コスモテック ウエアラブルメモ「wemoバンドタイプ」
腕に着けておけるため、とっさにメモを取ったり、忘れたくないことのリマインドなどにうってつけ。5000回ほど文字の書き消しができる。バンドタイプの他に、パソコンに貼るパッド型や、iPhoneケース型がある
腕に着けるメモ
自社を長年支えてきた事業が、外的な要因で厳しい局面にさらされることがあります。そのような逆境下でどのように動けばいいのか。1つのヒントを得られそうな企業を取材してきました。
今回取り上げたいのは、シリコン製のリストバンドです。発売から3年半でシリーズ累計65万個売れているヒット商品「wemoバンドタイプ」。東京・立川市のコスモテックという企業が開発したウエアラブルメモで、値段は1320円(税込み)です。手書きのメモを油性ボールペンで書いては消してを繰り返すことができるのが商品のポイント。作業中のちょっとした書き取りや、あるいはプレゼンテーション時の覚え書きなどに役立ちます。いっときのメモを手の甲に記す人もいるでしょうが、汗でにじむこともありますよね。そのような場面で、このリストバンドは役に立つのです。
大手生活雑貨チェーンの東急ハンズは、発売して間もない段階から「取り扱いたい」と声を掛けてきたそうですし、今までにありそうでなかった商品だけに、メディアでもかなり紹介されたと聞きます。
で、このコスモテック、なぜこうした“手ごろな便利グッズ”を商品化したのかという話です。
同社はもともと機能性フィルムの開発・販売を主軸にしてきた企業で、消費者向け商品はごくわずかでした。機能性フィルムは液晶ディスプレーに欠かせない素材です。同社のフィルムは、国内大手の名だたる液晶テレビで採用されてきました。そうした経緯もあって、2000年代半ばまで同社の業績はまさに絶好調だったそうです。
技術を生かし異業種と連携
ところが、2000年代後半に起こったリーマン・ショックの余波が家電業界にも影響を及ぼし、テレビ市場が急速に落ち込みました。私も当時のことは記憶していますが、この時期、液晶などの大型テレビはコモディティー化(機能競争が尽きて低価格競争に陥る状況)の一途でもありました。値段がどんどん下落して、大型テレビはもはや憧れの商品ではなくなっていた。その影響もあったのでしょう。
「当社の機能性フィルムを取り扱っていた家電メーカーの勢いが消えて、今後どうするべきなのか、決断せざるを得ない状況に直面しました」と代表取締役の高見澤友伸氏は当時のことを振り返ります。
高見澤氏は「やるべきは2つの方向」と、まず見定めます。1つ目は海外展開。これまで同様の素材を、どこに売るかを変えるという話ですね。そして2つ目は「これまで培ってきた技術を他の分野に生かせないかの模索」だったと言います。
ただし、「中小企業が独力で、新しい分野の商品を作り上げるのは難しいと感じた」(高見澤氏)。そこで同社は、異業種との連携を試みました。「目に付いたものは何でもやりました」と高見澤氏は語ります。後がない状況では、なりふりを構っていられません。私はそれが正しい判断だったと思います。
ターニングポイントとなったのは、アニメなどのコンテンツビジネスを展開する企業との連携でした。肌に直接貼るステッカーを作ったと言います。高機能なフィルムを開発していたのに、なぜステッカーなのかと思われるかもしれませんが、それには理由があったそうです。
ステッカー開発が転機に
「水を使うことなく、人の肌に直接転写できるステッカーという点では、当社の技術が唯一無二なんです」(高見澤氏)
やはり、そこにはちゃんと必然性があったということなのですね。
さあ、次はどうするか。ビジネスマッチングの場で交流したあるデザイナーから、面白いアイデアがもたらされました。肌に転写するステッカーをメモ帳のように使えないかというものです。要するに、腕などにステッカーを貼って、そこへ自由に手書きのメモを残せるというようなイメージですね。「まれなアイデア」であると高見澤氏も感じました。
ただし、これを商品化するにはネックがあると、すぐに思い直します。肌に貼るステッカーだと、一度何かを書き留めるなどして使った後は、捨てるしかありません。安くてもステッカー1枚で30円はかかりますから、メモ帳用途としては高すぎる。消費者は振り向かないだろうと。
ならば、他にどんな方法があるかと、高見澤氏はデザイナーと一緒に考えに考えた。その結果、思い付いたのが、腕にパチンと巻きつけるバンドをメモ帳にできないかという発想でした。
そこから生まれたのが、冒頭でお伝えしたwemoバンドタイプだったわけですが、ここで私は思いました。この商品のどこにコスモテックの技術が入っているのか。メモを何度も書き消しできる特徴を除けば、ただのシリコン製のリストバンドじゃないのか。そう疑問に感じたわけです。コスモテックが商品化する意味や価値はどこにあったのか。
何でもやる
高見澤氏は即答しました。「いや、当社独自の技術が、この『wemo』の鍵なんです」
このリストバンド、単なるシリコン製のバンドでないことはもうお分かりかと思います。なぜメモを書いては消してを何度もできるか。それは、「機能性フィルム開発で培った、高分子素材の配合と塗布の技術を生かしているから」(高見澤氏)だそうです。必然性はそこにあったのですね。
具体的にはどういうことか。ボールペンのインクを弾かず(つまり書けるということ)、しかも染み込まず(消せるということ)、という機能を果たすには、シリコンのバンドの表面に、どのような配合の高分子素材をどのように塗るかが“みそ”なのだそうです。大手家電メーカーに供給を続け、社業を支えてきた技術が、この新たな生活雑貨商品にちゃんと生かされているという話です。
でも、もう1つ気になることがあります。安価なリストバンドをわざわざ開発することにためらいはなかったのでしょうか。
「私たちの製品は、もともと機械を分解しないと見えないような物でした。それがこのwemoの場合、そのものとして見えている」(高見澤氏)
この商品が同社の売り上げに占める割合は1割程度です。しかしながら、1割というのは、ばかにできない数字ですね。「何でもやること」をいとわなかった、そして「自社の技術をつぎ込む」必然性があった。だからこそのヒットだと感じます。