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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2022.03.01

SNSで出会いを創出、つながりを深めるシオノギヘルスケア シオノギヘルスケア

シオノギヘルスケアかぜ薬「パイロンPL」シリーズの広告

 

“かぜの時は、お家で休もう!”
「当たり前のことを製薬会社が言ってくれた」と評判を呼んだ、かぜ薬の広告メッセージ。思いをもっと伝えようと、消費者のセルフケアライフに寄り添う接点を求めて始動した公式SNSは、開始4カ月でフォロワー10万人を獲得した。

 

 

「個客」とつながるため公式SNSを開始

 

つらくても、かぜ薬を飲んで頑張らなくては――。そんな世の中の風潮に一石を投じたのが、シオノギヘルスケアのかぜ薬「パイロンPL」シリーズの広告コピーだ。“かぜの時は、お家で休もう!”という電車の中づり広告の画像に、「やっと当たり前のことを言ってくれるかぜ薬の広告が出る時代になった」と添えたTwitter投稿には15万件の「いいね」が付き、コピーは瞬く間にバズワードとなった。

 

「かぜ薬は、あくまで発熱やのどの痛みなどの症状を緩和するものです。かぜを治すために何より必要なのは、栄養をしっかり取って、しっかり休むこと。消費者の方にとって何が一番よいのかを考えたとき、『つらくても頑張ること』をよしとして、それを助長するのは適切ではないと感じました。しっかりとかぜを根治していただきたい、お客さまに寄り添うかぜ薬でありたい、という思いを込めました。

 

製薬会社でありながら『真っ先に薬を飲んで頑張るのではなく、つらい時は休もう』という発信は、『すべての人にやさしく、正しく、セルフケアを』をビジョンに掲げる当社だからこそできたことだと考えています」

 

そう語るのは、シオノギヘルスケア経営戦略部DX企画グループ(以降、DXG)のグループ長・山﨑敦子氏である。

 

しかし、当時の同社は、バズって注目が集まっても、さらなる熱い思いや正しい情報を消費者へ伝えたり、コミュニケーションを重ねたりするための「つながる手段」を持っていなかった。そこでSNSの活用を始めるべく、2021年4月に組織体制を再編。顧客コミュニケーションの専門部署としてDXGを発足し、SNSによるファンづくり施策を開始した。

 

「まずは、より多くの方と出会い、当社を知っていただいて、つながりをつくろうと考え、タナベ経営のサポートでSNS開始記念キャンペーンをスタートしました」と山﨑氏。2021年7月にTwitterで公式アカウントを開設し、「パイロンPL顆粒」(指定第2類医薬品)のパッケージデザインを模した巨大クッションとブランケットを60名に、Amazonギフト券500円分を2500名に抽選でプレゼントするキャンペーンを実施した。

 

特製グッズは大きな反響を呼び、リツイート数で当選確率が上がるなど、拡散しやすい設計も奏功。当初191人だったフォロワーは、18日間(2021年7月1~18日)のキャンペーン終了時、目標数の1万人を大きく上回る4万5000人超となった。

 

続いて同社は、第二弾のキャンペーン(7月19日~8月19日)を展開。Twitterでは3万4000人超、Instagramで7000人超とつながり、「2021年度末(2022年3月期)の総フォロワー10万人」と定めたKPI(重要業績評価指標)を8カ月前倒しで達成した。

 

「2021年度の上期は認知を広めるフェーズと位置付けていましたが、半年間で期待以上の新しいお客さまとの出会いがありました。ただ、大切なのはつながってから。ファンであり続けてもらえるように、下期はつながりを深めるフェーズへと進んでいます」(山﨑氏)

 

 

シオノギヘルスケア公式Twitter。
シオノギヘルスケアの看板キャラクターとして活躍中のティラノ君(右)

 

 

広告には俳優の山本美月さん、三森すずこさん、宮野真守さんを起用。「つらくても会社や学校を休めない」と思いがちな消費者の心に共感を呼び起こした

 

 

 

「パイロンPL」の巨大クッションとブランケットをSNSで紹介するティラノ君

 

チャネル連動と企業コラボでSNS活動が深化

 

せっかくつながることができても、つまらない情報や役に立たない情報を発信していては、フォロワーを退屈させてしまう。つながりを「広める」から、つながり続けて「深める」へ進化させるため、発信するコンテンツの内容にもこだわった。

 

自社ECサイト「シオノギヘルスケアONLINE」と連動し、商品の販売だけでなく、声優による「えほん読み聞かせ」や、プロのメイクアップアーティストによる「メイクアップレッスン」など「楽しんでいるうちに自然とセルフヘルスケアができている」というコンセプトで情報を発信している。

 

「商品名や社名など、ピンポイントの検索でECサイトを訪れてもらうのは、なかなか難しいことです。今はSNSから誘導してコンテンツを楽しんでもらい、拡散していただくといった良いサイクルが生まれています」と山﨑氏は語る。

 

想定外の成果もあった。SNSキャンペーンでつながった人ほど、メルマガの開封率が高いことだ。従来からの指名買いの商品ファンに加え、デジタルに親和性の高い、若い世代のシオノギファンが増えつつある。

 

「SNSの活用はお客さまとの出会いだけではなく、他社の方々との出会いも創出してくれました。きっかけとなったのが、Twitterの『#企業公式が恐竜とじゃれあう部』。親しみやすい企業アカウントに育てたいと考えていた中、多くの企業が、かわいくてほっこりする恐竜のキャラを公式SNSに登場させていたことを受け、当社も仲間入りをオファーして快諾いただきました。

 

今ではすっかりシオノギヘルスケアの看板キャラクターとなってくれているのが『ティラノ君』です。合同研修への参加や互いの会社訪問などを通して、他社の方々とのつながりが生まれ、交流も深まって、日々、学びと刺激に満ちています」

 

そう笑顔で語るのは、ティラノ君と一緒にSNSで発信を続けるDXGの津田早紀氏である。

 

多業種に広がる「企業公式の部活動」は、ハロウィーンなど季節ごとのイベントも共同開催。顧客やフォロワーを魅了する楽しい情報発信が可能になり、同時に自社がどう思われているかも、分かり始めたという。

 

こうした小さい成果を積み重ねていくことで、SNSを評価する機運が社内で高まっていき、DXGの活動は同社の経営層からも力強いフォローを得ている。

 

「シオノギグループのBtoCビジネスにおいて、当社は医薬品や健康食品のセルフケア領域をリードしていく存在です。SNSを活用し、消費者の目線に合わせてセルフケアについて発信することで、OTC医薬品の製造・販売だけでは見えにくかった顧客一人一人の顔が、よりリアルにつかめるようになりました。

 

DXGは消費者との直接のコミュニケーションが最も重要と考えて活動していますし、SNS上の声を集めてフィードバックすることが、社内への説得力にもなります。

 

SNSの活用を始める際は、まず小さな成功事例を生み出すことが大切です。お客さまの声は、会社を動かす大きな力になります。また、新しい価値観を持つ方々とつながることで、当社が育てられていると実感しています」(山﨑氏)

 

一般的な顧客コミュニケーションでは、消費者をLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の高いロイヤルカスタマー化することを目指す。しかし、同社の目的は、商品を売るだけではなく、顧客の楽しみや健康、癒しなど、セルフケアに関するトータルな価値提供を行うプラットフォーマーになっていくことだ。

 

自社ビジョンに掲げる「やさしく、正しく」に、「楽しく」を加えて「真のヘルスケア」へ進化させていく挑戦が始まっている。

 

※医師の処方が必要な「医療用医薬品」ではなく、薬局やドラッグストアなどで自分で選んで買える「一般用医薬品」と「要指導医薬品」のこと

 

 

塩野義製薬の代表取締役社長・手代木功(てしろぎ いさお)氏に、ティラノ君が「パイロンPL Proマスク」をプレゼント

 

 

顧客像を明確にし1点のつながりを一生のつながりへ

 

長く深くつながる1to1コミュニケーションの実現に向け、DXGが掲げる合言葉がある。「あなたを映す鏡になる」だ。

 

「1点のつながりを一生のつながりにしていくには、お客さまのリアルな像や心に秘めた思いを、もっと解像度を上げて知ることが必要です。

 

一人一人、つながる理由も価値観も違います。それぞれの方にフィットし、楽しい、面白いと喜ばれるコンテンツやサービスを創り出し、体験型のヘルスケアの価値とサポートを提供していきたいと考えています」(山﨑氏)

 

その手段として、新たにMA(マーケティングオートメーション)ツールを導入。SNSやECサイトの訪問者を4グループに分類し、エンゲージメント率の向上をKPIに定めている。

 

SNSのフォロワー数やECサイトの閲覧数、滞在時間などの数値もKPIの1つだが、その成果測定は簡単ではない。浮き沈みの波があるため、数値だけで一喜一憂せず、また評価基準を一律に定めずに、消費者の声を集めて生かせるよう知恵と工夫を凝らしている。

 

研ぎ澄ました感覚と経験値から、いかに自社のスタンダードになるKPIを導き出し、ブラッシュアップしていけるかが、これからのテーマだ。

 

商品を売るためではなく、つながり続ける消費者へ「どのような体験価値を提供できるか」にフォーカス。優先順位をぶれさせることなく、アジャイル型でスピード感あるアウトプットが可能な運用体制を確立している。

 

「メーカーの立場で伝えたいことを言っているだけでは、面白くないはず。私たちのような、SNSの『中の人』もまた消費者であり、生活者であるからこそ伝わることを大事にしています。

※企業の公式SNSアカウントの運用担当者

 

例えば、解熱鎮痛薬『セデス』シリーズは、2020年4月に商品パッケージを全面刷新。製品情報を多言語音声で提供する『アクセシブルコード』を世界で初めて医薬品パッケージに採用したほか、前開きの仕様やピクトグラムを導入し、視覚障がい者や日本語を母国語としない方を含む全ての人に、薬の情報や開封方法が聴覚的・触覚的・視覚的に伝わるパッケージに変えました。また、底面には『お大事に』と記しています。お客さまからお電話で『底のメッセージを見ると、ほっとする』との声をいただきました」(津田氏)

 

解熱鎮痛薬「セデス」の箱の底面には、体調の悪い人を気遣うメッセージを入れた

 

 

「売るためのコミュニケーションをするだけの時代ではありません。モノからコト、トキへ。共感やファン化、拡散という新しいコミュニケーションの形がSNSには存在します。当社ならではの創意工夫を重ね、お客さまとの新たなコミュニケーションを生み出そうと、経営層も支援してくれています。恵まれた環境ですし、私たちの目指している方向が間違っていないという確信も強くなりました」(山﨑氏)

山﨑氏の確信。それは「シオノギヘルスケアのファンになり、つながり続けるメリットを感じてもらうには時間がかかる。けれど長い目で見れば、企業価値の向上につながる」ということだ。

共鳴から共感、さらに価値を共有する“共体験”へ。企業の進化は、消費者を「1人の人間」と捉え、深く思いやる良質なコミュニケーションから始まると言えよう。

 

「中の人」もまた生活者であるからこそ伝わることを大事にしています

シオノギヘルスケア経営戦略部DX企画グループの津田早紀氏(左)と、同グループ長の山﨑敦子氏(右)。公式SNSで活躍中のティラノ君(左)は辞令を受けた正社員で、最近は友人のスズキさん(右)も登場した

 

 

PROFILE

  • シオノギヘルスケア(株)
  • 所在地:大阪府大阪市中央区北浜2-6-18 淀屋橋スクエア7F
  • 設立:2016年
  • 代表者:代表取締役社長 吉本 悟
  • 売上高:117億円(2021年3月期)
  • 従業員数:約130名(2021年12月現在)