッフ

PROFILE

    • (株)一苺一笑
    • URL:https://ichiichigo.jp/
    • 所在地:宮城県亘理郡山元町浅生原字新田58番地
    • 設立:2012年
    • 代表者:代表取締役社長 佐藤拓実
    • 売上高:1億4800万円(2023年8月期)
    • 従業員数:14名