【第2回の趣旨】
採用を経営課題と捉え、全社的に推進していく「戦略採用」を実践する企業に、そのエッセンスを学ぶ戦略採用研究会。当研究会では、採用の成功事例を研究し、採用難の時代でも自社の戦略にマッチした人材を獲得するためのイノベーションのヒントを提供している。
第2回は「採用トレンドを捉える」をテーマに2社のゲスト講師を迎え、ゲスト企業による講演と、研究会参加者のディスカッション、ゲスト企業講師とのコミュニケーション、また、採用に関して専門的な知識を有するタナベコンサルティングのコンサルタントによる解説を通じて、ターゲット人材にアプローチする適切な採用スタイルについて研究を行った。
開催日時:2023年4月28日(大阪開催)
代表取締役社長 山本 勇輝 氏
はじめに
製造業において、ベテラン職人の持つ技術を、次の世代に引き継ぐために社内にノウハウとして留め、さらに進化・発展させたいと願う企業経営者は多いだろう。
アルミの切削加工事業をはじめ、装置開発事業やソフトウェア開発事業まで手がけるHILLTOPは、そうした「職人技」をひとつひとつ定量化し、その最適値をデータベース化し、ルーティン作業は機械に任せることを目指して、「HILLTOP System」という独自のシステムを開発した。
このシステムにより、人はルーティン作業から解放され、知的労働に集中できる。加工方法をデータベース化しておけば、リピート注文もすぐ対応でき、機械は24時間無人稼働で製品を作ることができる。
2008年のリーマン・ショックを「優秀な人材が獲得できるチャンス」と捉え、新卒採用に舵を切り、「HILLTOP System」を核としたビジネスモデルの存続・発展にリソースを割いた同社の採用戦略を学ぶ。
まなびのポイント 1:24時間無人稼働の工場を支える「HILLTOP System」
従来、自動車メーカーの孫請けとして毎日同じ製品を大量生産する鉄工所で、毎年要求されるコストダウンに対し、残業による利益確保を行っていた。また、日々の業務がルーティン化され、社員のモチベーションも低下、先行きが憂慮される状況であった。
こうした現状を打破すべく、売上の約8割を占めていた自動車メーカーとの取引を打ち切り、大量生産から多品種少量生産へ特化することを決めた。
ルーティンワークと“人がやるべき仕事”の仕分け。新規切削品の加工シミュレーションのバーチャル化・ “職人技”をデータ化し、共有知にすることで製造に精通していなくても工作機械のプログラムが組める仕組みを独自開発。工場中心のものづくりからオフィス中心のものづくりへの転換が図られた。 これらの独自生産システムが「HILLTOP System」である。
製造業のイメージを一変させようと、2008年にピンクの外観の新社屋を完成。働く環境の改善を支えたのが独自開発の「HILLTOP System」である。製造未経験者の文系出身者でも入社約3カ月で工作機械のプログラムが組めるようになり、製造業ながらテレワークの促進も実現。まさに同社の理念「理解と寛容を以て人を育てる」に沿ったものである。
まなびのポイント 2:事業戦略に基づく採用戦略
今後HILLTOP Systemを機能拡張させていくために、プログラマーの人員は欠かせなくなる。そこで新卒採用を始めた同社は、採用活動初年度の2010年にエントリー3500名、会社説明会参加600名、新卒入社10名を達成。その後10年間で社員数を約4倍に増やしながら、売上も順調に拡大させていった。
母集団形成を成功させる核となったのが「“人”を魅せるブランディング」である。初任給や休日日数を訴求する企業が多く見られる中、同社は、求める人物像の言語化、説明会プレゼンターの育成、複数回のインターンシップや産学連携などのファン獲得活動などに取り組んでいる。
会社説明会、インターンには若手中心のリクルートチームで挑む。また、リクルートメンバーは毎年変わる。内定者に対しても、顔合わせ・自己紹介ツールの共同作成など、入社前フォローを行っている。
まなびのポイント 3:採用者に対する取り組み・考え方
「私のためにこんなに時間をかけてくれる会社は他にはなかった。」これが同社で面接を受け、入社した社員の評価である。採用したい学生は、当然他社にもそう思われている。同社は面接を“勝負の場”と位置付け、面接には1回1時間以上もかける。接点強化により、共感、入社への決断を促進させているのである。
採用の基準となるのが、自身より優秀な人材か、自身が最後まで面倒を見れるか、一緒に働きたいか。欲しい人材がいなければ1人も採用しない。経営理念、ビジョンや事業方針、更には人材育成まで、わが事として捉え、変化する“人の価値”を最適化するためである。
HILLTOPファン獲得活動の一環。近隣大学の留学生を招いて工場見学を行っている。写真はその後の交流会の様子。