昨今の物流業界を取り巻く環境は大きく変化しており、2024年問題をはじめとして人手不足や燃料費、人件費の高騰などの問題解決は日増しに重要度を増している。時代によって変化する顧客から“求められること”に対して、自社の“持ち味”を合致させることができるかが自社の存在価値を発揮するにあたり重要となる。
第8期物流経営研究会は「自社の真の価値を再定義する~バリューコネクトを発見しよう~」をテーマに、視察企業や学びを元に“選ばれる企業”になる理由を改めて明確にするヒントを提供する。また、“デジタル化”“環境対応”“採用”“育成”などの課題に対する解決の糸口になるよう参加企業の皆様が学び、高め合う場としている。第1回は株式会社柳川合同様へ訪問し、輸送倉庫の現場および社員がイキイキと働く職場の視察を行い、同社の取り組み事例について講演いただいた。開催日時:2023年9月25・26日(九州開催)
代表取締役 荒巻 哲也 氏
はじめに
同社は輸配送、保管、3PL事業の3つのサービスを柱とし、包括的に提供する“総合物流サービス企業”として事業を展開している。グループ6社の連携により人、倉庫、トラックすべてを自前で揃え、高い品質で集荷から輸送まで行うことができる(オーナー式3PL)。
同社は「社員の思いを統一すること」に重点を置き、従業員の充実感、コミュニケーションを大切にしている。こういった風土の醸成が、従業員一人一人の考え方や行動を変え、顧客への質の高いサービスに繋がっている。そして2022年3月には「日本でいちばん大切にしたい会社審査委員特別賞」を受賞。「企業は人で成り立っているのだから、社員に安心して働いてもらえる会社にしなければならない」という荒巻社長の考え方、同社の取り組み内容を学ぶ。
同社配送トラックのラッピングのバリエーションは多種多様。柳川市をPRするようなデザイントラックもある。同社は「こどもミュージアムプロジェクト」にも参画しており、こどもの絵でラッピングされたトラックで運転手の交通安全意識向上にも努めている
まなびのポイント1:最も強く、最も優しい
同社の掲げる「最強最優の会社」とは、強靭なビジネスモデルと商品と社員に対する優しさを追求していくという、物流企業としての目指すべき姿を示している。地元の大手家具メーカーの物流を古くから任されており、集荷、保管、輸送、輸送後の工程までを自社で一貫して行うオーナー式3PLが同社の特徴である。
「中小企業は自前で機能を持ち、ノウハウを積み重ねることが生き残る道」という荒巻社長の言葉通り、各物流工程を自社で実施するからこそ高品質に繋がり、地域No.1企業として成長し続けることができた。
「心運(御客様の心を運ぶ)」とは、オーナー式3PLを説明している際に荒巻社長が口にした言葉である。「借り物のサービスでやっても高い品質には繋がらない。成長は遅いかもしれないが、できる分野だけでも御客様の心を運ぶ物流を実現する」、これが荒巻社長の目指す「最強最優」の真意である。
オーナー式3PLによる品質の高さが特徴(出所:講演資料)
まなびのポイント2:従業員の成長を大切にする会社
同社は従業員教育にも力を入れている。従業員は自分の望む研修に経費で参加でき、未経験でも安心してドライバーになることができる充実した研修制度を用意している。人間力を高める研修もあり、一人一人の人間力を高めることで会社全体が居心地の良い職場になる。
また、月に一度は「○○(カレー、牛丼など)の日」と定め、従業員が手作りの料理を振る舞い、全社員が一緒に食事をとるコミュニケーションの場を作っている。
さらに、やる気のある人に仕事を任せる風土がある。入社間もない女性社員に社内報の作成を一任したり、入社4年目で営業所の責任者に抜擢するなど、若くてもやる気のある従業員にチャンスを与えることで本人に責任と自信を自覚させ、自発的に行動できる社員を育成している。
会社の空きスペースを展示室として活用し、歴代の社長賞受賞者を掲示(左)/社員食堂。カフェをイメージさせる内装と柱には「○○(カレー、牛丼など)の日」の日程を掲示している(右)
まなびのポイント3:人を集めるのではなく、人が集まる会社に
荒巻社長は採用に関して、「この業界は地域No.1にならなければ人は採用できない」と話す。業界の人材不足が叫ばれる中、地域No.1でないとなかなか認知されず、同業のNo.1と比較されたり他業種に行ってしまう。実際同社も関東での採用はかなり苦労しているという。
同社の場合、オーナー式3PLで強固なビジネスモデルを構築し、高品質なサービスを実現してきたことで地域No.1物流企業として人材採用ができている。しかし、地域No.1という理由だけではなく、「まなびのポイント2」のような従業員を大切にする風土やもったいないプロジェクトなどの地域貢献が採用ブランディングに寄与していることも大きい。
ビジネスモデル、同社で働く従業員、風土、地域への取り組みが好循環として繋がることで、厳しい業界環境の中でも“人が集まる会社”を実現している。
はざま倉庫(出所:講演資料)
廃工場をリノベーションして倉庫として活用するなど、人が集まらなくなった場所に、再び役割を与えることで人が集まるようにしている。廃校になった小学校の活用も検討中である