その他 2023.02.01

ナーチャリングすべきリードとの信頼関係

 

 

コロナ禍で加速したビジネスのデジタルシフトの波を受け、企業の営業スタイルは一変した。BtoBにおいてもオンライン商談が急速に普及し、リード(見込み客)獲得から成約に至るまでの期間が長期化する傾向にある中、マーケティングの課題は「リードの獲得」から「リードとの信頼関係をどうナーチャリング(育成)するか」へと変わりつつある。

 

リードナーチャリングはデジタル化が遅れ気味

 

BtoB企業の多くが今、自社のデジタルマーケティングの次のステップとして必要性を感じる課題は、「商品・サービスの認知拡大」と「リードのナーチャリング(育成)」である(【図表1】)。IT系ニュースサイトの運営などを手掛けるアイティメディアの「デジマ調査ラボ」が、そんな調査結果※1を公表した。同社がBtoBマーケターを対象に継続的に実施している調査(第1回:2020年3月、第2回:2020年10月、第3回:2021年3月、第4回:2021年11月、第5回:2022年6月)の結果だ。

 

 

【図表1】今後のマーケティングの課題(複数回答)

出所:アイティメディア「コロナ禍の勤務環境とマーケティング施策に関するアンケート調査」(2022年6月調査)よりタナベコンサルティング作成

 

 

2回目の緊急事態宣言(2021年1~3月)で、全国的に外出自粛が要請されている状況だった2021年3月調査においては、課題のトップが「リード(名刺情報)の取得」(48%)だったが、それ以降の調査結果で「商品・サービスの認知拡大」「リードのナーチャリング(育成)」の割合が急増し、上位が入れ替わった。同社はこの理由を、買い手側もワークスタイルが変化し、情報収集経路がデジタルシフトしたためとしている。

 

同社が2022年3月に行った調査結果※2によると、「必要だと思い実施している」ナーチャリング施策のトップは「セミナーや展示会などのイベント案内」(80%)、次いで「全体に対してのメールマガジン」(69%)、3位が「ホワイトペーパーの提供」「インサイドセールスによるアプローチ」で共に54%。一方、「興味関心に応じたメールマーケティング」には、必要性を感じながらも着手できていない企業が多い。

 

ターゲットの属性だけでなく、獲得元や自社サイトへのアクセス、メールへの反応、イベントへの参加履歴など、さまざまなデータからナーチャリング施策を最適化する手法の効果を評価する声は大きいものの、集めたリードの育成手法のデジタルシフトは遅れていると同社は分析。また、リード育成施策のボトルネックとして「ホワイトペーパーなどのコンテンツ不足」(67%)、「リソース不足(ヒト・モノ・カネ)」(58%)が上位を占めたことなどから、適切なコンテンツマーケティングの重要性が増している半面、スキル・ノウハウを持った人材を短期間で育成することは難しく、課題感を持つ企業が多いとも述べている。

 

今後は経営資源の再分配も含めた中長期のナーチャリング戦略の有無が、成約率の増減に大きく関わりそうだ。

 

 

購買意思決定の最重要要素は「信頼」

 

コロナ禍以降、買い手が好む営業スタイルに変化があったことも押さえておきたい。HubSpot Japanの調査結果※3によると、買い手にとっての「好ましい営業スタイル」は、「訪問・リモートどちらでもよい」が38.4%と全体の約4割に上り、前回調査時と比較して11.9ポイント増となった(【図表2】)。「将来、世界的に新型コロナウイルスの感染が収束し、治療薬も開発されたら」という「コロナ収束後」を仮定した上での好ましい営業スタイルも「どちらでもよい」が41.4%と最多であることから、同社は「買い方」に対する柔軟性が高まったと推測している。

 

 

【図表2】買い手が考える好ましい営業スタイル

出所:HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2022」(2022年2月)よりタナベコンサルティング作成

 

 

その上で、同調査において、「どのような印象を持つ会社のサービスや商品を購入したいか」を尋ねたところ、1位は「信頼できる」(33.6%)ことだった。2位の「製品の品質が高い」(30.1%)や3位の「価格に見合う製品やサービスを提供している」(27.6%)を、信頼できる企業であることが上回った。また、営業パーソンとの直接的なコミュニケーションが希薄になったことを背景に、購買の意思決定に際して、コロナ禍以前より信頼度を重視するようになったという回答は約半数(48.2%)に上っている。

 

さらに、「企業に対する信頼に繋がる要素」(複数回答)としては、「営業担当者が自社の要望を的確に実行してくれる」(1位、60.8%)、「営業担当者が自社のことを真剣に考えてくれていると思う」(2位、55%)などが上位を占めた。同社は、「営業担当者レベル、そして企業レベルの両方が日々の行動を一貫して顧客起点にすることが信頼の醸成につながる」と分析している。

 

また、当然だがリアルでの取引がなくなるわけではないため、インサイドセールス(デジタル営業)とフィールドセールス(リアル営業)の一貫性も重要である。数字と分析で見込み客の「購買意思決定のツボ」を見抜き、生身の人間にしかできないコミュニケーションとバランス良く掛け合わせて受注確度を高めることが、営業生産性アップの鍵となるだろう。

 

 

※1…アイティメディア「コロナ禍の勤務環境とマーケティング施策に関するアンケート調査」(2022年6月調査)
※2…アイティメディア「リード獲得と育成(ナーチャリング)に関するアンケート」(2022年3月)
※3…HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2022」(2022年2月)