その他 2023.02.01

営業DXを成功させる重要ポイントとは?自社事例から解説 ランスタッド

営業DXを支えるのは確かな現場感覚:ランスタッド

 

 

顧客の「今の心境」に寄り添う情報をベストタイミングで届けるMA(マーケティングオートメーション)ツール。成果の出る運用の舞台裏には、確かな現場感覚を持つDX(デジタルトランスフォーメーション)担当者のアナログな手作業があった。

 

 

コロナ禍で顧客との接触機会が激減

 

世界38の国や地域で総合人材サービスを展開するランスタッド(本拠地:オランダ)。創業以来、労働市場の動向をリアルタイムにキャッチしながら、求職者と企業の双方にとって持続可能なキャリアの実現をサポートしてきた。

 

そのランスタッドが、いまグローバルで注力しているのが営業DXだ。日本では少子高齢化に伴い労働人口が減少し、多様で柔軟な働き方を選択できる「働き方改革」がうたわれる一方で、一人一人異なるライフスタイルや価値観を持つ求職者と、人手確保や離職防止のため採用コストの上昇に頭を抱える企業をつなぐハードルは年々上がっている。

 

そこで同社は、求職者や企業に関するさまざまなデータをCRM(顧客関係管理)システムで分析し、一人一人に最適なコンテンツを自動配信するMAツールを2019年5月に導入。2020年1月にはマーケティング&ブランドコミュニケーション本部に「DX部」を新設し、バイヤージャーニーや営業フローの抜本的な見直しに着手した。

 

しかし、そこに追い討ちをかけたのが新型コロナウイルスの感染拡大だった。求職者、企業ともに接触のチャンスは激減。特に苦戦を強いられたのが求職者とのコミュニケーションだったという。始動したての営業DXは、アジャイル開発を重ねながら一歩ずつ進められていった。

 

 

求職者向けのLIVE配信画面。直感的にメニューを選べるよう工夫されている

求職者向けのLIVE配信画面。直感的にメニューを選べるよう工夫されている

 

 

必要なときに必要な情報だけを自動配信

 

ランスタッドDX部ディレクターの中村雄一氏は、次のように語る。

 

「私たちが最も大切に検討してきたのは、テクノロジーで自動化するべき作業と、人が介在すべき場面の見極めです。営業活動の効率化だけを目的としたオートメーションは、CX(顧客体験)の向上につながらないだろうと考えたからです」

 

最初に取り組んだのは、電話やメールで行っていた求職者とのやりとりをLINEに切り替えたこと。全国約50カ所の支店ごとにLINE公式アカウントを作成し、CRMシステムの顧客IDと連携できるソフトウエアを導入。データ分析に基づき、一人一人に最適なLINEコミュニケーションができる体制を整えた。

 

「6台のチャットボットを当社のウェブサイトなどに設置し、そのうち1台がLINE上で稼働しています。そのチャットボットのトーク履歴データを分析したところ、求職者が知りたい情報さえスピーディーに提供できれば、自動応答でも十分満足してもらえる問い合わせが全体の約7割を占め、その他の3割は営業担当者による個別対応が望ましい内容であることが分かってきました」(中村氏)

 

実際、これまで営業担当者が電話やメールで案内していた求人情報は、LINEによる自動配信に切り替えたことで返信率が20~80%と大幅に向上したという。ポイントとして次の3つが挙げられる。1つ目は、求人案件の配信件数を求職者自身が設定できるようにしたこと。2つ目は、求職活動していない期間はステートメントをオフにできるようにしたこと。そして3つ目は、一般的な知識やノウハウに関するコンテンツはあえて配信しないことである。「最も避けるべきは、求職者が必要としていないときに、必要のない情報を配信することです」と中村氏は強調する。

 

DX部では、チャットボットのメンテナンスを定期的に行っているそうだ。

 

「お客さまが知りたい情報を自動応答で提供できるようにするには、さまざまなパターンの検索ワードをAIに学習させる必要があります。例えば、「有給」と「有休」など、日本語は同音異義語がたくさんありますので、導入後も人がAIの日本語力を伸ばしていく作業が不可欠です」(中村氏)

 

運用を開始して間もなく3年になるが、今もソフトウエアの新機能がリリースされるたびに使い勝手を試し、細かい改善を重ねている。例えば、気になる求人があればダイレクトに応募できる機能や、キャリアカウンセラーとのウェブ面談を予約できる機能、入社後の手続き書類をペーパーレス化にする機能など、全てLINEの中だけで完結できるようにした。こうした改善アイデアは、各エリアに配置したDXスーパーバイザーと定期的に連携を取り合い、現場の営業担当者からの要望を吸い上げる中で次々と生まれている。

 

「電話やメールではまったく返信のなかった人からも、LINEでなら数分で返信が来るようになりました。LINEの友だち登録をしている求職者の就業率は、非登録者の2倍に上ります。企業側もスピーディーなコミュニケーションを望んでいるので、マッチングまでの日数が大幅に短縮されました」(中村氏)