ポイント
お話を伺った人
ヤマハサウンドシステム 代表取締役社長 武田 信次郎氏
トップシェアを誇る大空間音響設備の専門会社
—— ヤマハサウンドシステム(以降、YSS)はホール・劇場、スタジアム・アリーナなどの大空間音響設備のプランニング・設計・施工・調整・保守や、業務用音響機器の開発・製造を手掛ける音響エンジニアリング会社です。武田社長は2018年から3代目の経営者として手腕を振るわれています。まず、YSSの設立の経緯と事業内容をお聞かせください。
武田:YSSは競合関係にあった音響設備会社の不二音響とヤマハサウンドテックが2009年に合併してできた会社です。世界有数の業務用音響機器メーカーでもあるヤマハが率いるグループの一員として、東京国際フォーラムや渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)、東京ドームなど多様な施設の音響システムを構築。500席以上のホール・劇場の音響設備市場ではトップシェアを誇ります。合併当時120名ほどだった社員は現在180名を超え、企業規模としては1.5倍に成長しました。
—— どのような経緯でYSSの社長に就任されたのですか。
武田:大学時代、軽音楽サークルでバンドを組んでいたこともあり、ホール音響の仕事がしたくて東亞特殊電機(現TOA)に入りました。入社試験の面接で「地図に残る仕事がしたい」と言ったことを今でも覚えています。そこに12年勤務したうち8年間はホール音響のセールスエンジニアを務めました。
1999年に「ホール音響の仕事を極めたい」と思って競合のヤマハサウンドテックへ転職。さらに2003年には音響設備分野へ本格的に参入するヤマハへ転職し、商品企画や事業企画、マーケティングを担当しました。それからYSSへ社長として出向するわけですが、ヤマハへ転職する際にYSSの前身となるヤマハサウンドテックに辞表を提出していますから、まさに“出戻り”です(笑)。
—— 「舞台の音づくりにかけた人生」と言えます。強い思いを持って経営に打ち込まれている背景がよく理解できました。
ヤマハサウンドシステム 代表取締役社長 武田 信次郎氏
横浜市立大学商学部卒業後、1987年に旧東亞特殊電機(現TOA)に入社。
PA営業やホール音響のセールスエンジニアなどを担当し、1999年ヤマハサウンドテックに転職、
ホール音響の営業などを務める。2003年ヤマハ入社。
PA商品企画・事業企画、PAマーケティングなどを担当。
2013年ヤマハミュージックジャパン出向。
2018年6月ヤマハサウンドシステム代表取締役社長に就任。現在に至る。
経営理念を実現する方法を全社員が思索する組織へ
—— YSSの経営理念は、グループ理念の「ヤマハフィロソフィー」に連動した素晴らしいものだと思います。理念確立までの経緯を教えてください。
武田:ヤマハフィロソフィーはヤマハグループの企業経営の軸となる考え方を体系化したものです。ヤマハフィロソフィーを実現するための当社なりのブランドバリューを定義し、そこから「身近な理念」を思索して定めました。
—— この経営理念は武田社長が就任してから決めたのでしょうか。
武田:ビジョンやミッションはあったのですが、普遍的な理念というより、中計におけるビジョン、ミッションという位置付けのものでした。設立10年で体格は大きく成長したものの、体質にはまだまだ改善の余地があると感じて、まずは企業体質を磨き上げようと決意。就任3カ月後に発表した新経営方針「YSS 2.0」の中で経営理念を制定しました。
経営理念の実行コンセプトとして「不易流行」という言葉を使い、「YSSらしさ」を訴求しています。それに基づいた経営戦略は1番目が人材育成、2番目がブランディング、3番目がマネジメント改革という構造です。全体ミーティングのたびに経営理念に関する話をしていますが、社員が納得できるように説明することの難しさを痛感しています。
—— 「理念を実現させる方法を知りたい」というのが社員の本音でしょうね。
武田:各部門における「不易流行」とは何なのか、私から具体的な方法を示唆することはあえて避け、部長・課長職に考えてもらうようにしています。社長が方法まで提示してしまうと、社員は自分事として捉えられないからです。
—— 理念を実現する方法を部長・課長職がしっかり考え、実行していくことがこれからのテーマになりますね。
武田:最終的には、全社員がそれぞれの「不易流行」を考え、「No.1サウンドカンパニーになるためにはどうすればいい?」と自分なりの方法を模索する組織になってほしいと思います。
—— 続いてビジネスモデルについてお聞きします。YSSの事業の特長は何だとお考えですか。
武田:音響設備は音響と設備の2つの領域にまたがっています。当社の特長は、建設業を極めながら、音へのこだわりを深めようとしていることです。自社内に音響機器の開発部門を持ち、顧客ニーズに応える商品を開発しています。
親会社のヤマハを含めて大手量産メーカーが作らないけれど、当社の顧客においてニーズがあるニッチなものを自社開発しています。量産品に比べると開発効率が悪く高価になってしまいますが、ニーズは確実にあります。「HYFAXシリーズ」としてニッチのオンリーワンを極め、顧客ニーズに応えています。
ヤマハサウンドシステムの経営理念