当研究会では、大きな経営テーマの1つである「人材育成」について、企業による社員教育ではなく、学校教育現場の取り組みを中心に紹介する。教育の最先端は学校教育現場にあり、保育・幼稚園から大学に至るまでの教育モデル・コンテンツを研究することで、自社の人材教育に生かすことができる。第2回では、学校法人佐賀星生学園と株式会社コーユービジネスを訪問・視察。佐賀星生学園の教育モデルと、コーユービジネスが開発したARプログラミング教材を体感し、時代の先をゆくアイデアから人材育成に関するポイントを学んだ。
開催日時:2022年12月1日、2日(九州開催)
システム 部長 泓原(ふけはら) 敏夫 氏
はじめに
コーユービジネスは、1960年の創業当初からビジネスフォーム(高精度の印刷が求められるATM利用明細書やOCR帳票類)の製造・販売を手掛け、官公庁や企業の情報処理をサポートする印刷とシステムのスペシャリストだ。デジタル化、ペーパーレス化が進む時代の変化に応じてビジネスモデルを転換する中、2019年にARプログラミング教材「Ai.R Cord®(エーアイアールコード)」を開発。拡張現実(AR)技術により、子どもが「プログラミング的思考」「論理的思考」をゲーム感覚で学べる教材として、多くの小学校で導入されている。
また、同社は佐賀県初の厚生労働省認定ITマスターとして、佐賀県内の小学校でロボットを使ったプログラミング授業も実施。研究会参加者は、実際にARプログラミング教育を体験しながら、最先端の技術を通して得られる学びをひも解いた。
まなびのポイント1:社会動向を踏まえたビジネスモデル転換
同社はコンピューターの普及とともに増加したビジネスフォームの製造・販売事業で成長を遂げてきた。しかしその後、ペーパレス化が進んでビジネスフォーム市場は縮小。IT分野にも進出していたが、人月(人数×時間)に頼るSES(システムエンジニアリングサービス)では成長に限界があると考え、パッケージ商品の開発で全国展開を目指していた。
このような状況の中、2017年に小学校でロボットプログラミング授業を実施した経験から見えた教育現場の課題と、2020年4月に迫っていた小学校のプログラミング教育必修化、さらに「子どもにこそ最先端技術に触れて学んでほしい」という泓原氏の思いが、プログラミング教材パッケージ「Ai.R Cord®」の開発という新分野への挑戦につながった。
開発者である泓原氏によるARプログラミング教材「Ai.R Cord®」の解説
まなびのポイント2:学校現場に最適なプログラミング教材
プログラミング教育に関する学校現場の課題はさまざまだ。例えば、ロボットやブロックを用いる授業では、破損・紛失・けがのリスクや、高価で導入ハードルが高いといった課題がある。無料公開の「Scratch(スクラッチ)」というプログラミング言語を使う方法もあるが、子どもにとっては抽象的であり、ビジュアルも平面的で面白みが少ないため「楽しめる教育ツール」としては活用が難しい。
また、ほとんどの教員はプログラミング経験がないにもかかわらず、外国語の教科化などで負担も増え、リスキリングに時間を割く余裕がない。導入費用が児童・生徒1人当たり年間600円で、直感的に操作できプログラミング経験・知識が不要な「Ai.R Cord®」は、こうした現場の課題を解決できる教材である。
研究会参加者も「Ai.R Cord®」を体験。プログラミング未経験でも楽しく取り組めていた
まなびのポイント3:楽しく学ぶことで学習意欲や教育効果が高まる
「Ai.R Cord®」には、子どもの感性を刺激する仕掛けがたくさんある。何もない空間にキャラクターや動物が飛び出すといった、ARによる「わくわくするプログラミング」を体験できることが大きな特徴だ。タブレット端末のカメラにマーカーをかざすとキャラクターや問題が現れて自由に動かせるなど、これまで教室では不可能だった新しい教育を実現できる。
また教育にゲームの要素を組み込むことで、学習意欲や教育効果が高まることも期待できる。特定の教科や学年だけでなく、複数の学年・複数の教科にわたって活用でき、プログラミングの基本を系統的に学べる点も、プログラミング学習を始めたばかりの小学生に最適な教材と言えよう。
各教科の「プログラミング的思考」部分を抽出・教材化しているため、学校現場で活用しやすい