神姫バス 社外取締役
ワイエムエー 代表取締役社長 三谷 康生氏
マツキヨ
ココカラ&カンパニーによる水平統合型M&A
新規事業への参入、既存事業の拡大など、自社の弱みを補い、強みを最大化できる手法として一般化したM&A。数十年前に比べると、その数や規模は比べものにならないほど増えた。中でも効果が大きいとされるM&A手法が水平統合だ。「勃興⇒成長⇒成熟」のサイクルで、群雄割拠の地方企業が合従連衡していく水平統合のプロセスを経てきた業界として、ドラッグストア業界やDVDレンタル業界が挙げられる。
その両方の業界をはじめ、国内外の上場企業から中堅・中小企業まで多数のM&Aに携わってきたのが、M&Aアドバイザーとして活躍中の三谷康生氏だ。三谷氏は、社外のM&Aアドバイザー、企業所属のM&A責任者、社外取締役など、多様な立場からM&Aを成立させてきた。現在は神姫バスの社外取締役でもある。
ドラッグストアチェーンのココカラファインホールディングス(以降ココカラファインHD、現マツキヨココカラ&カンパニー)は、三谷氏が複数回にわたって企業譲受をサポートした企業の1つだ。同社はM&Aを繰り返して業界内でシェアを拡大し、上位ドラッグストアチェーンのポジションを獲得した。十数年にわたるココカラファインHDによるM&Aの軌跡を、三谷氏は次のように説明する。
「同社のM&Aの軌跡は、5つのフェーズに分類できます。第1フェーズは、関東を中心に事業展開するセイジョーと、西日本で展開するセガミメディクスが、株式移転により共同持ち株会社ココカラファインHDを2008年に設立したことです。東西の中堅ドラッグストアチェーンの合併によるココカラファインHDの誕生です。
第2フェーズは、地域を補完する統合。関西・東海を中心に展開するアライドハーツホールディングスとの2010年の経営統合です。その後、第3フェーズで、関東地域や北海道、新潟などの地域一番店として展開していた複数のドラッグストアチェーン吸収による拡大の結果、業界5位まで成長しました。第4フェーズでは、調剤薬局の買収でドミナント強化を図り、第2の事業の柱に据えました。
そして第5フェーズが、2021年のマツモトキヨシホールディングスを完全親会社としたマツキヨココカラ&カンパニーの誕生です。ドラッグストア業界最大級の企業統合により、アジアに存在感を示す国内売上高1位を目指しています。このように、状況に合わせたM&Aを図ることで同社は成長を遂げてきました」
ココカラファインHDの譲受案件の中で最も三谷氏の印象に残っているのは、介護関連会社の案件だという。福祉用具のレンタル・販売、住宅改修事業を手掛ける三重県のA社から相談を受け、その買収先としてココカラファインHDに白羽の矢を立てた。
「介護事業は制度変更の影響を受けやすい業界で、将来的に安定しながら成長できるパートナーを探していたA社の経営者から相談を受けました。同業者への譲渡を望まない意向をくみ、相談を重ねてココカラファインHDを譲渡先に選びました。
A社の中身や経営者の人柄には自信がありましたし、ココカラファインHDを源流とするグループの1社に三重県内を中心に展開しているチェーンがあり、県内トップシェアといった地域親和性も認識していました。両社のトップが意見交換をした後は、株式譲渡契約の締結まで4カ月というスピーディーなM&Aでした」(三谷氏)
三谷氏は、ココカラファインHDが“M&A巧者”たる要素を次のように整理する。
「1つ目は、同社が100社以上の合従連衡の結果できた企業グループで、従業員の誰もが『ココカラファイン出身』として実力本位で活躍できる企業風土が出来上がっており、合流を考える企業が受け入れやすいこと。
2つ目は、M&A検討チームの業務がマニュアル化され、案件の検討スピードが速いこと。M&Aが特殊な業務と位置付けられていないため、『事業部門からの異動⇒M&A担当⇒買収企業の経営者として出向』といったキャリアパスを描けるなど、他社に見られないグループ戦略上の優位性を有しています」