建設業の「2024年問題」、デジタル社会化、地方の過疎化、SDGs、カーボンニュートラル、人件費やエネルギー・原材料価格の高騰によるコスト増など、建設業界は環境変化の大きな節目を迎えている。こうしたピンチをチャンスに変えるべく、建設ソリューション成長戦略研究会は、秀逸なビジネスモデルを持つ企業の現場を「体感」する機会を提供。高収益を実現しているビジネスモデルや、魅力ある企業づくりを実践している企業を研究している。第1回では、広島建設株式会社とライト工業株式会社の2社を訪問・視察し、建設業の現在の課題解決と未来の戦略について学んだ。
開催日時:2022年10月20日、21日(東京開催)
代表取締役 島田 秀貴 氏
はじめに
1968年に不動産仲介業として創業した広島建設は、千葉県柏市に本社を置く、地域に愛されるハウスメーカーだ。2022年3月期の売上高は247億円、従業員数は298名で、関東エリアに全20拠点(千葉13・東京5・埼玉2)を展開している。
同社は地域に密着したエリア戦略を軸とし、近年は事業の多角化を推進。主力である注文住宅事業(「セナリオハウス」など)に加え、不動産事業と大型建築事業の“3本の矢”により建築・不動産のトータルサービスを提供し、時代の変化へ柔軟に対応できるビジネスモデルを構築している。
本社ショールーム。住まいづくりの設備や内装、外装部材などを多数展示
まなびのポイント1:倒産の危機を感じて経営スタイルを転換
業績は好調だったが、バブル崩壊の影響で、1991年当時の主力事業だった不動産業が地価下落で赤字になったため、同社は事業の柱を注文住宅に移して急拡大させた。しかし、拡大スピードに品質やサービスがついていけず質が低下し、社員が疲弊する悪循環に陥った。
そこで、まずはエリアを限定した事業展開に転換。「売上が下がっても収益性を重視する」という方針のもと、不動産業の強みを生かして土地を仕入れ、“土地探し×注文住宅”のビジネスモデル「HITシステム」を構築した。これにより注文住宅事業の再拡大が可能になり、ショールーム出展と“人財”確保にも成功。2005年3月期に売上高100億円を突破した。
まなびのポイント2:主力事業の拡大と事業の多角化
同社は次のステージとして「主力事業の拡大」を図るため、2011年から「セナリオハウス」ブランドを展開。ショールームを総合住宅展示場へ転換した。また、橋梁・ビルで採用されている制震技術を木造住宅用に転用した住宅用制震ダンパー「MIRAIE(ミライエ)」を標準搭載し、2014年には年間受注700棟を実現した。
併せて「事業の多角化」のため、太陽光事業や介護事業に参入。2018年(創業50周年)にはマンションのリノベーション事業にも新規参入した。こうした新規参入やM&Aにより、大型建築のノウハウ取得と“人財”確保に成功。外部環境変化に強い企業となった。事業を多角化する上では、「全社経営視点」を持った“人財”の育成が重要である。
注文住宅「セナリオハウス」の開放感ある25帖のリビング
まなびのポイント3:リスク分散経営(ビジネスモデル)
一顧客から複数の事業を受注するワンストップサービスは、「リスク分散経営」の実践例である。一次取得者(初めて物件を購入する世帯主)層をターゲットとしたこのサービスのポイントは「適正価格」と「土地探し」。
適正価格のポイントは、最低限の販促費に抑え、コストを削減して土地と建物の総額で大手ハウスメーカーに負けない価格にすること。土地探しのポイントは、自社分譲地も含めた土地の提案から始め、土地相談から非住居建築の受注を視野に入れることである。
また「大型建築物の強化」では、自社開発の賃貸マンション事業で経営を安定化させるとともに、同事業を若手社員の経験値を上げる場として活用。また、調達戦略においては、「住宅設備・建材の大量仕入れ」「メガソーラーの大量調達による分譲地開発」でスケールメリットを追求し、コストダウンを実現している。
建設中のマンションを見学する研究会メンバー