コロナ禍における販促施策の傾向
企業は、自社ブランドまたは自社で展開するブランド商品の価値を最大化するために、その時の課題や目的に合わせてプロモーション活動を行う。主旨・目的は大きく次の4つに分けられる。
(1)ブランド認知度向上
(2)購買促進(売り上げ加速・拡大)
(3)新規顧客獲得
(4)リピート顧客の囲い込み(ファンづくり)
競合他社あふれるブランドの中でナンバーワンを目指すために、各企業はイベント開催やキャンペーンの立案、プレミアムインセンティブやノベルティーグッズの企画・開発、店頭POP展開などのプロモーションを行ってきた。
しかし、コロナ禍によって人がリアルで対面する機会が減った今は、「非接触型」のアプローチが当たり前の時代となった。強化すべきプロモーションのツールも大きく変わったのである。
リアルで展開する展示会やイベントは中止となり、展示会ブースの設計や来場時に配布する従来のノベルティー施策の機会は大きく減った。一方で、人が直接的に会わずともプロモーションを行えるツールは急成長した。インターネット広告や動画制作、SNSを活用したオンライン上での集客などである。デジタル化の加速により、顧客とのコミュニケーション手法が変化したのだ。
ストーリーとデザインの必要性
世の中のプロモーションの流れを理解した上で、慎重に進めていきたい点がある。
多くの企業が同じようにデジタルツールを強化していく中、いかに自社のブランドを差別化できるかが重要なポイントになってくる。ただデジタルシフトを進めていくのではなく、「コミュニケーションの手法をどう設計すれば、伝えるべきことが伝わるか」を、背景にあるストーリーをつかみながら設計していく必要がある。
IT関連企業A社では、CSR活動の一環として自社の顧客や社員に向けて、その時々に応じた備品を配布している。除菌アルコールウエットティッシュや繰り返し洗えるマスクなどを配ることにより、コロナ禍で不安を抱えながら暮らす顧客やその家族に、少しでも安心して過ごしてもらいたいという思いが込められている。
オンライン上で顧客とのタッチポイントを増やすことも必要だが、最も重要なのは、ストーリーを描き、「伝えたい思い」を明確にデザインして、その思いが反映されたツールを活用して伝えることである。デジタルかアナログかといった手段にとらわれることなく、ブランドストーリーを描ける方法を選択することが課題解決につながる。
食品宅配サービス事業を展開するB社は、オンラインでの集客プロモーションに加え、新規会員加入特典としてノベルティー配布を強化した。ノベルティーは、ターゲット会員である主婦層が喜ぶキッチン回りのアイテムである。
誰もが知っている認知度の高いブランドとコラボレーションした、色彩豊かな野菜のイラストが施されたデザインだ。結果、アイテムもデザインも非常に好評で、リピート購入につながっている。
ブランドストーリーに沿い、かつブランド同士の親和性などコンセプトがマッチし、互いの付加価値を高めることができるコラボレーション手法による施策や、人と人の対面が制限されている中での温かみを感じるツール展開は、他社との差別化を図る手段になる。
ただ、どのような販促ツールを選択しても、ブランドイメージとツールのデザイン設計が異なっていたり、ブランドの背景やストーリーをきちんと理解した上で体現できていなかったりすると、成功にはつながらない。
商品やサービスの魅力を正確に伝え、潜在ニーズを満たすことで購買行動を促すことが重要であり、そのためには手順を踏んだデザイン設計が必要である。
【図表1】施策設計前に押さえるべきポイント
差別化するためのデザイン設計
販促ツールを選定し、デザインや形状を設計するに当たって、事前につかんでおくべきポイントがある。(【図表1】)
まずは自社のブランドをあらためて認識し、理解する。ブランドの歴史やコンセプト、ベネフィット、ターゲット、トーン&マナーなど、思いつく限りの材料を棚卸しし、ブランドが目指すべき方向性や課題について明確にしておく必要がある。その上で、最もブランドの魅力を伝えられるツールとデザインを設計していく。
ブランドを理解・考察するための材料の洗い出しは、【図表2】にあるキーワードを参考にしていただきたい。その後、洗い出した材料を基に、ターゲットに響くツールやデザイン案を設計する。「なぜそのツールなのか」「なぜそのデザインなのか」、つまり「何を、誰に、どう伝え、どうなりたいか」というメッセージをいかにデザインに落とし込み、分かりやすく可視化するかが、課題解決の重要なポイントになる。
【図表2】販促ツールの選択とデザイン設計の流れ