その他 2021.10.26

Vol.8 ウェルビーイングを高める施策と推進体制の再設計

 

 

【図表】ウェルビーイングに影響を与える5つの施策

出所:Institute for Organizational Excellence資料より筆者作成

 

 

ウェルビーイングに影響を与える施策として、ワーク・ライフ・バランス、人材の成長と育成に関わる取り組みなどが注目されている。これまでの施策を捉え直し、さまざまな施策間の連携を深めて相乗効果を生み出すための手法とは。

 

 

ウェルビーイング経営に取り組むためのポイントとして、前回(第7回目、2021年10月号)では「自社のウェルビーイング課題の把握」について取り上げました。今回は、2つ目のポイントである「ウェルビーイングを高める施策と推進体制の再設計」について取り上げます。ウェルビーイング経営に取り組もうとする企業の中には、「新たな施策を展開したいが人手が足りない」という悩みを抱えるところが少なくありません。しかし、多くの日本企業では、新たな施策を増やすことよりも、取り組み方の再設計が重要になります。

 

 

ウェルビーイング施策の4タイプに注目

 

ウェルビーイングを高める施策と推進体制を再設計するポイントは2つあります。1つ目は、「ウェルビーイングを高める施策を捉え直す」ことです。ウェルビーイングは、仕事やプライベートの充実度、健康状態などの影響を受けて変動します。安全・衛生上の施策も重要ですが、それだけではありません。米・心理学会のInstitute for Organizational Excellenceでは、【図表】の4つのタイプ(安心・衛生上の施策を除く)の施策に注目しています。

 

1つ目は、ワーク・ライフ・バランス関連の取り組みです。前回でも紹介したように、ワーク・ライフ・コンフリクト(仕事と家庭の対立)は、従業員のウェルビーイングに強い影響を与えます。長時間労働の抑制や、仕事と家庭生活の両立を可能にする柔軟な働き方の推進は、ワーク・ライフ・コンフリクトの解消を通じてウェルビーイングに良い影響を与えます。

 

2つ目は、成長と育成に関わる取り組みです。一人一人に適した研修や、挑戦に向けた機会の提供は、人材のリテンション(人材の流出を防止するための施策)という観点からも有効です。適切なタイミングで自身のキャリアについて考える機会を提供し、「ここでしかできない仕事がある」と感じさせることができれば、組織への愛着が高まります。

 

3つ目は、従業員の貢献度合いを承認するための取り組みです。従業員の貢献度合いを金銭的報酬に結び付ける仕組みだけでなく、従業員同士で褒め合う機会や感謝を伝え合う仕組みなど非金銭的な観点で取り組むことで、「上司や同僚が自分を理解してくれている」「しっかり見てくれている」という気持ちが醸成できます。

 

4つ目が、従業員巻き込み型の取り組みです。従業員が現場で抱えている問題について同僚間で共有したり、経営陣に解決策を提案する機会をつくることで、自発的な取り組みを促進できます。

 

 

施策間を連携させる推進体制

 

施策と体制を再設計するポイントの2つ目は、「さまざまな施策間の連携を深めて相乗効果を生み出すための体制づくり」です。すでに従業員の健康やウェルビーイングに注目している企業でも、このポイントを見落としている企業が多いように感じます。例えば、自社で女性管理職のウェルビーイングが低いということが分かれば、ワーク・ライフ・バランスを改善するアプローチと、成長・育成に関わるキャリア開発アプローチを結び付けることが必要です。そして、それを可能にする部門間の連携や連携する場を提供することが重要です。ウェルビーイング経営に取り組む先進企業では、月1回、関連部門が情報共有する定例会を開催するなど、コミュニケーション頻度を高めるための工夫を施しています。

 

『ヘルシーカンパニー』(宗像恒次監訳、産能大学出版部)を著した、米国の経営学および心理学の専門家であるロバート・ローゼン氏は、組織が従業員の健康問題に関心を払っているにもかかわらず成果を上げられない原因として、「職場の中で従業員の心身の健康問題を扱う部門が多岐にわたっていること」「それぞれの部門の取り組みが部分最適で終わってしまい、全体成果に結び付いていないこと」を挙げています。施策を増やすのではなく、「従業員のウェルビーイングを総合的に高める」という経営方針のもと、既存の取り組み方を再検討してみてもよいかもしれません。

 

 

企業規模を生かして小さく始める

 

私は、中小規模の企業の方がウェルビーイング経営の実践に向いているのではないかと考えています。大規模な企業でウェルビーイング経営を実践する上で必ず問題となる、「担当部門間の連携不足」という問題が生じにくいからです。

 

また、経営トップの方針が明確に定まれば、組織全体で取り組む体制も整いやすくなります。自社にとって必要な取り組みを身の丈に合った範囲で始めてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

 

 

PROFILE
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森永 雄太
Yuta Morinaga
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。経営学博士。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授を経て、2018年4月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。近著は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方健康経営の新展開』(労働新聞社)。