【第5回の趣旨】
“リアル”と“デジタル”が融合し、その境目がなくなる中、商品やサービス、人材・採用、さらには会社そのものの価値の再定義すら必要な時代が到来している。物理的価値や金銭的価値だけではステークホルダーから選ばれにくくなるにつれ、本質的欲求をもとにした「体験価値」のデザインが、ブランディングの一環として欠かせなくなっているのだ。
ナンバーワンブランド研究会では、ポストコロナ社会の価値観を踏まえた上で、自社の価値を再定義していく。第5回は、折れ戸業界のニッチトップ企業・TOKOのインナーブランディングと、日本酒のハイブランド・黒龍酒造(石田屋)のパーパスブランディングに学んだ。
代表取締役社長 佐々木 知也 氏
株式会社TOKO
専務取締役 佐々木 紘 氏
はじめに
1955年創業のTOKOは、福井県鯖江市に本社を置く、アルミ折れ戸製造のナンバーワンブランド企業である。「折りたたむ」という技術を建材商品に導入し、それをコア技術として約70年にわたって発展を続けている。
バブル崩壊後、第2創業として大きな変革を行い、危機的状況を乗り越えてきた経験を持つ代表取締役社長の佐々木知也氏は、経営環境が変化する中、メーカーのプライドとして「失敗を恐れない開発」を貫徹。失敗を恐れず変革に挑める、心理的安全性の高い企業風土を醸成している。
近年は経営理念を再構築したほか、社員に寄り添って業務の負担を減らすDXを推進。「心理的安全性+作業ミスのない生産環境」という“心と体”に良い環境づくりを通じたインナーブランディングに成功している。
「イスターカーテン」の施工例。福井県「道の駅南えちぜん山海里」(左)、岡山県「さんすて岡山」(右)
まなびのポイント 1:「3つのこだわり」によるオンリーワン戦略
同社は創業当時の思いである「一歩先を想像し、半歩先を創造する」をスローガンに、アルミ製の折りたたみドア「イスターカーテン」、住宅の駐車場などに設置する伸縮門扉(カーテンゲート)、住宅用全開口サッシといったオンリーワン製品を開発。①ニッチ市場にこだわる、 ②「折れる・伸縮・収納」というニッチな技術にこだわる、③「面白い」にこだわる、という3つのこだわりでプロダクトアウトの製品開発を行っている。
開発力の源泉は「若手開発人材」。平均年齢30歳という若い人材による開発力で面白い商材を生み続け、オンリーワンであり続けている。
開発力の源泉は若手開発者。長い開発の歴史の中で失敗をたくさん経験してきたからこそ、挑戦を恐れずチャレンジできる企業風土が醸成されている
まなびのポイント 2:経営理念の再構築でインナーブランディング強化
同社は2021年、社長と経営幹部によって経営理念を再構築。社内への浸透策として、まずは管理職を対象に、プロのファシリテーターを入れた理念研修会を5回実施した。現在は階層別に順次、研修会を行いながら周知を続けている。
理念再構築の後、上位層から順番に粘り強く育成を続けていくことで、社員の価値観の統一と共有が図れるようになったという。研修会リポートを通じたフィードバックも含めて、同社は会社と社員の相互理解を続けていく考えだ。
まなびのポイント 3:「人を生かすDX」を推進
同社は、各工程の小さな自動化を推進する、現場で働く社員に寄り添ったDXで、DXという全社改革を「自分事化」させるインナーブランディングも実施している。新入社員を「ものづくり革新部」に配属し、デジタルに慣れてもらいながら、現場での改善を教えることで、若手を早期に戦力化していくとともに、将来のキャリアの幅を広げている。自社の強みを「コア技術」と置くのではなく、「コア技術を生み出す人材」とし、変革に挑み続けているのだ。
世の中はデジタル人材不足だが、会社の環境・風土が良ければ、地元のデジタル人材を採用できる。機械的に生産性アップを目指すDXではなく、「当たり前に働きやすい環境づくり」を目的としたDX推進で、採用にも良い影響をもたらしている。
デジタルチームと設備チームの融合で、DX推進が実現。
現場に寄り添った無理のない変革を行っていく企業文化が根付いている