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研究リポート
『成長M&A』実践研究会
「戦略」と「実行のスピード」をポイントに、アフターコロナ時代に求められる戦略の方向性と、それを実現するためのM&A・アライアンスの手法を学びます
研究リポート 2023.04.11

V字回復の起爆剤としてのM&A戦略とホールディングスの役割:株式会社 学研ホールディングス

【第1回の趣旨】
当研究会では、M&Aのモデルを確立している企業から独自のM&Aノウハウと業種の特徴を取り入れた事例を学ぶ場を提供する。M&Aを活用した成長戦略を実現し、自社の企業価値を向上させるための道しるべを提示。第1回のテーマは「M&A戦略構築の手法を学ぶ」。ゲスト2社(学研ホールディングス、TAKUMINOホールディングス)による「M&A戦略」についての講演を配信し、M&Aを積極的に推進する企業の戦略構築について深く考察した。
開催日時:2023年2月22日(東京開催)

 

株式会社学研ホールディングス
取締役  安達 快伸 氏

 

はじめに

学研グループは現在「教育分野」と「医療福祉分野」の2本の柱で事業を展開している。これまで、教育・出版をメインの事業としてきたが、これからは「ゆたかな生へ」をテーマに事業の拡大を企図している。
学研グループは19年間連続で減収減益という低迷期があった。低迷期の終盤(2009~2010年ごろ)である2009年には持株会社化を進め、これを機にM&Aによる事業拡大を本格化。オーガニックでは時間を要してしまう新たな領域をM&Aで強化し、積極的にポートフォリオを組み換え、強固な事業基盤を築いてきた。M&Aを起爆剤としたV字回復を実現し、現在も成長曲線を描いている最中である。同社がなぜM&Aを成長戦略として採用したのかに迫る。

 


 

まなびのポイント 1:M&Aの基本姿勢・投資基準について

 

直近15年間で約20社をM&Aでグループインしてきた学研グループ。同社の売上高の4割(663億円)はM&Aでグループインした企業で構成されている。件数実績は進学塾のM&Aが圧倒的に多い。

 

M&Aに取り組み始めた初期は、もっぱら救済型(経営不振の会社をグループイン)の案件が多かった。その後、シナジー型(相乗効果を狙ったもの)、現在は戦略型(企業価値向上を狙ったもの)とM&A戦略を変化させてきた。そして、これからは共創型(パートナーシップを組む)のM&Aを実施していく方針だ。

 

M&A実施に当たっては明確な基本姿勢(7つの考え方)と投資基準(9つの要素)がある。ブレない姿勢と基準があるからこそ、持ち込まれた案件に対してしっかりとした判断ができる。


各地域で有力な塾会社をM&Aでグループイン。シェアの拡大を実現してきた

まなびのポイント 2:各事業のM&Aについて(明確な狙いを持った投資)

 

教育サービス事業では主に小中学生向けの「学研教室」を全国47都道府県で展開している。これは学研グループの既存(自前)事業であるが、ターゲット層を拡大(対象を小学生だけでなく中学・高校生まで広げる)し、学習塾のM&Aを積極的に実施。学研塾・教室ネットワーク(中学・高校生)を構築して、全国の主要都市に展開していく狙いがある。また、リアルからオンラインサービスへの展開、エリア戦略としては地域差の解消、また個別最適化し、時代に即した学習法も提供している。

 

「学研版地域包括ケアシステム」の実現を目指し医療福祉事業においてもM&Aを実施。介護事業はドミナントで展開し、0歳から100歳を超える高齢者まで学研グループのリソースを一体化させ、地域の中で安心して暮らし続ける街を作り出す計画だ。


「学研教室」は幼児・小学生・中学生の「自分で考える力」を育てる

まなびのポイント 3:2021年以降の投資(戦略の移り変わり)

 

昨今のM&A戦略のテーマは「囲い込みから戦略的共創へ」である。「企業を評価するM&A」から「業界再編・社会課題対応型M&A」へのシフト。同業の企業をM&Aするのではなく、さまざまな企業、組織、団体、個人と結び付きながら、協調して互いの収益モデルと経済圏をつくり上げるエコシステムの中で、学研経済圏を拡大する戦略を取っていく。

 

M&Aによる提携先とは慎重に関係性を築くようにしている。例えば、社内では「買収」ではなく、「グループイン」という表現を標準語としていることが挙げられる。また、同社常勤取締役6名のうち3名、執行役員8名のうち1名がグループインした企業のメンバーであることも、グループ一体での経営に重きを置いている証しだ。提携先は事業を成長させていく大事なパートナーであることを念頭に置き、今後もM&Aを推進していく。


「学研版地域包括ケアシステム」によって、地域と連携した「暮らしのサポート」を行う計画だ