人事領域の潮流と自由・自律・自走カルチャーへの取り組み:プロフューチャー
当社は2007年の創業以来、採用から人事全般、経営へとサービス領域を広げてきました。現在は、会員約8万人の日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」や、人事向けフォーラム「HRサミット」、経営者向けサイト「経営プロ」などを運営し、日本企業の人事領域に貢献しています。
現在、ビジネスを取り巻く社会の動きとして、世界的に無形資産価値が注目されています。米国市場では企業の時価総額に占める割合がどんどん高まって、2020年時点で9割を占め、無形資産が企業価値を決めている状態です。グーグルやメタなどIT系企業が上位を占めていることもありますが、それだけではなく無形資産の有用性が非常に高まっているといえます。また、機関投資家が注目する企業情報の上位に人材投資が挙げられ、「企業価値を決める重要な要素は人材」と世界中が認識しています。
一方で、日本が直面する課題としては、非常に速いスピードで進んでいる少子高齢化が挙げられます。50年後には総人口は現在の7割に減少し、65歳以上が4割を占めるようになり、生産年齢人口(15~64歳)は急速かつ継続的に減少します。人材不足のさらなる深刻化は、もはや「変えられない未来」なのです。
また、終身雇用・年功序列の「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へ雇用の在り方の見直しが一部で進み、働き手は組織ではなく仕事に向き合う姿勢が強くなるなど、雇用も働く個人の価値観も変化しています。多様な働き方の選択肢が生まれ、主体的なキャリア意識が高まると、転職の心的ハードルはさらに低下するでしょう。なお、2024年卒学生の約6割は、将来的な転職を就職段階から考えていることが、当社と楽天みん就の調査で分かっています。
先行きが見通しにくい時代を迎えて、高い関心を集めるのが人的資本経営です。人材を資本と捉えて投資し、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方です。
人的資本経営の全体像を示すものとして、「人材版伊藤レポート」(経済産業省)が2020年に発表され、経営戦略と連動した人材戦略をしっかりと打ち立てるためのポイントを、3つの視点と5つの共通要素で示しています。
人的資本経営に関わる日本の動向について、当社が調査したデータがあります。それによると、企業規模が大きいほど取り組みの割合は高く、従業員が1000名以上である大企業では6割を超えています。中堅(従業員数301~1000名)・中小企業(300名以下)は3割近くに留まるものの、「取り組み準備中」と答えた企業を加えれば中堅企業の5割、「検討段階」と答えた企業まで含めると中堅・中小企業ともに7割近くに達します。
「人的資本経営に取り組む目的は何か」という設問への回答は、第1位が「従業員エンゲージメント向上」で、大企業は7割近くが該当します。エンゲージメントは、企業と働く人の結び付きの強さを示す指標です。業況との関係性を調査した結果では「人的資本経営によりエンゲージメントが向上している」と回答した企業の業績は、「良い」「やや良い」の合計が75%に達し、その他の企業と比べて17ポイントも差がありました。
このデータから、「エンゲージメント向上に取り組む企業は業績が良い」という相関関係があるといえるでしょう。さらに、社員が会社に在籍し続けたい「残留意図」の度合いを5段階で調査すると、エンゲージメントが高い社員は3.74ポイントで、低い社員とは1.26ポイントも差が付きました。
当社では、ミッション・ビジョン・バリューの重要性を強く認識し、継続的に発信しています。
ビジョン「ワクワクする、プロの未来へ」は、実現したい未来として、働く人たちがいきいきと活躍できる情報をメディアやイベントを通して提供するということです。ミッション「社会をより良く変える“てこ”になる」は、てこのように大きなものを動かす影響力を持って、働く人たちの未来や社会をより良く変える使命を担います。そして、バリュー「自由・自律・自走」は、社員一人一人が自由に働く環境で自律し自走する、共通の価値観であり行動基準です。
中でも「自由・自律・自走」は社内の共通言語として浸透しています。会社が敷いたレール上を走るのではなく、自由な発想を生かす裁量を持ち、いかにパフォーマンスを発揮するかを自分で考え、選び、動くのです。
「現場の社員に権限委譲し、任せられるプロフェッショナルが育つ」こと。また、より大きな領域を任せられる「強い個と、その組織化」が、持続的に成長する企業の重要なポイントだと思っています。
社長として心掛けているのは、ミッション・ビジョン・バリューについて何度も、さまざまなシーンで語り続けることです。社員のエンゲージメントが低くなるのは社長の責任だと思っているので、自由で自律的な働き方や、言いたいことが言える職場の雰囲気づくりなど、全てを率先して実践しています。今後はもっと「社員を信じて、どんどん任せる」ことで、人も組織もおのずと成長ドライバーとなり、成長性が増していくと考えています。
また、社員の価値観の多様性を認めることも大切です。人それぞれの考え方や置かれた環境、ライフステージがあって、誰もが同じ方角を向いているわけではないからこそ、互いの価値観を知り、認め合うことで、多様な力が発揮できるようになります。
当社の取り組みはあくまで一例であり、会社それぞれのやり方があるのは当然です。ただ、どんな会社でもミッション・ビジョン・バリューなど共通の価値観・行動基準を持ち、独自のカルチャーが育つことで、成長につながる流れが生まれるのではないかと思います。
PROFILE
- ProFuture㈱ 代表取締役社長
寺澤 康介(てらざわ こうすけ)氏
1986年慶應義塾大学文学部卒業。就職情報会社役員などを経て、2007年、採用プロドットコム(2010年にHRプロ、2015年にProFutureに社名変更)設立、代表取締役社長に就任。2012年にHR総研設立、所長に就任。約8万人の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、日本最大級の人事向けフォーラム「HRサミット」、経営者向けサイト「経営プロ」などを運営。