やってみれば分かる
いま、企業の経営者は未来を変えようとしている。2023年春の賃上げ率は大企業も中小企業もそろって大きく前年を上回った。この流れで大きいのは「賃上げが先、生産性は後」という考え方へのパラダイムシフトである。バブル崩壊以降、幾多の社会・経済ショックを経験した経営者は、いつの間にか「石橋をたたいても渡らない」ことが多くなっていたが、そんな思考と決別したのだ。
経営環境は厳しく、変化も激しい。一方で、経営者は新しい経営技術を多く手に入れている。パーパス経営、中長期ビジョン経営、ホールディングス・グループ経営、成長戦略M&A、DX、人的資本経営、ジュニアボードシステム、ブランディング、PRなど、数えれば切りがないほどである。
コンサルティングでこうした経営技術を使う際、経営者からよく相談を受ける。「中長期ビジョンを立てても環境が変わってしまうのでは……」「M&Aを行っても経営人材が不足してくるのでは……」など、内容はさまざまである。その都度、経営技術の有効性を説明しているものの、まだ経験していないことだったり、過去の失敗体験が邪魔をしたりして、決断のスピードが鈍ることはよくある。
そんなとき、私がコンサルタントとして経営者へかける言葉は、「やってみないと分かりません」。無責任に聞こえるかもしれないが、つまり「やってみれば分かる」――「決断と行動によってのみ変わる」という意味だ。
例えば、M&Aを数多く経験し、ホールディングス・グループ経営に移行した経営者は、どうすればM&Aがうまくいくか、グループ経営はどうすればシナジーが発揮できるかを、試行錯誤しながら学び取っている。「やっているから分かってくる」のだ。
この数年、必要に迫られて取り組んできた「働き方改革」は、悪い結果を招いただろうか? 否、良い結果を招いたと思う。「賃上げが先、生産性は後」という今回の経営者の決断も、必ず自社に良い結果を導くだろう。
ぜひ、「決断と実行」によって未来づくりのスピードを上げていってほしい。やってみれば分かる。経営者として“見える景色”を変えていっていただきたい。
タナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社後、北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、2013年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアントの特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。