バックオフィス部門の役割は、単なる事務部門ではなく、経営判断の情報提供などマネジメント領域も担います。バックオフィスDXは、「企業価値を最大化すること」が目的です。そのためには、デジタル化に向けたインフラ整備が不可欠です。社内稟議、契約・請求書などの紙情報のペーパーレス化、クラウド共有データの管理・蓄積・加工、基幹システムの導入や更新によるデジタル化で業務プロセスを再設計します。
バックオフィスDXの推進には、3つの段階カテゴリー(以降、C)があります。C1は「単純作業の自動化」によるコスト・リスクの最小化、C2は「フロント業務の効率化」による収益の最大化、C3は「バックオフィスの収益化」による企業価値の最大化です。
C1はRPA(デスクワークの自動化)の導入が主な取り組み内容ですが、中小企業では進んでいません。導入コスト、専門人材、デジタルリテラシーなどが不足し、業務が属人化して標準化・可視化されていないからです。RPAの導入に向け、棚卸しした業務フローを作成、可視化し、コア業務と不要な業務を見極めて自動化・効率化すべき業務を見極めます。次に、RPA導入の投資採算性を検証し、運用体制を決め、「小さく始めてスピード感ある水平展開」を推進します。定型業務の自動化から、一部非定型業務の自動化、さらに自律化へと徐々にレベルを上げていくことが重要です。
C2では、営業・製造・工事・サービス部門など、直接的に付加価値を生むフロント業務に、経営リソースを拡大する手段を設計します。フロント業務にも営業・精算事務など、バックオフィスで行うべき業務があります。この間接業務をバックオフィス部門に取り込むことで収益を最大化できます。
C3は、ERP(経営統合クラウド)システムの構築、活用です。経済産業省の「DXレポート」(2018年)によると、企業が既存のITシステムを刷新せずに放置すれば、2025年以降は日本全体で最大12兆円もの経済損失が毎年続くとされています(「2025年の崖」問題)。バックオフィスの刷新を図り、トップ自らがリーダーシップを発揮してバックオフィスDXの検討や開発推進に関与することが重要です。
自社のICT・システム環境を踏まえつつ、業務プロセスを抜本的に見直して再設計する「未知なる業務システム」を構築し、全社テーマとして「企業の丸ごとDX」に挑戦していきましょう。
単純作業の自動化
講師:タナベ経営
ファンクションコンサルティング東京本部
本部長代理
武政 大貴(たけまさ ひろたか)
バックオフィスDXの成功事例を紹介します。不動産事業を手掛けるF社は、手間のかかる不動産関係の情報収集にRPAツールを導入。定型作業を自動化して人件費を削減し、作業時間を半日から約10分に短縮しました。製造業のM社は、RPAとAI-OCR(AIによる文字認識)を組み合わせ、紙資料のペーパーレス化を推進。注文書を文字データに変換し、業務システム入力までワンストップで自動化することで、大幅な業務の効率化を実現しています。EC(電子商取引)事業を手掛けるY社は、対話型AI(チャットボット)を活用。顧客対話から必要なデータを収集し、高度な自然言語処理とプロセスの自動化機能を融合させ、ストレスの少ない顧客体験価値を提供することで、受注処理の自動化につながり生産性が向上しました。
「どこから手を付けたらいいか分からない」という場合は、まず全体システムを俯瞰し、情報の目詰まりや収集・蓄積の不足を見極めましょう。そして、各業務システムが点在、連係する部分から順に、前述した各システムでアップデートするイメージを描いてください。
業務の課題は全て現場起点です。経営・システム・現場の三位一体によるAX(アナログトランスフォーメーション)戦略から、「何をしたいのか」のDX戦略を導き出しましょう。
バックオフィスの収益化
講師:タナベ経営 執行役員
ファンクションコンサルティング大阪本部長
福元 章士(ふくもと しょうじ)
RPシステム活用で企業価値を高めた事例を紹介します。情報システムを管理するA社の経理財務部門は、経営の意思決定への貢献を目指し、クラウド型基幹系システムを導入。成果として、①作業の目的と手続きの言語化、②組織ノウハウの形式知化、③見える化と効率化・統制強化を実現し、自社で必要なデータをクラウド環境に格納できる仕組みと部内全員が共有できる環境を整備しました。数字の手作業集計や紙ベースのやり取りなどの業務は30%削減され、3カ月後には目視確認・加工作業の100%自動化を実現しました。
ERPとは「経営資源を最適に配置し、効率経営を推進する」システムです。経営資源全体の最適化に向け、変革しなければならないテーマが「スピード経営」「グループ経営」の実現です。その課題とソリューションを明示する検討ツールが「デジタル化戦略マトリックス」です。縦軸に戦闘(業務効率)・戦術(情報活用)・戦略(価値創造)のレベル別、横軸に企業本体・グループ連結・企業間連携の度合いを取り、自社の現状を把握します。また、「変革に向けたアイデア出し、構想設計、構築・実行、評価・定着」の4つのフェーズで企業価値最大化に向けたフレームワークを考え、業務標準化・組織改革・ITシステム構築の変革を併行することも重要です。ぜひ、企業価値を最大化させるERPシステムを戦略的に運用しましょう。