ライフスタイルビジネス研究会第3期は「CX(顧客体験価値を追求し、真のライフスタイルカンパニーへ進化しよう」をコンセプトとして掲げている。タナベコンサルティングの基調講義ではライフスタイルビジネスの潮流を説明した。また、CX(顧客体験価値)を追求する3社のゲストを講師にお招きし、CXに対する理解と重要性についてお話いただいた。
視察会場としてボーネルンドの“室内あそび場”「キドキド」を訪れ、参加者は身をもってCXを体験することができた。
村上 裕子 氏
はじめに
株式会社ボーネルンドは、子どもの“あそび”を大切にする国であるデンマークの「Borne」(子ども)と「lund」(森)という言葉を社名の由来とし、1977年に日本で創業した。「あそびを通して、子どもの健全な成長に寄与し、人間らしい健全な社会を創る」ことを経営理念に掲げており、「①大型遊具の輸入販売」、「②教育玩具の輸入・開発・販売」、「③あそび場の開発・運営」が、事業の柱になっている。あそびを中心にビジネスを展開している同社の取り組み事例を通じて、常に新しい顧客体験を提供し続けるビジネスモデルを学んだ。
ボーネルンド ブレイニ―ストア 阪急梅田本店
まなびのポイント 1:「子ども」というマーケットに対し、どのような体験価値を創造しているのか
同社は、あそびを「多様な実体験を『楽しく』、『自分からやりたいという意欲を持って』、『繰り返し』体験し、自らの生きる力を獲得できるもの」と考えている。しかしながら、現代の日本の子どもは、数十年前の子どもに比べ、あそぶ機会が減少しているという。そのような子どもに対して、同社は、事業を通じて「能動的にあそべる機会」を提供し、自立した大人へ成長するように導くことを体験価値として位置付けている。
親子で遊べる室内あそび場「キドキド」
まなびのポイント 2:②地域社会に対してどのように連携し、社会的価値を提供しているか
多くの地域自治体は「子育て層の孤立化や子どもの体力低下」「地域コミュニティの衰退・多世代交流の不足」「人口流出・少子高齢化」などの課題に直面している。そのような課題に対して、親子が安心してあそべる施設を数多く提供してきた同社のノウハウを活用し、各地の自治体や企業と協働してこれまで50カ所以上のあそび場を開発してきた。これらの施設の開発は、幅広い世代の方々が交流するきっかけとなっている。すなわち、地域のコミュニケーションのハブとして機能し、町の活性化という社会的価値を生み出しているといえよう。また、このような自治体・企業との連携を進めていく中で、他の法人顧客からも案件を持ちかけられる機会が増え、顧客創造の善循環が生まれている。
地域の課題とあそび環境づくりの効果
まなびのポイント 3:③事業の主点をどこに置くのか
同社の業態は、一般消費者向けの小売り・EC事業、法人向けの卸事業、そして、あそび場の企画・開発・運営のサービス事業で構成されている。
単純な収益性のみで考えると、あそび場に関するサービス事業が最も収益が高いそうだが、一般消費者向けの小売り・EC事業がそれ以上に重要な事業であると考えているという。なぜならば、多くの卸事業やサービス事業に関わる法人や自治体の担当者が、一般消費者として、同社の商品に触れることが、同社との最初の接点になるからである。
つまり、小売り事業・EC事業によって同社の認知度を高めることで、他の事業とのシナジーが生まれているのである。この2つの事業が、同社のブランディングに大きく貢献してており、企業価値を高めているとも言える。