機能性ゴムを軸に事業領域を広げる
コンクリート地下構造物の打継止水材として広く採用される「スパンシール」を筆頭に、ゴムの機能性を生かした製品開発で業界をけん引する早川ゴムは、2019年に創業100周年を迎えた。
1919年にゴム草履の生産・販売で創業して以降、再生ゴムや工業用ゴム製品へと事業を広げた同社は、技術力を磨きながら高機能なオンリーワン製品を次々と世に送り出してきた。開発型企業として順調に成長を遂げた秘訣を、代表取締役社長の横田幸治氏は、「創業以来、受け継がれるチャレンジ精神と創造性にある」と話す。
「100年の間に、実にさまざまな事業にチャレンジしています。一時はボウリングボールやゴルフボール、ゴルフシューズなども手掛けていました。失敗を恐れずに挑戦する積極性はもちろんですが、環境を見てスパッと撤退する経営判断も当社の特徴。実際、ボウリングボールは設備投資をしたにもかかわらず、わずか3年で撤退したと聞いています」(横田氏)
ゴムの機能を生かせる分野であれば、どんどん挑戦する姿勢は今も変わらない。すでに土木・建築分野においては、同社製品の使用を想定して設計図が引かれることも珍しくないほど確固たる地位を築いているが、新規事業開拓への意欲は衰えないままだ。
ゴムが持つ止水・防水や防音・防振の機能を生かした製品や、放射性環境製品の開発によって医療分野やエネルギー分野へと事業の裾野を広げる一方、高度なテクノロジーを駆使して用途に合わせた特殊機能ゴムの開発にも注力。スマートフォンやタブレット、ウエアラブル端末、車載メーターをはじめ、最先端分野における製品開発にも大いに寄与している。
新たな人事制度と教育で次世代の人材育成に注力
100周年を迎えてなお、未知なる領域へのチャレンジ精神を失わない。その姿勢は、2019年に刷新された経営理念にも表れている。
「2019年の社長就任時『温故挑戦』を新たな経営理念としました。それまで3年間にわたって100周年記念事業を展開しており、その旗印が温故挑戦だったこともあり、全社員に浸透しています。故事成語の『温故知新』と『挑戦』を組み合わせた造語に、『過去に学び、これまで以上に挑戦していこう』という気持ちを込めています」(横田氏)
新たな体制と経営理念の下、さらなる成長に挑む同社が力を注ぐのは、100年先までバトンをつなぐ人材の育成。特に、経営幹部の育成には力を入れており、タナベ経営の「幹部候補生スクール」には7年継続して複数の若手人材を派遣している。
「メーカーとして生産現場の改善提案制度を1981年から続けており、今では年間3000件の改善提案が寄せられるなど、改善活動は企業文化になっています。一方、経営幹部の高齢化が進んでおり、次世代の幹部をどう育成するかは課題でした。幹部候補生スクールの良い点は、他社・他業種の方と一緒に学ぶことで自分を冷静に見つめ直す良いきっかけになること。続けることで参加者の中から幹部人材が育っています」
こう語るのは、取締役総務部部長の村上隆博氏だ。自身もタイ赴任から戻ってすぐの2013年に、同社がタナベ経営とともに実施した社内の管理職研修に参加している。また、幹部候補生スクールに参加経験のある総務部人事課兼総務課課長の三島平敬氏は、「課題も多く大変でしたが、良い経験になりました。参加者同士の交流は今も続いています」と話すなど、成果を実感している。
次の100年に向けてチャレンジをスタート
さらに、ここ数年重点を置くのが新入社員教育だ。以前は1カ月ほどだった研修期間を数カ月から半年に延ばし、ゴムの製造なども含めた学びの機会を提供している。
「スキルや知識を学ぶだけでなく、社員同士のコミュニケーションや当社の製品に肌で触れる機会をつくりたいとの考えから、少し時間をかけて実施しています。そもそも、学校教育でゴムについて学ぶ機会はほとんどありません。ゴムがどう作られるかを実際に見て、触れてもらうなど、基礎を大切にしています」(村上氏)
また、人材育成の土台となる人事処遇制度についても再構築を進めているところだ。
「既存の制度は策定から30年ほどたっており、単線型の賃金制度のままで、第一線で活躍する人材の処遇が現状とそぐわない部分が出ていました。新制度では面談や上司からのフィードバックが評価・処遇につながる、人材育成に主眼を置いた制度設計を目指しています」(三島氏)
同社が求める人材像は「自由な発想で絶えず前進し、世界に挑戦する人材」。新たな人事制度や社員教育を通して次世代を担う人材を育成しながら、早川ゴムは次の100年への1歩を踏み出した。
「中期経営計画に『Go to Next 100!!』という言葉を入れ、2020年3月に製品ごとの収益を見える化する新たな基幹システム(FRePs)を導入しました。この先の10年は、最新のテクノロジーを活用しながら、強みであるマーケットインの事業開発によって100年先の礎を築いていきたい。それが私の役割だと考えています」(横田氏)
PROFILE
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- 早川ゴム(株)
- 所在地:広島県福山市箕島町南丘5351
- 創業:1919年
- 代表者:代表取締役会長 早川 雅則、代表取締役社長 横田 幸治
- 売上高:97億7300万円(2019年12月期)
- 従業員数:363名(2020年4月現在)
タナベ担当者より
2019年に創業100 年を迎えた早川ゴムは、同年を「温故挑戦」元年と位置付け、次の100年を見据えた成長へと挑戦している。履物メーカーとして創業し、第2次大戦中に再生ゴムの技術を確立。その技術をベースに、土木止水材や屋上防水材、住宅防音材や工業用ゴム製品を展開。ゴムづくりのノウハウをさまざまな分野に生かし、撤退と創造を繰り返しながら強い企業体質を築いてきた。
創業以来培ってきたベンチャー精神とコア技術を多彩な分野に生かしながら、「過去に学び、未来に挑戦する“温故挑戦”」の精神でチーム一丸となり、今後も成長していくだろう。