帝国データバンク「新型コロナウイルス関連倒産」(2020年12月1日)によると、倒産件数(累計)は全国で757件。業種別の上位は「飲食店」119件、次いで「ホテル・旅館」68件、「建設・工事業」51件、「アパレル・雑貨小売店」48件と続く。また、建設経済研究所と経済調査会経済調査研究所が公表した「建設経済モデルによる建設投資の見通し」(2020年10月)では、2020年度の建設投資(全体)は63兆8500億円(前年度比2.3%減)、2021年度は58兆1800億円(同8.9%減)を見込んでおり、今後マーケットが縮小し、競争がますます激しくなることが容易に想像できる。さらに、コロナ禍以前からの課題である建設業の生産労働者の高齢化や、高求人倍率による将来的な就業者不足も深刻だ。これらを踏まえると、建設関連企業の経営体質の転換は急務である。
転換のポイントは3つある。1つ目は「利益重視の経営へのシフト」。売り上げよりも利益を重視し、労務費や経費、材料費などを見直し、収益力を向上させる。2つ目は「売り上げのベース化」。建物を建てて終わるのではなく、運営やリニューアル・保守・修繕など、ベース売上高につながる可能性のある事業を手掛ける。3つ目は「10年後を見据えたイノベーション」。10年後の自社のあるべき姿を定義し、そこを起点にした中長期的なビジョンを持つことだ。
リーマン・ショック時と同様に、建設業界が新型コロナウイルス感染拡大の影響による大きなインパクトを受けるのは、他産業より遅れて半年から1年ほど後だと予想される。この期間にどのような対策を打つのかが、自社の未来を左右するだろう。
竹内 建一郎
2019年1月、創業100年を迎えた前田建設工業。アニメなど架空の世界の建造物を、もし本当に受注し、建設するとしたらどのような工期・工費になるかを公表する当社のウェブコンテンツが話題となり、2020年には同コンテンツを題材とした、映画「前田建設ファンタジー営業部」が公開された。映画で描かれたように、会社と従業員が仕事のしやすい関係であるかを大事にする企業文化が当社にはある。
当社が事業戦略として「脱請負」へ乗り出したのは2014年。請け負いの事業は外的要因に左右されること、世界の競争力のある建設業の企業は、請け負い以外の事業で利益を得ている事実に気付いたからだった。
ビジネスモデルを変えるために、まずは経営戦略を見直した。戦略を立てるときに議論のポイントとしたのは「100年後どんな企業でありたいか」。そこからバックキャスティングで10年、3年、1年と期間を定めた計画へと落とし込んだ。
請け負い以外の事業を創出するために目標としたのは「総合インフラサービス企業グループ」になること。施工の企画・計画から運営・維持管理まで事業領域を広げて付加価値を高め、総合的にインフラサービスを提供するグループを目指すビジョンだ。ノウハウがない新しい領域では、世界でも競争力のある企業とパートナーシップを組んだ。当社の中長期経営計画をしっかりと示すことで協力を得ることができた。
今後10年を見据えた戦略は3つ。1つ目は「生産性改革」。従業員一人一人の1時間当たりの付加価値をいかに上げていくかを、最も重要なKPI(重要業績評価指標)にしている。営業利益・人件費・研究開発費・減価償却費などを従業員の総労働時間で割る算出方法を採り、総労働時間を小さくするほど付加価値が上がるように設計した。
2つ目は「脱請負事業の全社的推進」である。先述した総合インフラサービス企業グループとなるため、ビジネス領域を広げて新たなビジネスモデルへの進化を目指す。
3つ目は「体質改善」。封建的ヒエラルキーはイノベーションの妨げになる。持続的成長を遂げる企業体質・文化への昇華を目指し、社内コンペの実施や、人事・教育・育成など社内制度の整備などを行っている。
素晴らしい戦略さえあれば企業が成長できるとは考えていない。社員が自発的に自由に行動できるような仕組みをつくることを重要視し、当社らしい改革を進めたい。
岐部 一誠氏
2020年7月30日、内閣府は国内景気が2018年10月をピークに後退局面に入ったことを認定した。暫定的ではあるものの、これは、71カ月続いたアベノミクスの景気拡大が終わったことを意味する。加えて、全世界・全業種が、予期せぬ感染症の影響を受け、景気の潮目は大きく変わった。
このような環境で、どのように自社を変えていくのか、そのヒントは本日の講義にある。公共工事にターゲットを絞り、勝てる組織をつくり上げたフクザワコーポレーションと、請け負いの建設仕事だけでなく、施工の企画・計画から運営・維持管理まで事業領域を広げて「総合インフラサービス企業」へと転換した前田建設工業。いずれも一定の利益を生み出せるビジネスモデルに変化させ、持続的成長を見据えた企業文化・職場環境・組織体制などを整備した建設企業が成功している。
「ピンチはチャンス」。大きな環境変化が起こっている現在は、自社を変化させやすいチャンスのタイミングでもある。本フォーラムに参加した皆さまが、「自社を丸ごとアップデートした」と言えるほどの大改革を起こされることを祈念したい。
齋藤 正淑