メインビジュアルの画像
コンサルティングケース
コンサルティングケース
TCGのクライアントが持続的成長に向け実践している取り組みをご紹介します。
コンサルティングケース 2022.05.31

ニチバン:中期経営計画の推進で、新たな提供価値を創り出す

 

ポイント


1 新中長期ビジョン・中期経営計画を策定
2 事業ドメインを再編し、顧客機軸の製品開発・営業を展開
3 教育カリキュラムを見直し、人財育成システムを再構築

 

 

お話を伺った人


ニチバン 代表取締役社長 高津 敏明氏

 

 

 

 

 

中長期ビジョン実現に向けた中期経営計画を推進

 

——テープ・メディカルを核とした粘着テープメーカーのニチバンは、創業100周年を迎えた2018年に「ニチバングループの理念」を制定しました。また、2030年にイノベーション創出を目的とした新製品比率30%、グローバル拡大を目的とした海外比率30%を目指す中長期ビジョン「NICHIBAN GROUP 2030 VISION」がキックオフしました。

 

高津社長:大きな節目から新たな100年へ、次なる成長を目指すニチバングループのありたい姿を示した中長期ビジョン、その実現の礎となる2023年までの5カ年中期経営計画「ISHIZUE 2023 ~SHINKA・変革~」を策定しました。

 

自社で経営の現状を分析し、計画の骨子を組み上げましたが、第三者の視点から的確な助言が欲しいと思っていました。そこで、グループ会社がお世話になっていたタナベ経営に相談したのが、仕事に伴走していただくことになった始まりでした。

 

——タナベ経営と取り組みを始めた当時、高津社長は中期経営計画策定プロジェクトのリーダーを担っていました。

 

高津社長:タナベ経営には、経営のプロフェッショナルとして計画をしっかりとチェックしてもらい、当社が抱いていた経営の課題感や導き出した将来の方向性に力強い後押しをいただきました。

 

2019年4月から中期経営計画の推進段階に入り、社内で取り組みを始めました。その際、タナベ経営から「中期経営計画に掲げる施策・重点課題を現場の行動レベルに落とし込むためのKPIを再整理し、事業部門に展開してはどうか」と提案をいただきました。

 

——「2030年の中長期ビジョンに向けた礎を築く」と位置付けた新中期経営計画を、具体的な現場の動きにつなげる仕組みの検討が始まりました。

 

高津社長:最重要テーマに挙げていたのは、経営の両輪であるメディカル事業とテープ事業の「SHINKA(進化・深化)と変革」を進めることです。そこで、タナベ経営に中長期ビジョンと中期経営計画を照らし合わせた際のさまざまな課題を整理いただきました。

 

特に、営業部門におけるBtoCのコンシューマー事業であるヘルスケアとオフィスホームは「ブランドマーケティング」、BtoBの医療材と工業品は「現場ユーザーの課題探索と新規提案」を最重点の取り組みとして位置付け、各事業の目標と施策の進捗・KPI管理に結び付けました。さらに、「中長期ビジョンの実現に必要な成長の原動力となる『人財育成システム』も整備していこう」と提案をいただきました。

 

 

事業ドメインを製品別から顧客視点別へ再編

 

——中長期ビジョンに向けた戦略課題と具体的な行動計画を立案・実行する体制とのギャップを解決するために、事業区分を独自に再構築しました。

 

高津社長:従来は製品ドメインに近い業界別の組織となっていましたが、2021年に「顧客を機軸とした事業推進の確立」に向け、販売・マーケティング組織を再編しました。

 

新事業ドメインは【図表】の通りです。コンシューマー事業は、「ライフシーン」を捉えるためのヘルスケア、オフィスホーム、注力すべき分野として新たに定めたECの3つを事業フィールドとしています。sまたBtoB領域は、医療分野で事業を展開する医療材領域、工場や産業、農業分野に展開する工業品領域に展開しています。また海外は、中長期ビジョンに掲げる「グローバル貢献」を推し進めるために、海外領域としています。

 

 

【図表】再編後の事業ドメイン

出所:ニチバン提供資料

 

 

——中期経営計画の推進前から、日本と韓国との政治関係の悪化でメディカル事業におけるヘルスケア製品はインバウンド需要が減り始め、さらにコロナ禍が追い打ちをかけました。

 

高津社長:テープ事業では、看板ブランドのセロテープやナイスタックTMが市場において圧倒的なシェアを誇っていました。一方で、その強みが「当社にはセロテープやナイスタックTMがあるから」という保守的な姿勢も生み出していました。

 

新たな事業ドメインと推進体制を確立し、価値視点に立つための具体的なKPIも掲げることで、中期経営計画とギャップのない計画や現場の行動へと変わり始めています。顧客視点で新たな提供価値を創り出し、成長分野への展開や市場拡大につなげていこうと考えています。

 

——顧客視点の事業展開には、研究・開発とイノベーション強化が課題でした。事業戦略施策の推進と併せて、研究・開発も攻めの姿勢に変えていこうと組織を再編しました。

 

高津社長:以前はどちらかと言うと、自社の基礎研究と設計技術から始まるプロダクトアウト的な開発に捉われがちになっていました。そこから、顧客機軸とマーケットインを軸とした開発体制への転換を図る中、「研究開発の内部に閉じこもらず、営業・製造部門の声を聞いて消費者のニーズを知る機会がないとコンシューマー部門の成長は難しい」とタナベ経営に一部開発体制のアドバイスをいただきました。

 

一方の営業部門は、新製品の市場育成には注力するものの、自ら新製品のタネを探し、お客さまのニーズを捉え、新製品の開発に関わるという意識を持てずにいました。新製品開発に向けた動き方は、お客さまと直接向き合って提案を行うBtoBの医療材と工業品、多種多様な価値観と嗜好を持った一般消費者のインサイトを探るBtoCのコンシューマーとでは違ってきます。ですが、いずれにしても開発と営業、製造担当者がチームとして取り組むことが新製品の開発には最も重要だと考え推進に取り組みました。

 

 

教育カリキュラムを見直し人財育成システムを再構築

 

——中期経営計画の推進が企業の成長につながる中で、もう1つのテーマである人財育成システムにおいても新たな教育体系を構築しました。

 

高津社長:従来のビジネスモデルや組織体制に合わせた社員教育を行っても、実際の現場力の向上にはうまくつながりません。「中期経営計画と社員の行動をどうつなげるか」「プラスアルファの要素をいかに生み出すか」という観点で現状の教育カリキュラムを見直し、中長期ビジョン実現人財のスキルマップを整理しました。教育カリキュラムは、タナベ経営の社内アカデミーのカリキュラムを参考に、動画を積極的に活用しています。また、eラーニングや集合型学習、OJTなど、最適な教育手法もカリキュラムごとに選定し、スキルマップと連動させています。教育効果を高め、実践力につながる人財育成システムを構築できました。

 

——事業ドメインや部門の違いを超えて、全社員共通のカリキュラム項目を新設したこともこれまでにない特長です。

 

高津社長:企業理念をベースとした5つの行動指針(社会・お客様・チャレンジ・スピード・チームワーク)を、具体的な行動につなげるのが狙いです。特に、イノベーションを生むチャレンジ・社会性を養うためのカリキュラムは、全社員が学べるようにしています。

 

それが近い将来、市場・顧客の開拓や新製品開発につながると思いますし、既存製品ブランドに安住することなく、研究開発とイノベーションの強化にも結び付いていくと確信しています。

 

——自らが策定された中期経営計画を社長就任後もけん引し、さらにその先の姿も見据えています。

 

高津社長:中長期ビジョンに掲げる目標の1つが海外展開の拡大です。国内市場が飽和する中で、グローバル戦略を成長ドライバーと位置付け、世界の人々に価値を届けるべく、売上高の海外比率30%を目的としています。その実現策として、タナベ経営グループのグローウィン・パートナーズからクロスボーダーM&Aの提案をいただいています。

 

創造開発型企業として、これからは「価値を創出し続け、グローバルに貢献するニチバン」として、世界の人々の快適な生活を支える事業・製品を創り出していければと考えています。

 

——ニチバンの中期経営計画「ISHIZUE 2023~SHINKA・変革」の推進から中長期ビジョン「NICHIBAN GROUP 2030 VISION」の実現、さらにその先のグループ経営の発展に向け、タナベ経営は伴走を続けていきます。本日はありがとうございました。

 

 

PROFILE

    • 会社名:ニチバン株式会社
    • URL:https://www.nichiban.co.jp
    • 所在地:東京都文京区関口2-3-3
    • 創業:1918年
    • 従業員数:連結、1260名(2021年3月現在)
    • 代表者:代表取締役社長 高津 敏明

※ 掲載している内容は2022年3月当時のものです。