その他 2023.09.19

イノベーションが未来をつくる~建設イノベーションフォーラム~ ゲスト:住友林業、竹中工務店、ヤマダホールディングス

タナベコンサルティングは2023年8月「第6回建設イノベーションフォーラム」を開催。 ※

 

タナベコンサルティングは2023年8月24日、「第6回建設イノベーションフォーラム」を開催。建設業の多様な課題に向き合いながら、企業変革・イノベーションを進めてきた特別ゲストによる各社事例、そしてタナベコンサルティングによる講演をリアルタイムで配信した。

※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。

 

 

住友林業:建物のCO₂の見える化に向けて

 

住友林業 木材建材事業本部 ソリューション営業部長 北川 喜夫 氏

 

住友林業
木材建材事業本部 ソリューション営業部長
北川 喜夫 氏
1990年住友林業入社。インドネシアでの合板の仕入れ業務などに従事後、住宅事業における資材調達の責任者として、資材の選定や調達の意思決定に携わる。2022年1月、One Click LCA販売部門が発足し、脱炭素化に向けた建物のCO2見える化の事業責任者として、統括、推進を担っている。

 

脱炭素に向けた長期ビジョンを策定・推進

 

住友林業グループの長期ビジョン「Mission TREEING 2030」では、事業を通じた地球環境、人々の暮らしや社会、市場や経済活動への価値提供を目指している。

 

【図表1】住友林業グループの脱炭素事業

【図表1】住友林業グループの脱炭素事業

出所:住友林業講演資料

 

木には炭素固定という機能が備わっている。炭素固定とは、木が吸収したCO2(二酸化炭素)を炭素として内部に貯留する機能。伐採した木を木造建築や家具などの木材製品に活用することでCO2を長期間、大気に排出せずに済む。

 

木造建築により、鉄筋コンクリート造で建てた場合に排出していたはずのCO2が削減される。木くずや廃材はバイオマス発電に活用することでCO2を削減できる。つまり、木を計画的に伐採して再植林し、社会全体での木材活用を推し進めることで、炭素固定量が増えて脱炭素に貢献できる。

 

伐採・再植林は森林全体で行わず、保全拡大を行う保護林と、木材生産を行う経済林にゾーニングする(循環型森林経営)。例えば、国内のスギの森林では、50年を目安に森林が若返るサイクルを回し、CO2吸収量を増加させる。伐採・再植林する経済林は、年間で全体の2%のみにとどめており、生態系を守りながら森林を若返らせ、CO2吸収量が増加する仕組みを構築している。

 

【図表2】循環型森林経営

【図表2】循環型森林経営

出所:住友林業講演資料

 

このように、森林の適切な伐採・植林に加え、伐採した木材の建築や再エネへの活用により、脱炭素化に貢献している。

 

建物のCO2に関する現状と課題

 

建設セクターから排出されるCO2のうち、約70%を占めるオペレーショナルカーボン※1はZEH※2やZEB※3の普及により削減が進んでいる。一方、エンボディドカーボン※4をいかに削減できるかが今後は重視される。

 

エンボディドカーボン算定の際は、ライフサイクルアセスメント(LCA)※5に沿って、建築物の一生涯の環境負荷を評価することが必要となる。ここで、国際的なエンボディドカーボン算定・開示の動きを見ておこう。

 

■EU全域:2025年以降全ての資材のCO2開示が求められる見通し。建物のライフサイクルカーボンの報告義務化が開始予定。(2027年~2000㎡以上の建物、2030年~全ての建物が対象)

■米国:特定のエリアで、2023年よりグリーンビルディング認証LEED※6が必須化。

■カナダ:バンクーバーで2017年よりエンボディドカーボンの開示が義務化され、現在10~20%の削減が求められている。

 

一方、日本の省官庁のエンボディドカーボンに関する取り組みは、次の通りである。

 

■国土交通省:2022年12月にエンボディドカーボンの評価手法整備などを目的とする「ゼロカーボンビル推進会議」を設置。また、2023年5月の報告書で「2030年エンボディドカーボン算定義務化」が言及されている。

■経済産業省(環境省):カーボンニュートラル実現に向けたサプライチェーン全体でのCO2排出量削減に向けて、製品ベースのCO2排出量算定・開示を推進。

■林野庁:2023年4月に「令和4年度CLT・LVLなどの建築物への利用環境整備報告書」を公表。木材の利活用や建物のCO2算定の必要性などを発信している。

 

次に、日本の民間企業におけるエンボディドカーボン算定の取り組みについて見ておきたい。

 

■デベロッパー(不動産協会):2023年6月不動産協会が「建設時GHG(温室効果ガス)排出量算出マニュアル」を提供開始。自社の物件でエンボディドカーボン算定を公表する事例も出てきている。

■設計事務所、ゼネコン:一部企業は、「建物のLCA指針」をベースにエンボディドカーボン算定ツールを自社開発している。エンボディドカーボンをいかに効率的に算定するか検討を開始。

■テナント:外資系企業が日本で入居する建物に対してLEED取得物件を求め、その取得を要請する動きがある。

 

上記の通り、建設セクターにおける脱炭素化に向けたエンボディドカーボンの重要性は世界中で高まっている。海外では欧州を中心に算定や開示が義務付けられる見通しであり、日本でもエンボディドカーボンの算定・開示に対する関心やニーズが急激に高まっている。

 

一方、日本国内の課題として、「エンボディドカーボン算定ツールの普及」「日本市場に合致した資材ごとのCO2データ拡充」が挙げられる。

 

建物のCO2の見える化に向けた取り組み

 

住友林業は、2022年にエンボディドカーボン算定ソフトウエア「One Click LCA」の日本販売代理店となり、建設業界全体の脱炭素建築の普及に取り組んでいる。

 

【図表3】「One Click LCA」により短時間で精緻にライフサイクル全体のCO2算定が可能

【図表3】「One Click LCA」により短時間で精緻にライフサイクル全体のCO2算定が可能

住友林業「One Click LCA」サイト

 

すでに世界140か国以上で導入されており、2022年8月、日本版ツールの販売を開始。以来、多くのデベロッパー、ゼネコン、設計事務所などで導入が進んでいる。

 

One Click LCAにより、建物の資材数量を元に、短時間で精緻にライフサイクル全体のCO2を算定できる。One Click LCAは、コンセプト段階の簡易算定機能(カーボンデザイナ3D)と、主機能である詳細算定機能を併せ持つ。

 

簡易算定機能(カーボンデザイナ3D)は、設計の初期段階で利用できるCO2の算定機能。建物の延床面積、階数、用途などの情報のみで概算排出量を算出できる。一方、詳細算定機能は、実施設計段階での部材情報に基づき、エンボディドカーボンの算定を行う。

 

One Click LCAの特長は3つある。

 

① CO2排出量の精緻な算定

・ISO準拠の汎用データや環境認証ラベル「EPD」が利用可能。

・「施工」時の省エネなどさまざまな企業努力を結果に反映できる。

② 国際認証との高い適合性

・国際規格ISOや60以上の世界のグリーンビルディング認証に適合。

③効率的なデータ算定が可能

・資材データはBIM※7・エクセルから取り入れることができる。

・ライフステージごとのCO2を自動計算で効率良く算定できる。

 

今後は、①日本の建築現場の実態に合わせた自動算定の条件設定、②BIM・エクセルデータ作成の効率化、③日本市場に合致したISO準拠の原単位の整備・拡充に向けてEPDの普及に注力していく。

 

EPDとは、原材料調達から廃棄・リサイクルまでの、製品の全ライフサイクルにわたる環境影響を見える化したISO準拠の環境認証ラベルである。

 

日本ではEPDの取得件数が少ないのが現状だ。メーカー側のEPD取得に関わる負担(データ作成、申請作業、取得・維持コストなど)を軽減し、取得促進するサービスが必要となる。

 

EPDの普及拡大に向けて、住友林業は2023年2月に、メーカーのEPD取得を支援するソフトウエア「EPDジェネレータ」の販売を開始。EPD ジェネレータにより、煩雑なEPDプロセスの自動化、時間・費用・労力の削減が可能となる。

 

また、2023年にはOne Click LCAを活用したCO2(GHG)排出量算定業務を受託し、精緻かつ国際認証に適合した算定結果を提供するサービスを開始している。

 

建設セクターの脱炭素化に向けて、今後はエンボディドカーボン削減の重要度が増していく。エンボディドカーボン削減には、CO2排出量の精緻な見える化が求められ、CO2排出量の精緻な把握には、EPDの普及が必要不可欠となる。

 

当社は日本版One Click LCAソフトウエア普及やメーカーに対するEPD取得推進事業の展開により、建設セクターの脱炭素化に向けて、業界の皆様と連携・協業していく。

 

※1 居住時・使用時に発生するCO2

※2 Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略。家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家

※3 Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物

※4 一連の建設プロセスで発生するCO

※5 製品・サービスのライフサイクル全体、またはその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法

※6 環境配慮された優れた建築物を作るため先導的な取り組みを評価するグリーンビルディングの国際的な認証プログラム(環境性能評価認証システム)

※7 ビルディング インフォメーション モデリングの略。コンピューター上に現実と同じ建物の立体モデル(BIMモデル)を再現し、建築ビジネスの業務を効率化などに活用していく仕組み