レオス・キャピタルワークス 代表取締役会長兼社長 CEO&CIO 藤野 英人氏
AIサービスの登場で「優秀さ」の定義が一変
「資本市場を通じて社会に貢献します」という経営理念のもと2003年に資産運用会社であるレオス・キャピタルワークスを設立。投資信託「ひふみシリーズ」を120万人に支持されるブランドへと手塩にかけて育ててきたのが、同社の代表取締役会長兼社長であり、最高投資責任者の藤野英人氏である。
学生起業家から大企業のトップまで、数多くの経営者とフェイス・トゥ・フェイスの対話を重ね、一方では教育者として、20年にわたり10~20歳代の若者に耳を傾けてきた。
その藤野氏が語る2040年の日本経済は、拍子抜けするほど明るい。昨今のメディアにあふれているネガティブな情報とは正反対である。もちろん、そこには緻密なデータ分析に基づく根拠がある。
「今後の20年間で日本経済は劇的に変わります。2000年から2020年までにスマートフォンが私たちの生活を一変させたように、これからは『ChatGPT※1』などに代表されるAIサービスが世界全体を根底から変えていくでしょう」(藤野氏)
ChatGPTの登場によって一体何が変わるのか。藤野氏はまず、「『優秀さ』の定義が変わる」と指摘する。
「これまで、特に日本の教育では、短時間にミスなく情報を処理する能力が評価されてきました。しかしChatGPTさえあれば、そのような能力は一切不問になります。AIに仕事を奪われるのは単純労働者ではなく、知識や情報を駆使して働いてきたホワイトカラー※2だったのです」(藤野氏)
藤野氏いわく、ChatGPTの時代に求められる人材とは、「答え」を出せる人ではなく、「問い」を立てられる人。それも、「哲学的な問いを立てられるかどうか」が優秀さを測る基準になるという。
哲学的な問いとは、国境や時代を超えて、人々が生きていく限り向き合い続ける本質的な問題である。「買うとはどういうことか」(アマゾン)、「コミュニケーションとは何か」(フェイスブック)、「投資とは何か」(レオス・キャピタルワークス)など、人々が当たり前だと思い込んでいる“モノ”や“コト”の定義を問い直すところにイノベーションの萌芽があるからだ。
「哲学的な問いを立てられるイノベーターは『社会の穴』、つまり社会課題を見つける能力に長けています。多くの人が慣れてしまって『仕方ない』と諦めていたような穴の存在に気付き、どうすればその穴を埋められるかをしつこく考え続けます。そして、その穴を埋めるための仕組みをきめ細かく設計し、チームを組んで推進していくのです」(藤野氏)
大義に燃える若者が続々と起業
藤野氏が未来を楽観しているのは、そのような能力を持つイノベーターが、日本の若者の中から続々と出てきているのを目の当たりにしているからだ。
「情報が民主化された時代に生まれ育った若者は、SDGs教育やダイバーシティー教育を受けています。自分が社会を変え得る存在であるという認識がインストールされているのです。男女共同参画は『目指すべきこと』というより、『普通のこと』という感覚。起業コンテストでも女性の入賞率が高まっていますから、あと10年もたてば日本のスタートアップ業界で多彩な女性リーダーたちが活躍しているはずです」と藤野氏は続ける。
特に、コロナ禍で次々と登場した新しいオンラインビジネスの現場では、顧客に対するきめ細かい配慮や、言うべきことは顧客にもはっきりと伝える思い切りの良さ、ワイワイ話しながら人から人へ拡散していくネットワーク力などに脱帽することも少なくない。
「企業への投資とは、『人の可能性への投資』です。機械を動かすのも技術を磨くのも、全ては人ですから。社長や社員がいきいき働いているか、これに尽きます。私が大小問わず投資先企業との対話で必ず確認しているのは、①揺るがないビジョン・ミッションがあるか、②社長・従業員にオーナーシップがあるか、③成長を感じる適正なインセンティブがあるか、この3つです。その上で、④コンスタントな収益があるかどうかを見ています」(藤野氏)
①〜③が企業の収益性と関連していることは、藤野氏のデータ分析からも明らかだ。
藤野氏は、株価は原則としてEPS(1株当たりの純利益)×PER(株価収益率)であり、言い換えると「情熱・工夫・頑張り」と「人気・金利・為替・市況」の掛け合わせで決まるものだと説明する。
そして多くの例外はあるものの、成長企業に共通する法則として、①社長の保有株比率が10%以上、②自社サイトに社長はもちろん役員の写真も掲載されている、③自社サイトの社長あいさつの主語が「当社・弊社」ではなく「私・私たち」、④社長が夢を熱く語れる、などが挙げられるという。
だからこそ藤野氏は、企業が任意で発行しているアニュアルレポート(年次報告書)にくまなく目を通し、実際に働いている社員の写真が何点掲載されているかを数えて、「数字」以上に「人」の扱い方を見ている。
「フル・ディスクロージャー※3を基本とし、出せるものは開示していくという姿勢の会社は業績も良い。長期的に見れば見るほど、その差は大きくなります。ビジョンとは社長が推進するものであり、社長自身の個人的な体験にしっかりとひも付いていなければ、どんなに美しい言葉を並べても文章に力が生まれません。ビジョンを推進する上で最も大切なのは、社長自身の『腹落ち感』なのです」(藤野氏)
ただし、社長の中には思いはあっても言葉にするのが苦手な職人タイプも少なくない。「その場合は、仲間やプロの力を借りて引き出してもらえば良いと思います。社長の真実の言葉をチームで紡ぎ出していくことが大切です」と藤野氏は続ける。
企業の将来性は、社長が取り繕わず温度感のあるメッセージを発信しているかどうかで見極められる。それが、圧倒的な業績を上げてきたファンドマネジャーとしての実感だという。
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