グローウィン・パートナーズは、2005年に私、佐野哲哉が設立したコンサルティング会社です。当社の企業理念は「お客さま・スタッフをはじめとする当社に関わる全ての人々の成長(Growth)と成功(Win)を支援いたします」。経営参謀のプロフェッショナルチームとして、主に上場企業を対象にM&A支援事業、ベンチャー企業投資事業、バックオフィス業務のコンサルティング支援を展開しており、2021年からタナベコンサルティンググループに加わりました。この講演では、どの企業にも存在するバックオフィスのDX、特に「5年後にどのような姿へ変革しているべきか」についてお伝えしていきます。
バックオフィスのDXに取り組むに当たり、まず、企業を取り巻く外部環境の激しい変化から説明します。総務省の「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究報告書」(2017年3月)によると、2030年には日本の就業者数が約6300万人まで減少すると予測されています。移民政策を取らない限り、この非常事態は確実に訪れる未来です。新型コロナウイルスの影響についても、コロナワクチン接種率が低い日本は、世界的な回復基調に追い付いていないのが現状です。
また、SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラル(脱炭素社会の実現)など、企業の社会的責任の増大も世界的な潮流です。SDGsは社会全体で目指すべき目標ですが、企業にとってはESG(環境・社会・ガバナンス)がSDGsを達成するための取り組みとして重要視されています。東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードにも、「ESGに基づいた経営」が明記されています。上場企業と取引する企業は、「わが事」であることを忘れないでください。
加えて最も大きな外部環境の変化は、IT技術の進化によって既存ビジネスがとてつもない速さで破壊されているということです。GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)をも脅かす先進技術が次々と勃興し、一気に世の中が変わる厳しい時代に突入しています。
このような条件下で企業が生き残るには、より一層加速するビジネスや業務内容の転換・拡大サイクルへ柔軟に適応していく必要があります。
【図表1】世界のITデータ有効活用度
変革なくして企業が生き残れない時代を迎え、バックオフィスはどう変わるでしょうか。データへの理解、分析、活用を推進するための教育コンテンツの開発などを行う米データ・リテラシー・プロジェクトが発表した「データリテラシー指標」(2018年)によると、欧米やインドなど10カ国の企業でITデータの有効活用度を測定した結果、多くの調査国は70点以上(中央値)であるのに対し、日本は54.9点と世界的に低いことが分かりました(【図表1】)。日本企業は、取引から得られるビッグデータをほとんど活用できていないという恐ろしい状況にあるのです。
バックオフィスの現場では、日々さまざまな問題が起きています。1つ目は恒常的な人材不足です。労働人口の減少により、新卒採用での人材確保が難しくなり、新入社員を総務や人事、経理、法務などのバックオフィスに回す余裕がありません。
2つ目は人材の高齢化です。優秀な若手人材は、営業部門などの売り上げを獲得する部署に配属され、ベテランの社員がバックオフィスを守る状況が続いています。また、優秀な若手社員は転職すれば給料が上がると言われる「売り手市場」であることも、高齢化の原因となっています。
3つ目は「働き方改革」です。従業員に有意義とされる働き方改革ですが、バックオフィスでは「紙書類が膨大で出社しなければ業務が進まない」という問題が起きています。
4つ目は、バックオフィスに限りませんが、景気予測の不確実性です。予算を設定する際、「前提条件が日々難しくなっている」と多くの経営者が感じています。コロナ禍、米中貿易摩擦、資材価格の高騰、半導体不足――。「よくこれだけのことが同時に起きるな」と思うほどです。
バックオフィスの変革は、いまや企業が生き残るための必須条件です。人海戦術で何とかなったのは過去の話で、人材リソースが限定されるいま、バックオフィスをDXで極小化・自動化し、生まれた余剰の人材を営業部門や製造現場に集中配置していく必要があります。ITを用いる生産性改革しか、選択肢はないのです。
【図表2】今後バックオフィスに求められる役割
話を本題に戻します。5年以内にバックオフィスDXで大幅な変革を遂げるために、経営者が重視すべきことが2つあります。
1つ目は、「現場に期待する役割の再定義と明確化」です。経理部門の役割は、過去にはお金の処理などの「会計担当者」でしたが、現在は「ビジネスパートナー」として、経営計画の立案や人材の採用・定着・教育、働き方改革の推進、業務委託の活用などを担うことが増えています。今後は、より経営へ深く関わる「戦略的参謀」になっていくでしょう。生産性改革の実行と最適なソフトウエア選定や業務フロー設定、蓄積した自社データのマーケティングや財務分析への活用――。これらを経営者と考えていく部門に変革する必要があります。(【図表2】)
2つ目は、「現場主導で実行するDXをどう進めるか」です。ビジネスパートナーに「戦略的参謀に変われ!」と、命令すれば済む話ではありません。経営者が企業の方向性を指し示し、現場に語りかけることから始まります。何より重要なのは、トップの意思決定なのです。「業務が楽になるから」とシステムを導入しても、「データをどう経営に生かすか」という理念がなければ、そこから先へ進むことはできません。
まず、経営者が変わる。その次は、「経営者が現場でどう立ち振るまうか」です。「5人で行うバックオフィス業務を、2年後には2人で行えるようにする」などの定量的な目標を、経営者が現場の従業員と設定し、実現させるための手段を考えていく必要があります。
経費精算や給与計算、資料作成など定型・パターン化された仕事ほど自動化しやすいので、まずはゴールとなる仕事の削減目標を定量化し、極力減らすことが重要です。それで終わりではなく、空いた時間を高付加価値業務に振り分けることも重要です。予実管理や連結決算、M&Aなど従来の業務に加え、データを経営に生かすSaaS(必要な機能を必要な分だけ利用できるソフトウエア)型クラウドシステムの導入、データアナリティクス(データの分析、収集、表示)なども戦略的に進めていく必要があります。
経理業務におけるIT活用のステップを例に説明します。最初に重要なのが、「業務の無駄を見直し、なくす」ことです。今ある業務を「減らす」のではなく「なくす」ことで、これまでにない新しい発想が生まれます。
その手段となるのが、RPA(デスクワークの自動化)やペーパーレス化、ERP(経営統合クラウド)システム、フィンテック(金融とICTを組み合わせた新しいサービス)などです。RPAの導入は、業務をパターン化し平準化することが重要です。紙書類は確認工程が多く、後工程になるほど遅滞化しがちですが、デジタルデータ化できれば解決します。個別システムを連携させることで無駄と手間をなくし、全社統合するためのシステムがERPです。フィンテックは銀行口座の残高証明や通帳記帳、帳簿の突き合せが不要になり、机上で全てが分かります。「IT化と業務の無駄排除は一体」ということです。
システム導入のポイントは、「100%の完璧な成果を目指さない」ことです。細部にわたって改良・改善を続けて過剰品質にしても、すぐに改良版や高機能なサービスが登場します。DXを積極的に進める企業は、80%の導入効果を連続的に発生させ、絶えず次のソフトウエアや業務フローを考えています。システム導入の際の投資金額は、ROI(投資対効果)シミュレーションで業務改善効果と削減コストを算出し、年間削減効果の5年分を目安にしてください。
そこから先は、「どのような組織を設計するか」です。今、システム投資先の大半がSaaS型クラウドシステムです。Software as a Service(サービスとしてのソフトウエア)という名前の通り、これまでパッケージ製品として提供されていたソフトウエアを、インターネット経由のサービスとして提供・利用する形態を指します。サーバーもクラウド上にあるので管理が容易になり、メンテナンスする人材も不要です。
一方で、恒常的にDXを進める業務改善チーム、分析活用するデータアナリティクスチームなどの機能がバックオフィスに必要になります。DXで業務改革するには、先進的なIT技術とサービスの知識を積極的に吸収・活用できる人材・組織が不可欠だからです。
前提が変わり、結果も変わる。データを一括管理するには、SaaS型クラウドシステムに環境を移行する必要があります。変更を前提とした機動性と柔軟性のある運用体制の構築がより重要になってくるでしょう。
「自社のデータが社外サーバーにあるのが不安」と言う経営者も少なくありません。ですが、現金を手元に置くのと、銀行に預けるのではどちらが安全でしょうか。クラウドサーバーを管理する大手企業は、安全・安心なシステム運用のために巨額を投資しています。長期的に見ても、クラウド上にデータを預けるほうがリスクは少ないでしょう。
最後に、バックオフィスの将来像について説明します。機能別の業務に組織が分かれた現在の姿から、業務とITシステムが一体化し、ボトムアップよりもトップダウンで経営管理方針に基づくデータマネジメントを担う組織へと変わっていきます。経営管理を一貫で担当し、自らシステム導入を理解・活用する部門に変革を遂げていくでしょう。
「変わらない」という選択肢はもうありません。また、経営者がシステムに疎くても何とかなる時代は終わりました。誰よりもシステムのことを考え、注力していかなければならない時代を迎えています。バックオフィスDXと聞くと、システム関連の話だと思いがちですが、結局は「経営者の意志」からしか始まらないのです。
バックオフィスが経営者のパートナーや戦略的参謀になり得る存在であることを、自らの明確な「経営の意志」として社内に発信し、共に行動を起こしていただければと思います。
PROFILE
- グローウィン・パートナーズ(株)
- 2005年の創業以来、企業を支える「経営参謀のプロフェッショナルチーム」として、主に上場企業を対象にM&A支援事業、ベンチャー企業投資事業、バックオフィス業務のコンサルティング支援を展開。自社の存在目的を「Making Corporate Innovation(コーポレート・イノベーションの創造へ)」と定義し、クライアント企業と自社の企業変革にチャレンジし続けている。