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コンサルティングケース
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TCGのクライアントが持続的成長に向け実践している取り組みをご紹介します。
コンサルティングケース 2020.10.22

ナカリ:社員ハピネスを実現する年輪経営で次の100年へ

 

 

オールライスメーカー®として日本の食文化を支えるナカリ。堅実経営を継続する同社は近年、ジュニアボードで鍛えられたメンバーが中心となり、インナーブランディングを推進。社員を幸せにする企業を目指して次代に挑む。

 

堅実経営に徹し事業拡大と多角化を推進

 

日下部 コメは日本人にとって主食のみならず、清酒・焼酎・煎餅・みそなどの原料として日々の生活に深く浸透した“食の原点”と呼べる存在です。ナカリは主食用から加工用に至る全ての国内産米穀を提供する「オールライスメーカー®」を掲げ、加工用となる特定米穀の取扱量は日本一というニッチトップ企業です。まず、会社の概要をお聞かせください。

 

中村 1923年に初代・中村利三郎が肥料の販売と米穀の集荷を始めたのが事業の起点です。社名のナカリは創業者の名前に由来します。先の大戦下では旅館業への転換を強いられますが、戦後に事業を再開し、農林省(当時)指定の米穀集荷指定業者となって事業を展開。現在は、米穀を集荷、保管、加工、販売するオールライスメーカー®として日本全国へ販売網を広げてまいりました。

 

また、1982年に米穀小売会社のタカラ米穀、1989年に不動産総合コンサルタント会社のナカリエステート、1991年には宮城県初の大型炊飯センターとなるボン・リー宮城などを設立し、ナカリグループを形成しています。

 

日下部 オールライスメーカー®へと成長した原動力は何でしょうか。

 

中村 まず、農林省の指定業者という立場に早くから危機感を覚え、特定米穀の商品化や設備投資などを意欲的に行ったことが挙げられます。その危機感は的中し、1995年に新食糧法が施行され、届出さえ行えば誰もが自由にコメを販売できるようになると競争が激化。旧態依然とした事業を続けていた会社は次々に淘汰されました。

 

もう一つは、堅実経営を徹底したこと。堅実経営には内部留保の蓄積が必要不可欠です。当社の歴代の経営者は「利益を内部留保として残し、会社の土台を築く。また、設備投資を意欲的に行う」という高い志を代々継承しています。

 

日下部 内部留保の蓄積に注力するのはなぜですか。

 

中村 コメは年に1回しか収穫できず、その量も不安定な商品なので、秋に集中して大量仕入れをすることで、通年の安定供給が可能になります。当社の特定米穀の取扱量は3万tで日本一です。しかし、コメは相場商品なので価値の浮き沈みが避けられません。過去に10億円の在庫を確保していたものの、相場が暴落して5億円の評価損を出したこともあります。内部留保を充実させて「3年間で6勝4敗なら問題なし」といった考えを持たないと、このビジネスは成り立ちません。

 

日下部 内部留保した資金はどのように活用されているのですか。

 

中村 まず、投資です。2019年は主食用米の新工場や太陽光発電などの設備をはじめ事業用不動産などへ売り上げの約半分を投資しました。こうした積極投資を継続することによって、不動産部門とエネルギー部門が拡充し、米穀事業に続く事業の柱を確立することができています。堅実経営を徹底し、業界のファーストコールカンパニーであることを追求していく――。このような企業姿勢を社員と共有できているところが当社の強みだと思います。

 

 

ナカリ 代表取締役社長 中村 信一郎氏
1964年宮城県中新田町生まれ。1986年東北学院大学経済学部卒業。1988年中利商店入社(2001年ナカリへ社名変更)。2011年ナカリ代表取締役就任。2013年タカラ米穀代表取締役、2016年ボン・リー宮城代表取締役。大崎倫理法人会会長、全国米穀工業協同組合監査役。

 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 副支社長 日下部 聡
「現場第一、先行思考、情熱主義」をモットーに、各企業の業績改善・体質改善に取り組み、多くの実績を残している。専門分野は経営戦略構築、営業強化、人材育成による組織活性化。

 

ジュニアボード出身者が改革のプランを策定

 

日下部 次に人材育成の取り組みについて教えてください。

 

中村 当社は社員の教育に並々ならぬ力を注いできました。そのベースになっているのが40年間継続する活力朝礼です。毎朝実施している活力朝礼は、社風づくりやチームワーク醸成のベース。職場の活力、社員の成長意欲向上を目指す場であり、どこにも負けないと自負しています。

 

当社の経営計画書の「見える化」活動取り組みフロー(【図表】)においても、経営理念に共感した社員が、活力朝礼を通して向上心のある社会人としての基本を修得し、経営計画の明確化に務めて、ナカリの事業活動を「見える化」することで、お客さま、社員、調達先をナカリファンにする流れを明示しています。

 

 

【図表】ナカリの「見える化」活動取り組みフロー

※ISO14001(環境への活動)、ISO9001(生産のマニュアル化、ルール化、要求事項の達成)に取り組んでいる

 

 

日下部 社員や調達先もファンになってもらうと示していることに先見性を感じます。

 

中村 2年前に社員と調達先を加えました。それまではお客さまのみで良かったのですが、今や社員満足・調達先満足がなければ会社を成長させることはできません。特に力を入れているのは社員満足ですが、タナベ経営からは「社員ハピネス(Employee Happiness)」の域まで達すべきとアドバイスされています。経営者は大変な時代になったと感じますね(笑)。

 

日下部 全てのステークホルダーにとって価値のある企業を目指すべきと気付き、すぐに行動に移す中村社長の柔軟性とスピード感は素晴らしいと思います。ホームページのトップに登場する「いい会社をつくろう!!」もインパクトのある言葉ですね。

 

中村 「お客様の声に応え、心をひとつにして、業界No.1のファーストコールカンパニーを目指す」という全社スローガンを掲げています。それを端的に表現したのが「いい会社をつくろう!!」です。社員が定義した具体的な「いい会社」像もホームページに載せました。

 

日下部 人材育成の目的や仕組みなどに変化はありますか。

 

中村 企業規模の小さな時期は経営者が大きなリスクを背負わねばならないので、上意下達のトップダウン型で会社を運営していました。「細部の仕事まで社長が熟知していて、社員は社長の言うことに従えばまず間違いない」という時代です。

 

しかし、私が経営者になったころから企業への要求事項がどんどん多様化し、現在ではお客さまにコメを販売する際、米トレーサビリティー法やJAS法、商品レシピ、産地情報、残留農薬など多岐にわたる情報の収集・分析が求められるようになりました。もはや社長一人の能力で対応できる範囲を超え、社員は「社長の指示をじっと待っていれば良い」状況でなくなったのです。

 

こうした時代のポイントは、中間管理職が経営陣と社員の双方向へ「あるべき論」「目的にすべきこと」「目的達成までのストーリー」などを伝え、共有を促進させること。このような体制づくりを目指し、タナベ経営の指導の下でジュニアボード(JB)を2010年に1年間取り組みました。

 

日下部 JBの具体的な活動内容をお聞かせください。

 

中村 セクショナリズムなどに起因する社員の温度差をなくすことを最重要課題として一元集約に取り組み、意識改革と個人の役割の明確化に向けたさまざまなアクションプランを策定・実施してきました。これが今では会社の方針になっています。

 

現在進行中のアクションプランは「目的の共有と、目的を達成するまでの『ストーリー』の共有」で、さらに「共有」から「共感」「納得」までの深化を狙っています。言い換えれば「活動の体温を上げよう」と訴求しているのです。そのためには心を駆り立てるような要素が必要になるので、「褒め合う」ことを促進しています。

 

日下部 JBから派生したアクションプランを10年間地道に継続してきた成果ですね。JBの対象となる中間管理職が、学んだ内容をかみ砕いてアクションプランの策定から運営継続までを実現している事例はなかなか見ません。

 

中村 共有から共感、納得へ深化すると、自立的に考えて行動する社員が増えていくでしょう。そして「仕事を通して成長し、社会の役に立っている」と感じることができたら、社員ハピネスの実現につながると思います。

 

日下部 自立的な社員が増えると社長の役割は変わるのでしょうか。

 

中村 会社を野球チームとすれば、以前の社長はピッチャーで4番のキャプテンのような役割が求められていました。しかし、これからは補欠のキャプテンでも良いのです。自分よりプレーのうまい選手をきちんとマネジメントして勝利につなげる。そうすればプレーヤーの質は高まり、勝利のストーリーを共有、共感、納得することで群を抜いた強豪チームになれるはずです。

 

日下部 社員がこれほど真剣に取り組む理由は何だと思われますか。

 

中村 「ナカリで働くことが幸せにつながる」と感じるからではないでしょうか。以前、全社員の20%近くが辞めたことがありました。そのとき、「内部留保を高めて世間の評価は上がったけれど、社員からは全然評価されなかった」と気付いたのです。そして、どうすれば社員から評価されるか、社員に幸せを感じてもらえるかを考え抜いた末、「社員のためにできることは何でもやってみよう」と決断しました。それが社内の活性化につながったと思います。自分では「やぶれかぶれ戦法」と呼んでいましたが(笑)。

 

インナーブランディングを推進したことも活性化の大きな要因です。社員の会社への理解度が高まりました。

 

 

インナーブランディングが顧客満足度を高める

 

日下部 インナーブランディングへの取り組みについて教えてください。

 

中村 会社として社員教育をしっかりと行ってきたつもりでしたが、「社員は会社のことを意外に知らない」という現実に気付きました。中小企業は社員数が少ないので、どうしても専門化してしまい、仕事を変えると専門性が薄れるので同じ仕事に長期間携わることになります。すると自分の仕事以外は「他人事」になってしまい、興味を抱かなくなるわけです。そんな状況に危機感を覚えたのが、インナーブランディングをスタートするきっかけになりました。

 

最初に取り組んだのがホームページの作成。社員が協議を重ねて「社員とその家族・友達にナカリを知ってもらうためのホームページ」をテーマに去年の春から作成に着手し、徐々に精度を上げて現在のホームページに至っています。

 

日下部 その成果はいかがですか。

 

中村 外部の方からも「非常に魅力を感じる」と好評を得ています。就職活動を行う学生も、志望する会社を探す際はまずホームページにアクセスするので、効果が期待できます。情報の見える化も徹底的に進めており、「もう隠すところがない」と感じるほどオープンにしているつもりです。

 

日下部 どのようなメンバーがインナーブランディングを推進しているのですか。

 

中村 JBのメンバーが自発的に集まった「組織活性部」です。ここでは「団結」をテーマに、未来を想像しながらインナーブランディングを強力に推進。経営方針書の具現化を目指し、毎月の会議で真剣な意見交換を行って打つべき手を考え、実行しています。これらの積み重ねが自然と社外のステークホルダーに対するアウターブランディングへとつながっていくと考えています。 会社の課題を「自分事」として捉えて対策を練り、社長も巻き込んで全員で解決していく。責任は社長が取る。この方針を貫いています。

 

年輪経営で強靭な企業体質を築く

 

日下部 目指すべき姿と今後の展望をお聞かせください。

 

中村 社員が「働いてワクワクするような会社」にしたいですね。自分が頼りにされ、仕事を通してやりがいが育まれ、自己実現を達成できる――。そんなワクワク感があって心が通じ合う関係を会社と社員で築き上げていきたいです。そのためにもインナーブランディングの精度を上げ、中間管理職に火を付けて巻き込む仕組みを確立したいと思います。

 

そして「one for all, all for one」という考えが深まれば、ステークホルダーとの関係も最適化され、「業界No.1のファーストコールカンパニー」になれるでしょう。

 

米穀関連産業は「残り福産業」で、国内では生産者も消費者も取扱業者も次第に減少していきます。このような環境下で未来への投資を充実させ、社員の自立性を向上させた企業が負けるはずはありません。老舗ならではの「年輪経営」で強靭な体質をつくり上げ、どのような高波も乗り越えられる企業を目指します。

 

日下部 2023年に創業100周年という大きな節目を迎えられます。

 

中村 創業からの100年間は過去の出来事。それに対してステークホルダーが興味を抱くのは、未来への可能性です。そこへ向かって経営資源をいかに配し、ファンを獲得するかを熟考・実行していきます。

 

日下部 その思いが「新たな歩みを、変わらぬ心で」という創業100周年のスローガンに込められているのですね。盤石な年輪経営で、次の100年を切り開かれることを祈念いたします。本日はありがとうございました。

 

約40年続く活力朝礼は、職場の活力の源

 

2019年完成の主食用精米工場。「異物管理日本一」を目指す

 

PROFILE

  • ナカリ(株)
  • 所在地:宮城県加美郡加美町羽場字山鳥川原9-28-4
  • 創業:1923年
  • 代表者:代表取締役社長 中村 信一郎
  • 売上高:170億円(グループ計、2019年7月期)
  • 150名(グループ計、2019年7月末現在)