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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2021.07.01

ウィズコロナでアップデートする世界:総括 後編【Vol.5】

コロナ禍によって世界中のフォーマットが変容を求められる中、経営者はコロナ後のニューノーマル(新常態)といかに対峙すべきか。本誌では、過去3回(2021年3~5月号)にわたって、タナベコンサルティンググループのトップである若松孝彦が、世界5カ国のビジネス専門家とZoomで行った緊急ディスカッションを「ワールドレポート」としてお伝えした。前回(6月号)に続き、今回は提言の後編をお届けする。

 

 

タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦
タナベ経営グループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

“Digitize or Die”
「デジタル化か、死か」

 

本企画(ワールドレポート)のディスカッションの中で、米・ニューヨーク在住のビジネスパートナーは次のように言いました。

 

「企業規模にかかわらず、かつてないような経営環境の大変化(コロナショック)にはデジタル化で対応するしかありません。過激な表現ですが『DXができない企業は死ぬしかない』と私は思います」

 

非常に印象に残ったメッセージでした。新型コロナ感染者数(累計)が世界で最も多く、現在より厳しい状況だった米・ニューヨークにいるからこその言葉です。これが米国の現実であり、緊張感なのだと実感しました。「緊急事態宣言」が発出されても、通勤や外食、小旅行などができる日本とは異なります。彼が「過激な表現」と前置きした上で「Digitize or Die(デジタル化か、死か)」と言わざるを得なかったのは、コロナショックに対する高い危機感からです。

 

2018年にマイクロソフトのシリコンバレーオフィスを訪問した際、私は「Microsoft Teams」を活用したカスタマーサクセス(顧客の成功体験づくり)型のソフト開発に関するプレゼンテーションを受けました。開発発表の最終段階であったと記憶しています。結果的にコロナ禍の今、Microsoft Teamsは世界中で爆発的に拡大しています。米国で起こっているビジネスのトレンドは、約2年後に日本でも起こるのが常ですが、今はデジタル領域に関しては、コロナショックのためほぼ同時化していると言えます。

 

 

「世界同時リセット」後のアップデートが始まった

 

コロナショックがもたらした「世界同時リセット」現象によるビジネストレンドをワールドレポートで振り返ると、次のようなアップデートが起きています。

 

日本と同様に米国(ニューヨーク、シリコンバレー)でも、ウェブ会議システムのZoom(ズーム)や電子署名サービスのDocuSign(ドキュサイン)といった、在宅勤務でもシームレスに業務を遂行でき、チームでの共創も可能にするテクノロジーが発達しました。また、リアル店舗を展開してきた小売店は、来客数の減少を穴埋めするために、オンライン販売のプラットフォーム整備を大幅に加速。多くのレストランも、オンライン注文システムとアプリ、カーブサイド・ピックアップ(ECサイトで注文した商品をリアル店舗の駐車場で受け取るサービス)などを導入しています。

 

デリバリー専用レストランや個人のスマートフォンからメニューにアクセスできるタッチレスメニューなども登場し、ジムやダンススタジオは、Zoomを使用したオンラインクラスを開催。自動車販売店は、顧客がオンラインで自動車の内外装をチェックして価格交渉を行い、販売店が顧客の自宅まで試乗車を届けるサービスを始めています。

 

中国(上海)の新しいトレンドの1つ目は「ライブストリーミング販売(ライブコマース)」。ウェブを介してライブ動画で商品を紹介しながら販売するスタイルで、「ブロードキャスター」と呼ばれるKOL(Key Opinion Leader:インフルエンサー的な存在)のトップスリーは、この販売方法で1日14億6000万ドル以上を売り上げています。

 

2つ目が「知識消費の急増」。コロナ禍前から知識消費は増加傾向にありましたが、コロナ期間中に爆発的に増加。リアルで行われていた教育がオンラインプラットフォームに乗ってきただけではなく、書籍やフィットネスといった学習商材もこれまで以上の顧客を獲得し、新たなラーニング習慣の形成につながっています。

 

英国では、Starling Bank(スターリング銀行)というチャレンジャーバンクが、口座を持つ顧客が信頼する友人や隣人などに預けられるクレジットカードを発行。顧客本人が店舗に行けない場合、代理人が買い物をしてこのカードで支払える仕組みをつくりました。

 

モバイル通信機器の充電ステーションで欧州最大のネットワークを持つChargedUp(チャージドアップ)は、「CleanedUp(クリーンドアップ)」という新ブランドを立ち上げて手指の消毒ステーションを展開。アルコール系とノンアルコール系の除菌液を供給するディスペンサーを月間1000台以上のペースで生産し、サービス拠点を拡大しています。

 

また、英国の病院をはじめとする医療施設はほぼ公的機関なので、患者のカルテはデジタルで集積され、どの医療施設も同じデータを共有しています。たとえ出張先で発病しても、その地域の病院やクリニックへ行けば、かかりつけ医が記録したカルテに基づく診察を受けられるのです。

 

このような環境もあり、リモートで医療関係のサービスを提供する英国のビジネスは好調です。成功事例として挙げられるのはLloyds Pharmacy(ロイズ・ファーマシー)の「Echo(エコー)」というアプリ。ユーザーが簡単な設定をするだけで、常用薬の電子処方箋が無料で配信され、その処方箋に基づいて薬も配送される仕組みです。

 

また、Babylon Health(バビロン・ヘルス)は、スマホアプリの「GP at Hand」を使って患者がオンデマンドで医師とビデオ通話をすることができるシステムを構築。このアプリはAIによるチャットボット(自動会話プログラム)を使って医療に関する質問に24時間対応しています。

 

BtoBサービス領域では、企業で働く従業員のメンタルヘルスを維持・向上する「Unmind(アンマインド)」というプラットフォームが好評です。マインドフルネス瞑想から認知行動療法によるメタファー、睡眠音楽、ストーリーテリング、ヨガ、健康レシピまで、多様なインタラクティブツールとオーディオエクササイズプログラムを提供しています。

 

以上のように、英国では医療関係や医療関連IT、国家や地域レベルでのフードバリューチェーン、IT・デジタル化・自動化、オンライン小売業、物流・フリート(車両運行)管理サービス、セキュリティー・安全管理サービスが成長しています。

 

ドイツでもメディカル領域の革新は増えています。Medlanes(メドレーン)という企業は、ウェブサイトやアプリを使って往診を頼むことができ、診療後もアプリを使って医師と連絡を取ることが可能なサービスを、国内24都市で提供しています。また、TeleClinic(テレクリニック)は、医師と直接ビデオ通話ができるアプリを提供。診察後に処方箋や診断書をアプリから入手でき、診療費の決済もアプリ上で可能にしました。

 

世界では、BtoB、BtoCともに「生産性・便利さ」「健康(医療)・安全」という価値と、その価値を届けるためのマーケティングを追求した新しいビジネスモデルにより、社会生活そのものがニューノーマルにアップデートし始めています。コロナ禍の「生命」は、既成概念・既得権益・制度などを破壊しなければ守れないからです。世界が同時リセットした後の、日本より高いレベルでのアップデートを、私はこうした事例から実感しました。