3Dプリンター住宅「Sphere(スフィア)」。グランピングや別荘、また災害復興エリアでの利用も想定されている © Clouds Architecture Office
人口減に加え、65歳以上高齢者のいる世帯が4割を超える「社会課題解決時代」が到来している。さらに、2100年の国内人口は高位推計でも5000万人を切ると予測されている。縮小する市場の中で競争を続けていては、業界全体が疲弊するだけで、明るい未来はない。当研究会では、「住まい」というハードに「暮らし」というソフトを付加し、商品・サービスの価値を高めること、1人の顧客と末永くつながり続けること、周辺分野への進出、コミュニティづくりなどを事例企業から学びながら、業界全体を成長させる「共創」の視点で業界の継続発展を目指している。
開催日時:2022年12月07日、08日(大阪開催)
COO 飯田 国大 氏
はじめに
2018年8月設立のセレンディクスは、「世界最先端の家で人類を豊かにする」を理念に掲げ、“3Dプリンター住宅”を展開するスタートアップ企業だ。「クルマを買い替えるように家を買い替える」という斬新な発想で、高性能かつ安全・安価な家を誰もが手に入れられる社会の実現を目指している。同社は2022年3月、日本初の3Dプリンター住宅「Sphere(スフィア)」をわずか23時間12分で完成させた。この快挙は世界26カ国59媒体でニュースとして流れ、セレンディクスの名は瞬く間に世界へ広がった。「100㎡ 300万円」の住宅販売を目指す同社が考える未来の住宅とは何か。環境負荷の軽減などで社会課題を解決しつつ、ゼロから1を生み出し続けてきた同社のCOO・飯田国大氏に、住宅業界を大きく変える未来の家づくりのビジネスモデルについて講演いただいた。
24時間弱で完成した3Dプリンターの家「Sphere(スフィア)」(愛知県小牧市、2022年3月完成) © Clouds Architecture Office
まなびのポイント 1:セレンディクスが考える「未来の家」
同社が考える未来の家には三つの要素がある。一つ目は、「健康」をつくり、予防医療を実現するセンシング要素を取り入れること。住宅×IoTより、家全体にセンサーを張りめぐらせ、体の状態をデータに蓄積し、病気になる前に予防できる環境を整備する。二つ目は、住宅そのものを「コンテンツ」とすること。内壁全てに液晶を貼り、いつでも自然の中や世界のどこにでも行くことができる空間を創り上げる。ヘッドマウントディスプレーを装着する必要がないため、VRなどと比較するとリアリティーを増すことができる。三つ目は、「帰巣本能」をくすぐるようなジャストフィットな家であること。出先でなく自宅で生活する安心感は健康にとって非常に重要なため、コンシェルジュサービスの拡充なども検討している。
3Dプリンターで造形したパーツを組み合わせるため、建材費や人件費を抑えられる
まなびのポイント 2:住宅の脱炭素化に資する技術開発
3Dプリンター住宅の材料はコンクリートである。コンクリート住宅は、高気密・高断熱で“脱炭素住宅”として非常に優れている。しかし、製造過程においては二酸化炭素を排出するため、脱炭素化に反してしまう。そこで、同社は現在、AGCセラミックス社との協業で、さらなる脱炭素化に資するセラミック造形材を使った3Dプリンター住宅を開発中である。
セラミックスは、構造強度・耐火性・耐水性・断熱性が高く、非常に優れた素材である上、コンクリート住宅では実現しにくいデザイン性の高い内装仕上げが可能となる。造形後に釉薬(ゆうやく)をかけて再焼成することで、質感を向上させたり着色したりすることができることも検証済みである。
一定の条件を満たせば建築確認申請が必要ない床面積10㎡のサイズ © Clouds Architecture Office
まなびのポイント 3:最新技術とオープンイノベーションで住宅を再開発
同社は「進歩とは力の結集」であると考え、「世界最先端の家を実現するコンソーシアム」を組成している。加盟企業は2022年12月現在で170社を超えており、大手住宅メーカーからユーチューバーまでさまざまな企業や人材が参加している。2023年には、3Dプリンター住宅をオランダや中国など海外5カ国で、現地の3Dプリンターメーカーへの製造委託により販売予定。また、「30年の住宅ローンからの開放」をコンセプトに、2025年の「大阪・関西万博」への出展で全世界へアピールすることを目指している。業界の常識にとらわれない共創力で、耐震基準などの安全性を守りつつコストや施工期間を削減し、誰も見たことがない“最先端の家”で世界の住宅事情を変えるセレンディクスの挑戦は続く。