「デザイン経営」とは、デザインを「企業やビジネスモデルそのものを変革する経営資源」と捉え、顧客の体験価値を高め、自社らしさを醸成する経営手法である。当研究会では、デザインの力を経営に活用する「高収益デザイン経営モデル」実践企業を視察し、経営の現場でデザインがどう活用され、他社との差別化、社員の活躍と成長、地域社会との共創を実現しているかを体験。その本質に迫っていく。第1回は、日本デザイン振興会と産業技術総合研究所の講義でデザインとは何かを学び、デザイン経営の実践企業である丸和運輸機関を視察した。
開催日時:2022年10月24日、25日(東京開催)
日本デザイン振興会 常務理事 矢島進二氏の講話を受ける研究会参加者
はじめに
講師の矢島進二氏は、1957年に創設された日本で唯一の総合的デザイン評価・推奨の仕組みである「グッドデザイン賞」を運営する日本デザイン振興会の常務理事であり、東京ミッドタウン・デザインハブ、東京ビジネスデザインアワード、地域デザイン支援など多数のデザインプロモーション業務を担当。武蔵野美術大学、東京都立大学大学院、九州大学芸術工学府、東海大学教養学部の非常勤講師や毎日新聞主催「毎日デザイン賞」の調査委員を務めるほか、地域デザイン、ビジネスデザイン、ソーシャルデザインなどをテーマに各紙で連載を執筆している「デザインのプロ」だ。
研究会参加者は、「デザインは社会課題の解決策」という認識のもと、最新デザインとビジネスの関係や、経済産業省と特許庁が2018年に提言した「『デザイン経営』宣言」の波及効果や成果についての矢島氏の講話を受講。また、「2022年度グッドデザイン賞」全受賞作品の展示会「GOOD DESIGN EXHIBITION 2022」を視察し、“グッドデザイン”を見たり、触ったりすることで、①デザインとは製品デザインの美しさだけではないこと、②ブランディングとイノベーションを通じて自社の企業価値を高めるものであることを、楽しみながら体験した。
「GOOD DESIGN EXHIBITION 2022」展示会場(東京ミッドタウン・デザインハブ)。2022年度のグッドデザイン受賞全件をバナーで紹介し、さらにその中から特に高い評価を受け「グッドデザイン・ベスト100」に選ばれた100件を実際に展示している
まなびのポイント1:「デザインの力」の活用の潮流
毎年5000件超の応募がある「グッドデザイン賞」。対象領域は、商品・建築・ソフトウエア・サービス・システム・活動など「有形無形のあらゆる“デザイン”されたもの」であり、グラフィック(記号・印刷物)やインダストリアル(製品)にとどまらない。デザインによって暮らしや社会をより良くしていくための活動であり、昨今は社会課題の解決という「ストーリー性」も求められる。2022年度の大賞は「地域で子ども達の成長を支える活動 まほうのだがしやチロル堂」。誰もが来店しやすい「駄菓子屋」として場を開くことで、孤独や貧困に悩む子どもたちの利用を促していることなどが受賞ポイントとなった。技術と共感ストーリーで受け手の体験価値を向上させるのもデザインの大きな役割である。
2022年度グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)「地域で子ども達の成長を支える活動 まほうのだがしやチロル堂」
まなびのポイント2:デザイン経営はビジネスを強くする
過去5年の売上高増加率が10%以上の企業の割合は、デザイン経営に積極的なほど多い傾向にある。つまり、デザイン経営への注力と売り上げ成長の相関は高い。また「(従業員から)愛着を持たれていると思う」との回答もデザイン経営に積極的な企業ほど多かった(日本デザイン振興会・三菱総合研究所「日本企業における企業経営へのデザイン活用度調査」2020年11月)。さらに、「デザインへの投資」が自社の将来的な展開や新たな事業開発にも効果を発揮するかどうかについて、「大きな期待がある」との回答は、デザイン経営に積極的でない企業では11%にとどまった一方、積極的な企業では40%に上った。「デザイン経営に積極的な企業は未来への希望を感じている」と同調査は分析している。