【第3回の趣旨】
戦略人事研究会では、「事業と連動した戦略人事を実践する」という企業側の視点と、「社員の活躍を最大化させる」という社員側の視点から、現代に不可欠な戦略人事と組織パフォーマンスを追求していく。
第3回は「戦略的な経営システム」をテーマに、先駆的な取り組みをしている2社にご講演いただいた。
開催日時:2023年3月29日(大阪開催)
代表取締役 吉田 佳代 氏
はじめに
奈良県に本社を構える梅乃宿酒造は2023年に創業130年を迎え「日本酒の楽しみ方を、もっともっと広げたい」「美味しい料理と人々の笑顔のとなりにある梅乃宿を目指して」、“新しい酒文化を創造する蔵” として日本酒を含むお酒の可能性を拡げるべく、事業を展開している。
これまでに注力してきた「みんなが気持ちよく働ける環境作り」について、沿革や組織活性化に向けた改革について同社の代表取締役社長 吉田氏よりご講話いただいた。
梅乃宿 旧日本酒蔵
まなびのポイント 1:社長のサラリーマン経験が「社風づくり」の源
同社は元々下請け企業であったが、全商品自社ブランドへ変革。比較的若いメンバーが中心になって活気ある企業へと変身を遂げた。日本酒だけでなくリキュールにも着手し開発した「あらごし梅酒」が話題となり、海外での評価が高まった。その結果、売上高は24億円にまで拡大。老舗酒蔵が梅酒に着手したことに対して当初は業界から非難の声が上がったものの、数年後には受け入れられた原体験から、「新しい酒文化を創造する蔵」をテーマに掲げている。
代表取締役社長である吉田氏は前職の総合商社では総務を担当し、皆で働きやすい環境をつくることの重要性を学んだ。また、自身が妊娠中に来期の事業継承を告げられ、強い気持ちで覚悟を決めて社長就任に向けて準備をした経験から、自らが社員に主体的に働きかけることで、全社員が働きやすい「社風づくり」に取り組まれている。
「あらごし梅酒」など、リキュール各種
まなびのポイント 2:行動指針を実践するために「ほどよいおせっかい」
社内制度として、家族手当や就学手当を手厚くした結果、社員の出生率は約2.3%となった。男女平等となるよう配慮した人事制度のほか、ものづくり補助金や助成金の申請を推進させるため、交付金額の1%を本人へ付与するルールを策定。社員の企画力や文章作成力を高める教育の一環としても活用し、毎回異なる担当者が取り組んでいる。
また、経常利益の見込み額1割を決算賞与とすることを明文化・ルール化することで、社員自らがどうすれば利益が増えるのか考えるきっかけをつくった。全体朝礼時には、自らメッセージを発信し、普段から社員と積極的かつエモーショナルなコミュニケーションを取り続けることで、自身の考えを自然と社員に浸透させている。
経営理念に基づいた行動指針や事業戦略を立て、一貫性のある施策を立案、実行している
まなびのポイント 3:夢に本気で向き合える環境整備(活育風土)
社員規模が60名になった現在も、家族経営の雰囲気の良さを継承しており、社員がポテンシャルを最大限発揮できる環境づくりに注力している。行動指針のうち「みんなが仕事をしやすい環境づくりをしよう!」を体現する社長の強い思いとともに、社内の委員会活動やプロジェクト制度において、社員自ら立候補したことや積極的な動きを加点する「評価思想」による仕組み・ルール作りを実施。
ジョブローテーションによる異動を5年以内に実施することで、人に仕事をつけず、産休育休を正社員・アルバイト社員ともに取得できる環境を整える。また、支援型リーダーシップによる、チーム・組織づくりを推進。社長と社員の程良い距離感が保たれている。
新社屋への移転とともに、異質なものを受け入れる多様性を表したコーポレートロゴへ変更。常識にとらわれない自由な、新しいお酒の楽しみを提供する