建設ソリューション成⾧戦略研究会では、秀逸なビジネスモデル・経営ノウハウを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を創出し、経営改革・業務革新のヒントを提供する。第2回は、建設業における「情報化」
「生産性向上」について、先駆的な取り組みをしている演算工房、DataLabsの2社に講演いただいた。
開催日時:2022年12月20日、21日(京都開催)
代表取締役 林 稔 氏
はじめに
演算工房は、京都に本社を置く、建設工事現場向けソフトウェア開発・システム開発を行う企業である。「山岳分野・シールド分野での世界No.1システムカンパニー」を標榜し、大手ゼネコンとTBM(トンネルボーリングマシン)メーカーを主要取引先として事業を展開。第二東名高速道路、北陸新幹線などの大規模山岳トンネル工事の受注、シンガポールや上海への拠点展開などを機に業容を拡大し、新型コロナウィルス感染拡大前は売上高28.6億円、社員数140名の規模に成⾧。売上高経常利益率は18.7%と、高い利益率を達成した。
建設産業は労働集約型で一品一様、IT化・システム化が遅れており、生産性が低い産業だという現状は否めない。林氏はその建設産業を、魅力ある産業にするために同社を立ち上げたという。
まなびのポイント 1:たゆまぬ技術開発 ~60件以上の特許申請実績~
同社はトンネル分野に特化して、技術開発を進めてきた。特に「計測の自動化と省力化」には力を入れており、最近ではトンネル坑内を情報ネットワークで結び、トンネル掘削の最先端と事務所の即時情報共有・計測データなど情報の可視化に取り組んでいる。「測る技術(計測制御技術)」「つくる技術(ハード制作技術)」「見せる技術(ソフト開発技術)」「つなぐ技術(ネットワーク技術、エンジニアリング技術)」。これら4つのコア・コンピタンスを駆使して、常に新しいシステムを開発・提供している。
これまでに60件以上もの特許を申請してきた同社。特許申請をすることで、自社開発システムに特許庁のお墨付きが得られ、開発に携わった社員のモチベーションが上がるという。
トンネル・シールド工事の現場を体感できるショールーム型の本社。
まなびのポイント 2:グローバル展開 ~2000現場以上の海外現場へシステムを提供~
同社の主戦場は山岳・シールドに代表されるトンネル工事である。これまでに同社のシステムを提供してきた日本国内の現場は3700以上、地下鉄建設が進む東南アジア(シンガポール)をはじめ、海外の現場は2000以上にも上る。
今後、トンネル施工における技術革新は急速に進むと予測されている。そのため同社では「国内では既存サービスの高品質化を追求し、海外において量的成長を図る(海外サービスの多様化への対応)」を基本戦略として、さらなる成長を目指している。
まなびのポイント 3:先駆者として、開発者としての誇り
同社は、トンネル施工で得られるあらゆる情報を計測・収集し、見える化することで、現場技術者の業務負荷を軽減するという顧客価値を提供している。デジタルツイン(収集したさまざまなデータを活用し、コンピュータ上で現実の環境を再現する技術)、AR(拡張現実)、ロボットなど、その技術は業界の最先端を行く。それらの技術を開発する人材の確保と育成も、同社の成長を支える重要な要素だ。「システム開発者に求めているのは、現場技術者の声(要望)を読み解きながら理解し、システム・ソフトウェア開発に反映させる力」という林氏。システム開発や土木の現場経験を持ったキャリア人材を採用するだけではなく、文系や女性の学生を採用し、実際の業務を通じて育成している。
坑内の様子。あらゆるデータを現場事務所の大型モニターで監視できる。