ブランディングの認識を改める
新型コロナウイルスによる感染拡大を受け、「一時期は業績が落ちていたが、徐々に回復してきた」という会社と「厳しい状態のままだ」という会社が出てきた。これは「選ばれた会社」と「選ばれなかった会社」とも言え、企業の持つブランド力が関係している。日本企業が持つ固有のイメージは「Made&in&Japan」といわれ、世界から高い評価を受けているが、“日本製”にどれだけのブランド力があるのだろうか。
2018年、私がイタリアのミラノに視察に行った際、Made in Japanの弱さを痛感した。ミラノには同じような商品を生産する地域がある。そのうちの1社のマネジャーに、周辺のライバルとどのように差別化を図っているかと質問したところ、「この地域の同業者は競合他社ではなく、リスペクトする相手である」との返答だった。他社と切磋琢磨しながら自社の価値を定義し、その価値を認めてもらえる顧客とビジネスを行うという極めてシンプルなビジネスを行っていた。
日本企業はブランディングが苦手なところが多い。ブランド力の強化となるとロゴ・デザイン・プロモーションの強化が重要と考え、「ブランディングは経営戦略そのもの」という認識ができていない。
あるデザイン会社は、クライアントから「うちの商品が売れるデザインをつくってほしい」という注文を請け負った。しかし、そのデザインを採用した商品はまったく売れず、「どうなっているんだ!」とのクレームが入った。デザイン会社は、「そもそも商品が悪いから売れなかったんだ」と言いたいところを我慢したという。
クライアントには何のコンセプトもなく、ただ商品を多く売って業績を伸ばしたいだけだった。商品への思いはあるが全体の統一感はなく、その場限りの商品開発を繰り返していた。
アフターコロナの社会において、顧客の価値観の分散、業務の自動化、デジタルシフトが加速化する中、今一度自社の方向性について検討し、ブランドコンセプトを策定していただきたい。変化する環境の中、「自社はなぜ顧客に選ばれているのか」という指針を明確にすることができる。ブランドコンセプトを定めることで、アウターブランディングだけではなく、インナーブランディングにも良い影響がある。
【図表1】三つのブランド視点
ブランド資源を棚卸しして価値を分析する
ブランドコンセプトの策定に当たり、まずは自社が顧客に選ばれる理由を三つの視点で整理する。ポイントとなるのが、自社での主観的な部分と外部機関を利用した客観的な分析という二つの軸からギャップを見いだしていくことである。
自社が当たり前と思っている部分でも、顧客視点だと価値がある場合が多い。こだわっている部分が顧客に十分に伝わっていない場合や、顧客にとって“お手頃価格”のものが、従業員は高価なものを販売していると感じているといったギャップがある。これらから自社の本質的な価値が見えてくる。
そして、集めたブランド素材を三つの視点(【図表1】)でつなぎ合わせて新しい価値を生み出す。そこにストーリー性を持たせ、選ばれる理由をつくることが重要だ。「価値」とは、まさしく「価格」に対する「値打ち」をストーリー化することなのである。
全社を巻き込んでブランドコンセプトを策定
最後のステップとして、特定の人・メンバーだけでブランドコンセプトを策定するのではなく、組織横断的にさまざまな階層からメンバーを選定してプロジェクトを進めていく。(【図表2】)ブランディング活動を行う際には、実行・推進するメンバーの価値観の統一が必須だからである。
ある会社はブランドコンセプトを策定するに当たり、若手・中堅・幹部という三つのグループに分けて意見を出し合い、それぞれ自社のブランドとこれからの展開策について意見を出し合った。バラバラな意見の中から、自社が今後追い求めていくものが少しずつ整理され、今、自分たちがやらなければいけないこと、やってはいけないことが明確になった。結果として、社員の会社に対するエンゲージメントが深まり、インナーブランディングの強化にもつながった。自社の熱狂的なファンをつくるためには、それを生み出す社員の力が不可欠なのである。
タナベ経営の創業者である田辺昇一は「経営とはバランスである」と言った。経営理念・目標に向かって、戦略・方針、詳細な計画が立案され、経営資源(ヒト・モノ・カネ)のバランスで企業経営は行われる。そのバランスを取る活動そのものがブランディングと言える。会社は理念と組織(人)で発展し、その総合力がブランド力と言っても過言ではない。いま一度、自社が世の中に提供している価値を再確認し、ブランド力の強化に努めていただきたい。
【図表2】ブランドコンセプトの策定ステップ