コロナショックによって、これまでの常識を覆す構造変化が起き、企業は予想をはるかに超えた打撃を受けている。中堅・中小企業だけでなく、大企業も存続が極めて困難な状況の中、事業や収益構造そのものの在り方が問われていると言えよう。
こうした現状において、「自社を存続させる」という視点で短期的に守りを強化するだけでは、今後、生き残っていくことは難しい。存続のためには、「維持」ではなく「成長」を模索していく必要があるからだ。
日本では、人口減少による経済成長の鈍化、デジタル情報化社会の加速、商品・サービスの短命・短サイクル化が進行。言うなれば、「1つの事業で高成長し、長く勝ち続けることが極めて難しい」時代になった。企業が成長を目指す上で、多事業化を前提とした「グループ経営」の視点を持つことが不可欠になってきたのである。反転攻勢をかけていく上で考えなければならないことは、成長を実現するグループ経営への転換なのだ。
本稿では、グループを「複数の異なる事業を営む単一の企業、もしくは複数の連結事業体からなる多角化企業」と定義する。つまり、複数の“企業体”として捉えるのではなく、「単一企業であっても、全体の統括機能であるコーポレート機能と複数の事業部門が存在する企業はグループと定義する」という考え方になる。
タナベ経営では、グループ経営の目的は「グループ利益の最大化」と提言している。
外部環境に急激な変化が突然起こっても、耐え得る経営を行うために必要な考え方は、グループとして各社(各事業)の方向性が一致し、単純和ではなく一体として生まれる相乗効果(グループシナジー)を最大化することである。
具体的には、【図表1】に示す項目がグループシナジーと呼ばれているものである。
【図表1】グループシナジーの具体例
「グループ利益の最大化」とは、言い換えれば「グループシナジーの最大化」を実現することである。そのためには、グループとしてどのようなシナジーを実現するかを明確に定め、グループ全体に浸透させることが大切だ。
「なぜ、資本関係のない個別の企業として生きていくのではなく、同じグループにいるのか」をしっかりと考え、答えを共有することが「グループ経営」の出発点となる。
なお、「分社経営」と「グループ経営」は似て非なるものと認識していただきたい。その違いは【図表2】の通りである。
【図表2】分社経営とグループ経営の違い
タナベ経営では、グループ経営における各社の課題や障壁について2021年4月にアンケートを実施した。その結果の一部を紹介しよう。
グループ経営体制を導入している企業における運用状況および課題について、最も多かったのは「事業会社それぞれの最適化が優先され、グループ全体最適の戦略推進ができていない」(24.1%)ケースである。
このような場合、グループ本社における経営企画機能の強化、特にグループ全体のシナジー発揮による方針・戦略策定や事業会社に対する評価の再構築が求められる。
また、「グループ全体で間接業務が重複しており、オペレーションコストのムダが生じている」(15.2%)、「予算・業績・人材のマネジメントが各事業会社で完結しており、グループ全体のマネジメントシステムになっていない」(13.9%)といった課題を抱える企業も多く、グループ本社と事業会社間での業務役割分担を再設計することが求められる。
グループ経営を行う場合の障壁については、「グループ経営企画機能(もしくは経営企画人材)の不足」「事業会社の経営者人材の不足」(ともに16.9%)が最も多い結果となった。グループ全体および事業会社を俯瞰して担うことができる人材の不足、または育成できていないことが原因と推測される。加えて、グループ経営の実践が人材に依存しており、進んでいない現状も示していると言えよう。
さらに、「各社のマネジメントルール・システムの統一の難しさ」(15.7%)、「グループ経営の全体戦略設計ができない」(14.5%)も代表的な課題と言えるだろう。
人材に依存せず、仕組みでグループ経営を実践することを目指しているが、各事業会社のマネジメントルールやシステムがバラバラで、どのように統一していくべきかが明確になっていないと推測される。グループ全体の戦略設計ができていないことが、ロードマップを描けない結果につながっているのである。
グループ経営の課題をまとめると、大きく5つに分類される。
〈グループ経営の課題〉
①グループ全体としての経営方針や戦略がないままグループ経営を行っている。
②その時々の判断で分社化やM&Aを進めた結果、子会社数が増加していく一方で、その子会社のマネジメントが追い付いていない。
③グループ本社(ホールディングカンパニー)の権限や影響力が大きく、各事業会社の「部分最適」が優先され過ぎる。
④すでにホールディングスに移行している場合、グループ本社がグループ全体の司令塔として各事業会社に「横串」を通し、経営資源の最適配分や事業評価、実効的な経営管理のプラットフォームを構築する機能が発揮されていない。つまり、ホールディングカンパニーの機能が十分に発揮されていないということである。
⑤事業会社の自律分権を掲げているが、実際には結果管理すらせず放任状態に陥っている。もしくは任せる適材適所の人材(経営者人材)が不足している。