企業の事業承継において、親族に後継者がいないため、自社の有能な経営陣に会社を譲渡するのが「MBO(マネジメント・バイアウト)型事業承継」(以降、MBO)である。
現経営陣が自社の株式を買い取ることで経営権を取得するというスキームだ。この方法のメリットとして次の4点が挙げられる。
❶経営の安定化
有能な社内の経営陣が中心となって経営権を保有するため、経営の安定化につながる。
❷非上場化(上場企業限定)
市場の株式を買い取ることで、上場企業であれば株式非公開となる。毎期、または毎四半期の利益創出と株主への分配という短期的な業績目標がなくなり、中長期的な視点での経営改革が可能になる。また、経営改革後、成長軌道に乗り再上場を果たす企業も多い。
❸オーナー保有株式の現金化
オーナーが保有する株式は時価での買い取りとなるため、保有株式を現金化できる。
❹株式の散逸防止
株式の集約によって経営権が集中することで社内の意思決定が早まる。また、他企業の傘下に入らないという点で、後述する「M&A型事業承継」に比べて従業員の理解を得やすい。
次に、LBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる役員陣への事業承継スキームを紹介する。LBOは、経営陣に自社株式を買収する資金力が不足している場合に用いられる手法である。買収対象企業(事業)の資産価値や収益力を担保としてM&Aに必要な資金を調達するスキームを指す。
MBOはメリットが多数あるものの、MBOの資金調達に向けLBOのスキームで借り入れを行う場合は借入金の返済義務が生じるため、将来的な事業計画を策定した上で検討する必要がある。
MBOとは異なり、社外の第三者に会社を譲渡するのがM&A型事業承継である。株式の全部、または一部を売却、事業を譲渡することで後継者不在という経営課題を解決する。
他企業の傘下に入ることになるため、仮に大企業の傘下に入ることができれば経営や雇用は安定する。また、オーナーが持つ株式は時価での買い取りとなるため、保有株式の現金化が可能となる。
最近は、米ユニコーン企業(創業から10年以内、企業評価額が10億ドル以上の未上場のベンチャー企業)が、IPO(株式公開)よりもGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)傘下に入ることを出口戦略にしていることが多く、日本でも定着しつつある。
以前のM&Aは「乗っ取り」というネガティブなイメージがあったものの、現在では事業承継の課題を解決する経営手法として再認識されている。代表的な例として、2015年に実施されたハウス食品グループによる壱番屋のM&Aが挙げられる。
壱番屋の創業者・宗次德二氏が提唱する「会社が継続して繁栄する『継栄』」という理念のもと、さらなる企業成長と世界市場開拓に向け、2社間でWin-Winの友好的M&Aが行われたことが印象的である。これは、タナベ経営が提唱する「企業価値の承継」を体現した事例であり、ステークホルダーとともに持続的に成長していく事業承継モデルと言える。
次に、M&Aによる事業承継スキームを解説する。M&Aのスキームは各様であるものの、大きく4つのフェーズで構成される。
フェーズ1:意思決定・準備
通常、M&Aは半年~1年超の期間を必要とするため、必要に応じてファイナンシャル・アドバイザリー(FA)やM&A仲介業者などの支援機関に相談しつつ、整理すべき事項を整理した上で、最終的には経営者自ら明確に意思決定することが重要である。この段階では、支援機関のサポートのもと買い手企業の選定を行い、自社の企業価値算定などを行う。
フェーズ2:打診・交渉
売り手・買い手企業のトップ面談は、互いの経営理念や風土、経営者の人間性などを直接確認するための場であり、その後の円滑な交渉のためにも重要な機会である。真摯な態度で臨むとともに、相手企業の本質を見極める必要がある。
特に、交渉の際には希望条件の優先付けを行い、絶対に譲れない点と譲歩可能な点を明確化しておくことが望ましい。
フェーズ3:クロージング
両社がおおむね取引条件に合意した場合、M&Aのスキームや譲渡対価、役員・従業員の処遇など、主要な合意事項を盛り込んだ基本合意を締結する。その後、デューデリジェンス(企業の実態調査)による調査工程を挟んだのち、最終締結や株式などの譲渡、譲渡対価の支払いを経てM&Aは完了となる。
フェーズ4:PMI
M&Aが完了したのち、PMI(経営統合プロセス)が行われる。PMIの実施例としては、売り手企業側の取引先への報告や業務フローの見直し、金銭消費貸借契約などに関する名義変更・経営者保証解除、人事制度・その他労務関係の統一化、システムの統合などがあり、3カ月~1年程度の時間を要することが多い。ここも支援機関の協力を得ることで円滑に進めることができるプロセスである。
MBO型事業承継・M&A型事業承継の双方とも、後継者不在の中小企業にとって有効な事業承継スキームだ。しかし、資金調達におけるスキーム検討やPMIなどは、初めて取り組む企業にはハードルが高いため、タナベ経営やFA、M&A仲介業者のような専門機関に支援を受けることが望ましい。
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