コロナ禍によって、企業は訪問や展示会開催で新規の案件やリード(見込み客)を獲得する従来の営業ができなくなった。2020年以降、試行錯誤しながらデジタルでの営業活動(デジタルマーケティング)を実施している企業も多いだろう。
デジタルマーケティングの仕組み(【図表】)の中で重要なのが、獲得したリードをリアルな営業(フィールドセールス)へつなぐインサイドセールスの存在だ。つなぐといっても単にリード情報をパスするだけではなく、自社の顔(1次対応者)としてリードとコミュニケーションを取る重要なポジションである。
【図表】デジタルマーケティング体制構築の考え方
インサイドセールス担当者には、リードのニーズを引き出し、フィールドセールスにつなげるべき顧客なのか、インサイドセールスで顧客との関係を緩くつなぎ、接点を切られないように中長期でフォローすべき顧客なのかを見分ける力が求められる。
自社がしっかりとリードをナーチャリング(育成)できているか、今一度、整理しよう。
❶リード情報の収集・分類
営業担当者が個別で持っているリードのデータを1カ所に集める必要がある。顧客データベースでデータを一元化するなど、情報を統合することが望ましい。次に、一元化したデータを顧客ごとに興味のある分野・コンテンツに分類し、興味や購入意欲がどの段階にあるのかを分けていく。これらはリードに対して最適なアプローチを行うために重要である。興味のない顧客と興味の強い顧客に同じ情報を流しても効果は薄いからだ。
❷シナリオの設計
メールやセミナーの方法の中で、どのようなアプローチ方法を選択するのか、具体的にどのようなストーリーで成約まで結び付けるのかを想定してシナリオを設計する必要がある。
例えば、収集・分類したリードの中から、どのような階層にメールアプローチをするかを選ぶとともに、何段階に分けたメールを用意するのか、どのような頻度で送るのか、メールの次段階のアプローチをどうするか(セミナーやウェビナー、無料キャンペーンの実施、電話による案内など)を決めていく。
❸ニーズに合わせたコンテンツを作成する
シナリオに沿いつつ、リードの興味・関心を引く内容にできるかどうかが成功の鍵である。スタート時は外部の力を借りてクオリティーを保持し、ノウハウがたまってから自社内で運用するのが良いだろう。
デジタルを活用し、リードナーチャリングを実践している建設業A社の事例を紹介したい。
A社は年商100億円を超える総合建設業(地場ゼネコン)で、施工実績の内訳は官公庁案件が約7割、民間案件が約3割である。同社は今後の成長に向け、民間案件の営業強化を方針として掲げ、今まで活用してこなかったデジタルツールを駆使してリードを獲得。リードに営業を仕掛け、受注へつなげる仕組みを構築した。A社の取り組みのポイントは3つある。
❶顧客情報のリスト化と共有(見える化)
各営業パーソンの頭の中にある顧客リストや机の中にある名刺を、会社の顧客(財産)と捉え直し、顧客基盤の整理・リスト化を実施した。また、それを自社のデータベース上で見える化したことで、どれくらいの案件量があるのかを全社員がリアルタイムで把握し、案件の進捗状況と合わせて確認できるようになった。
案件の優先順位付けが可能になったことで、対応の効率化にもつながっている。さらに、顧客の動向をタイムリーに把握するため、CRM(顧客関係管理)の導入やリード獲得のKPI(重要業績評価指標)設計など、属人型からチーム対応の営業モデルへ進化を遂げている。
❷顧客に対する全社営業を展開
インサイドセールスにより、案件化までのスピードが上がり、A社の顧客創造は加速した。従来はリードからの問い合わせに対し、「営業担当者につなぎます」「確認します」と対応を終わらせていたが、営業担当者でなくとも案件情報をつかめるので、リードの要望(資料送付や詳細ヒアリングなど)へすぐに対応できるようになった。対応の情報は営業担当者に共有され、後に活用できるとともに、営業担当者が初期対応に時間を割くことなく、ニーズがより明確な案件に注力できることから、生産性の向上にもつながっている。
❸コンテンツを活用した顧客育成の仕組み
A社は、新たにコンテンツ開発にも取り組み、リード育成の仕組みを整えている。自社サイト閲覧者の興味や、購入意欲の強さはさまざまだ。そのため、興味・意欲の度合い(段階)別に求められる情報を精査し、提供資料を整えた。
その1つが施工実績事例集である。今までは官公庁がメインの取引先であったため、入札応札実績(建物の種類・応札金額・住所・工期・構造などを表にまとめたもの)しかなく、新たに建物を建てたいリードに対して訴求できるものがなかった。
そこで民間企業に対し、施工実績の写真や、顧客が抱えていた課題と提供した価値をまとめ、ビジュアル的にも分かりやすいコンテンツ(事例集)を制作。自社サイトからダウンロードできる仕組みも整えた。
これにより、具体的な問い合わせには至らなかったリードのうち、興味や関心の高い層とコミュニケーションを取れるようになった。また、定期的に情報をアップデートしてリードと接点を持ち続けることにより、ニーズが明確になった段階で問い合わせてもらえるケースも増えたという。
こうした取り組みにより受注を増やした実績が、社内の理解促進にもつながり、A社はリードナーチャリングをより強化しているところである。
リードナーチャリングの重要ポイントは、会社全体でリードの動向を共有し、受注までのストーリーを描くことだ。ぜひ、自社の顧客育成モデルを見直し、新たな顧客創造を実現いただきたい。