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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2020.04.30

身近な所から生産性カイカクを考える:田上 智則

 

【図表1】 技能の棚卸し

 

 

労働生産性から見る日本の働き方の課題

 

時間をかけて良い仕事を行うという労働観に代わり、より短い時間で効率的に仕事を行う(時間当たり労働生産性の向上)という価値観が重視される一方で、日本の時間当たり労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟36カ国中21位と低い状態が続いている(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2019」)。

 

この状況を改善しようと、残業時間の上限規制や脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)の導入、同一労働・同一賃金を目的に、「働き方改革関連法」が2019年4月より順次施行。法制面においても国が音頭を取り、生産性向上の必要性を叫ばれていることは周知の通りである。

 

有給休暇の年5日の取得義務化などの影響で、今後は会社の営業日に社員が休暇を取ることが増えてくるだろう。そのため、人が休むと特定の業務が止まってしまう状態を放置していると、個人に仕事が付いていることの多い中小企業では、すぐに生産性が低下する。

 

そこで本稿では、生産改善の中でも特に「見える化」に重点を置き、企業の生産性を上げる仕組み・仕掛けを述べていく。

 

 

見える化の意図を正しく周知する

 

私がコンサルティングを手掛けている企業では、まずは業務の洗い出し・棚卸しを進め、これを「見える化」(可視化)することが多い。業務の洗い出しでは、もうこれ以上の要素が出なくなるまで細分化して書き出してもらう。そして、抽出された技能(業務)項目に対し、現状で誰が対応できるのかを見える化する。(【図表1】)

 

もし人事処遇制度の中で、スキルマップ(従業員一人一人の持っているスキルを一覧にした表)を運用している会社は、その項目を活用するか、または参考にすれば、ゼロから技能(業務)項目を洗い出す必要はないだろう。運用に課題がある会社は、スキルマップを「個人を評価する」ツールから、「部門メンバー全体の生産性を上げる」ツールに変えてもよい。私のクライアントは比較的、このパターンが多い。

 

ここで大事なのは、見える化を行う目的を正しく周知すること。目的は、メンバーの多能工化による部門の「生産性カイカク」である。対応可能な技能(業務)を比較し、評価することが目的ではない。抽出された項目に対して優先順位を決め、各個人の年間もしくは半期の目標項目に落とし込むことが重要である。

 

目標管理制度を導入している会社は、この仕組みを目標管理に応用することも可能である。部下は習得予定技能(業務)そのものを目標として置きやすく、上司は部下の技能(業務)項目を目標管理に応用しやすい。適正な目標設定に苦労している会社は、この仕組みを活用すれば具体的な目標を設定しやすいだろう。

 

また、見える化によって目標、達成したときの成果、報酬が明確になれば、やる気の高いメンバーは自分の習得技能(業務)を増やそうとするので、全体的なモチベーションアップにもつなげやすい。(【図表2】)

 

 

【図表2】 評価・教育制度との関係図

 

 

 

 

 

 

必要な技能(業務)は動画化する

 

さらに、技能(業務)の棚卸しのタイミングで、動画化する技能(業務)項目を決めるとよい。会社にとってコアとなる技能(業務)や、早期戦力化の都合上、必要な項目を動画化すると効果が高い。動画化するメリットは、主に次の二つだ。


①若手社員はスマートフォンの普及により、動画を見ることが一般化している。従来ポピュラーだった紙のマニュアルと比べ、手法としてなじみやすい

 

②時間当たりの情報量(映像・テロップなどの文字情報との組み合わせ)が多い。マニュアルなどの読み物は個人の読書スピードに左右されやすく、知識の少ない分野で文字を読むこと自体をハードルに感じる人も多い。動画であれば、受け身でも目や耳から情報が飛び込んできやすい。

 

また、動画化の取り組みは職場コミュニケーションの活性化につなげやすい。基本的に、技能に秀でている人はベテラン社員、動画編集に秀でているのは若手社員の可能性が高い。ある技能(業務)を動画化するときは、ベテラン社員と若手社員を組ませて動画を作成するとよい。動画の作成中は技能(業務)の技術部分に視点が行きやすいため、作成に関わる若手社員の早期成長にも寄与する。

 

さらに、社外向けには採用活動への活用が可能である。近年の新卒者は、上司・先輩の背中を見て学ぶといった習慣を苦手とする人が多い。故に、新卒者は入社したいと思う会社の判断基準として、体系的に技能(業務)を身に付けられる仕組み・仕掛けがあるかどうかを気にする。そんな人たちに対して、「当社には技能(業務)を体系的に学べる仕組みがある」と、アピールの材料にもできる。

 

ぜひ、生産性カイカクを社員個人の処理能力アップだけにとどまらせず、全体的な生産性を上げる仕組み・仕掛けにできるよう各社で模索していただきたい。

 

私が所属する生産性カイカク研究会では、働き方・制度(仕組み)改革、デジタルテクノロジー・自動化、ビジネスモデル改革という三つのアプローチで生産性カイカクを研究している。経営者・経営幹部の方は、ぜひとも参加いただき、共に研さんを深められたい。

 

 

 

 

PROFILE
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田上 智則
Tomonori Tanoue
タナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社後、人事処遇制度構築、中期経営計画策定・実行支援、幹部・中堅リーダー育成の分野に多く携わる。モットーは「ご縁をいただいた企業に対して誰よりも責任を持ち、品質の高いコンサルティングを提供する」。