1949年の創業以来、73年にわたって黒字経営を続け、顧客からの信頼を育んできたサンエース。「サンエース物語」の名で根付く不変の理念を経営基盤に、社員の価値観と企業成長の方向性を1つにし、時流を先取りして変化を起こす挑戦に迫る。
「自分の存在価値と、企業価値の基盤が重なりました。それが『物語』との出会いでした」
そう振り返るのはサンエース代表取締役の中山勇人氏。2012年に3代目社長へ就任後、売上高と利益は右肩上がりの成長曲線を描き続け、経常利益率は10%、自己資本比率も87%を超える(2021年1月期)。創業以来、黒字経営を72期連続で記録更新中の「事業承継の成功モデル」体現者だ。
サンエースの事業の両輪は、オートサプライヤー事業と住宅リフォーム事業。オートサプライヤー事業は、自動車補修用塗料や設備を鈑金・塗装工場に供給する小売ビジネスで、オートサプライヤーマーケットでは売上高・利益ともにナンバーワン。同業5社で構成するトップネットグループ(マルサン塗料、協立塗料、伊丹塗料、サンエース、大井産業)の国内シェアは30%を超える。また住宅リフォーム事業では、地元・神戸市の“ホームドクター”として、自社ブランド「サンカラーズリフォーム」のドミナント展開で存在感を発揮する。
冒頭の言葉は、中山氏が入社し、事業承継を果たす中で、何よりも大切にしてきた思いの表れだ。「物語」とは、1995年の阪神・淡路大震災での被災を契機に、自社の経営・事業の価値観を成文化した「サンエース物語」を指す。同社の価値観とビジョンを共有する、言わばバイブルだ。
大手銀行のバンカーとして活躍した後、起業を志して自らの存在価値を再確認する旅に出た2005年、中山氏は妻の実家を訪れて偶然、サンエース物語に出会った。1ページ目には「人はなぜ働くのか」とのタイトルで、「分担と前進」「2つの使命への自覚」がつづられていた。
「仕事を通して必要な役割を担い、何かを成し遂げ歩みを進める。その姿が、『世の役に立つ人になる』という私の願いと合致しました」(中山氏)
当時、2代目で義父の永来稔章氏(現会長)が経営するサンエースは好業績を続けていたが、後継者候補の親族の退社が決まっていた。中山氏は、ファミリー企業のオーナー経営者に、後継者がいない実情を知った。
「娘婿の私は事業を承継するつもりはなかったですし、先代からも何も言われませんでしたが、サンエース物語を読んで『起業するよりも、この会社で後を継ぎたい』と思ったのです。いくら業績が素晴らしくても、『物語』への共感がなければ後継者を目指すことはなかったでしょう。私の代になっても、変えることなく受け継いでいます」(中山氏)
サンエース物語の存在が、同社の経営を持続させるトリガーとなったのである。
【図表】サンエース物語の概要