ニューノーマル時代にインナーブランディングが人をつなぐ:平井 克幸
不確実性の時代にはブランドの本質が問われる
今や社会は「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる不確実性の高い時代を迎えている。コロナショックはもちろん、過去のリーマン・ショックや東日本大震災を、いったい誰が予想できただろうか。これから10年、20年先の将来を考えても、地震や豪雨などの自然災害をはじめ、未知のウイルスによる脅威や、未曾有の金融危機など、いつ何が起こってもおかしくない。しかも、それらのリスクを予測することは不可能に近い。
こうした環境下において、果たして企業は何を頼りに経営していくべきなのか。よく「企業は環境適応業」と言われるが、先が見えない中での環境予測は、必要性はあっても当てにはできない。むしろ、頼れるものは自社が大切にしている価値観やビジョンとして掲げている世界観になる。こうした価値を創造したい、このような世の中を実現したいという思いであり、それを実現するために何をなすべきかが、企業戦略を組み立てる上での道しるべとなるに違いない。
また、現代社会で「モノ余り・コト不足」という傾向がますます強くなる中、人々がブランドに求める価値はモノからコトへと変わってきた。顧客に品質や機能を訴求してもなかなか響かないが、価値観や世界観に共鳴してもらえれば根強いファンになってくれる。それがブランドのもたらす本質的な価値である。
幸いなことに地球規模での人口増加とともに、目先の浮き沈みはありながらも世界経済は成長を続けていく。コロナショックで悲観的にならず、この機会にいま一度、自社のブランドをコンセプトから見直してみるべきだろう。
現在の主力事業や、今やっていることを中心にコンセプトをまとめると、広がりが乏しいものになりかねない。これからやろうとしている事業、まだやっていないことも含めて、ぜひ未来志向で再定義していただきたい。
コンセプトが表す世界観に社内外からの共感が得られるかどうかも大事だ。特にこれからの時代に必要なのは「社会性の視点」である。CSRやSDGsといったキーワードが示す通り、世の中にとってどんな役に立つのかを明確にしなければ、企業としての存在意義を認めてもらえないだろう。
いずれにしても自社が手掛けているビジネスが単に儲けの手段であってはならない。むしろ、そこにどんな意味を持たせるかによってブランドに輝きを持たせることができるはずだ。会社の未来を開く道標としてふさわしいかを考えてコンセプトを作成すれば、そこがブランディングの新たな出発点になる。