ライフスタイルビジネス研究会(第3期)は「CX(顧客体験価値)」を追求し、真のライフスタイルカンパニーへ進化しよう」をコンセプトとして掲げている。第2回では、「①自社事業と地域社会課題を結び付け、社会貢献型ビジネスを構築」「②ライフスタイルカンパニーにおける多角化」「③顧客をファン化するノウハウとその考え方」の3つをテーマとし、それらを実践している2社(レバンガ北海道、竹栄)に講演いただいた。研究会参加者は、講演受講とともに、竹栄が運営する無人店舗「Manhattanstore Mujin(マンハッタンストア ムジン)」を視察し、新たな試みによって生み出されたCXを体験した。
竹田 尚弘 氏
はじめに
1928年創業の竹栄株式会社は、北海道札幌市に本社を置く、アパレル商品の総合卸売会社である。2023年に創業95周年を迎える老舗企業だが、オリジナルブランドの開発や海外進出など、新たな挑戦を重ねて発展。近年は、インターネット通販や無人店舗など新規販売チャネルの開拓や、自社ブランドのリブランディング、フォトスタジオやフードシェアリングサービスといった新規事業開発により、事業を多角化している。
また同社は、古着の回収やフードロス削減など、SDGs達成や地域社会への貢献にも積極的に推進。研究会参加者は、自社の事業を「卸問屋」から「マッチングサービスの提供による社会課題解決」へと定義し直した同社のビジネスモデルと、企業価値を高めるバリューチェーン設計について学んだ。
まなびのポイント 1:‟子ども“を軸に、卸売事業で培った企画力を小売・サービス業へ展開
同社は婦人服をメインに紳士服・子ども服・スポーツウエア、作業着、肌着など、幅広いアパレル商品を取り扱い、自社ブランドも複数立ち上げている。2013年には「北海道発のスポーツウエア」をコンセプトに自社ブランド「YUK(ユック)」をリブランディング。
自然環境が厳しい北海道の地で培ったノウハウを生かし、親子でスポーツを楽しめむためのスキーウエアや「動ける寝袋」などの商品を開発した。開発に当たっては、卸売事業で培った企画力を発揮。消費者の声を聞き、その声に応える機能を持たせるなど、毎シーズン改良を続けている。販路に関しては、自社で価格・利益をコントロールできるインターネット直販をメインとしている。
消費者の声を取り入れた「YUK」の子ども用スキーウェア
まなびのポイント 2:デジタル技術を活用し、地域初のサービスを実現
同社は中長期経営戦略に「デジタル化」を掲げるなど、デジタル技術を活用した新しい取り組みへ積極的にチャレンジしている。そのうちの一つがフードシェアリングサービスの「PLUS FOOD(プラスフード)」だ。廃棄食材を抱えた飲食店と顧客をサブスクリプション制で結び付けるサービスにより、フードロスという社会課題の解決に貢献している。
また同社は、コロナショックを経た2021年4月に、24時間営業・年中無休・キャッシュレス決済のみの完全無人の会員制アパレルショップ「Manhattanstore Mujin」を札幌市にオープン。年会費・月額ともに無料で、会員登録後はスマホを使って好きな時に出入りして買い物ができる仕組みを導入した。非接触型アパレル店という新たな体験価値を顧客に提供しつつ、直営店運営の課題である人手不足や人件費増の解決策の一つとしている。
札幌市のフードロス削減を目指すサブスク「プラスフード」。参加店舗は100店超。利用者は月額1078円(税込み)で月10回まで食品を受け取れる
まなびのポイント 3:製造と物流をアウトソーシングし、コア業務に集中
日本国内で人件費などの製造原価が上がっていく中、同社は1985年に自社工場を閉鎖。以来、韓国や中国の工場へ製造を委託し、製造原価を抑えている。同社のバリューチェーンを見ると、製造機能と物流機能を全てアウトソーシングすることによって固定費を変動費化し、コストを削減するとともに、企画・開発や販売といったコア業務に社員が集中できる体制を整えている。こうした体制の構築が、時代のニーズに合わせ、独自のアイデアで新規事業の企画・開発を行える経営基盤をつくっている。
北海道初、24時間オープンの会員制無人アパレル店「Manhattanstore Mujin」